学園祭

ヨージー

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9.

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 友也は窓の外を見る。空が暗いどのくらい眠っていたのだろう…。
「あとどれくらい時間ありますか?」
「…一時間はないな」
 友也は貴音の言葉に絶句する。
「そうだ、藤田さん!本庄さんを一緒に探していたんです。電話してください」
「無茶を言う。この姿勢から電話を操作しろと?」
 そう、二人は両手を後ろ手に拘束されている。ポケットを探ることすらできない。
「人のこと散々言っておいて本庄さんだって、何もできないじゃないですか!」
「ふん、佐切くんとは違うよ」
 貴音は澄ました顔をしている。
「もういいですよ!」
 友也は下半身をファンに体重を預けながら引き上げ、何度か跳ねた。デニムのパンツから携帯電話が滑り落ちた。
「おお」
 貴音から笑いがこぼれた。友也は体制を整えてから指先で床をかきながら、なんとか携帯電話を捉えた。両手が体の後ろで拘束されているので、ノールックで操作しなくてはならない。頭のなかに画面を想像する。操作の目的は決めていた。記憶の中の最終通話履歴、話が通じるはずだ。友也は自分の感覚を信じて最後の操作を行った。小さく聞こえるダイヤル音。成功だ。
「もしもし、友也か?」
 友也は歓喜する。
「幸也!聞いて欲しいことがある!」
 友也は電話との距離を加味して声を張る。友也はなるべく簡潔に状況を伝えた。しどろもどろしたところもあったが、さすが、幸也、見事に汲み取ってくれた。
「あ、藤田さんから意見が」
「え、一緒にいるのか?」
 友也の言葉は無視される。
「理学部塔って今研究室以外施錠されちゃってるよ」
「…!?」
「犯人の作戦だろうな。下調べはしているようだね」
 貴音がなおも余裕の発言をする。友也は考えを巡らせる。自分が気づいてからどのくらいたったのだろう。二十分以上は経っている気がする。窓の外建物が見える教育学部塔だろう。
「藤田さんは理学部塔の研究室をあたって鍵をお願いします…。幸也は…」
 友也は思い付いた意見を口にする。
「教育学部塔から狙えるか?」
「…ほう。ずいぶん突飛な話だが時間ないし、サークルの演目で道具が手元にある」
「間に合いそうか?」
「すぐ行く」
 幸也が通話を終了させた。
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