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「本を読むくらいなら、走れ、鍛えろ」
そんな父だった。木乃美は本を数ページめくった時点で眠気に負けた。しかし、そんな攻防を何度か繰り返すうちに頭に入った登場人物がいた。人のために尽くす顔を隠したヒーローみたいな人物で、どんな些細な出来事でも困った人に右手を差し出していた。木乃美はその登場人物に憧れたりすることはなかったが、もしかしたら意中の彼がそのヒーローだったとしたら、そう考えると胸が高鳴った。彼とは夜にたまにすれ違った。彼は木乃美に視線すら向けない。たまに彼が木乃美の使うコンビニで買い食いすることもあった。彼の学校では自転車のステッカーの色で、学年が分かる仕様になっていて、人づての調査の結果、彼が木乃美と同じ学年であることが分かり、一人ベッドの上で悶えたこともあった。しかし、彼と一方的に顔を合わせるうちに、全く気にも留められていないことが、木乃美を悩ませるようになっていた。呆けていると父に怒鳴られることもしばしばだった。その問題を解決する糸口は、彼の眺めた本から見つけることができた。その結果、木乃美は顔を隠したままながら、彼に遠目でも見つめられるようになった。見つめられる、というのはやや語弊がある。通りすがりざまに二度見されたりした。木乃美はヒーローになったのだ。木乃美は困った人を助けるうちに人助けに夢中になる自分も発見した。お揃いの文房具を買わなくては仲良くできない学校の友達と違って、街中の人々は助けてくれた木乃美に心からの感謝をしてくれた。生き生きとしだした木乃美を父も満足したようにほめてくれた。そして、幸福は続いた。なんと彼と連絡先を交換することができたのだ。ある事件をきっかけとしたものの、自然な流れで聞き出すことができた。しかし、そこで木乃美は我に返った。その時、彼と会った木乃美はヒーローの衣装で、顔を隠していた。木乃美は彼と話すうちに自分の現状がすごく恥ずかしくなってきた。彼は、この姿の自分を知ってどう思うだろうか。変人だと思われないだろうか。彼は仮面をつけた人助けするヒーローの存在を知らなかった。彼はあの本を読んではいなかった。それだけで仮面越しの木乃美は赤面していた。自分が追っていた影はなんだったのか、と。自分がいたたまれなくなって、折角連絡先を交換できた夜もそそくさと逃げ出してしまった。手に入れた連絡先も恥ずかしさから連絡できなかった。中学二年生の出来事だった。世にいう中二病ではないか、とその後木乃美はまたしてもベッドで悶絶することとなった。しかし、その時に手に入れた連絡先は全く使わなかったわけではない。木乃美が中学三年生を迎え進路に迷ったとき、彼のことを思い出した。思い出したというには、思い続けていた気もしたが。彼も中学三年生、受験生のはずだ。同じ高校に行きたかった。恥を忍んで、ヒーローとして彼の受験を応援するようにして志望校を聞き出した。聞き出したが、久しぶりのヒーロー口調に自分で悶絶してしまい、連絡を取り続けることができなくなってしまった。しかも、聞き出すことのできた志望校は、さすがに一年生から塾通いしていただけのことはあり、なかなか有名な進学校で、木乃美にはとてもではないが、学力で太刀打ちできる学校ではなかった。諦めきれずに全国模試で志望校に指定してみたが、合格できる余地はなかった。担任からも難しいと言われたが、木乃美に転機が訪れた。担任が木乃美の想いに応えるために、その高校の入学方法から部活動推薦を見つけ出してくれた。木乃美は父の教育方針から部活動に入っていなかったが、木乃美には一つだけ自信のある分野があった。三年生という立場上かなり困難ではあったが、入部してすぐに大きな大会があったことも幸いして、部活動推薦に利用できる実績を勝ち取ることができた。木乃美は元々高校受験に対してそこまで準備も気乗りもしていなかったが、自分の中学からでは有数のエリート受験を成し遂げることとなった。友だちはもちろん、学力に絶望していた両親も泣いて喜んでくれた。彼の不合格を心配したが、それも杞憂に終わり、入学式の日に本当の自分として自己紹介することもできた。しかし、同じ学校になっても試練が立ちはだかった。部活動推薦となった木乃美はもちろん部活動参加の義務があり、朝練はもちろん、放課後も部活動に従事させられた。しかし、意中の彼は部活に入ることもなく、授業時間に合わせて登下校をしていて、登下校を一緒にと、木乃美の考えていたプランの一つはふいになってしまった。しかも木乃美は入学するまで、よく知らなかったが、木乃美の高校には学科分類が存在した。彼がいる学科は有名大学への進学を目指した特別進学科。木乃美の学科は体育大学などを目指す、体育学科だった。同じクラスになるかもしれない、というささやかな望みすらも打ち砕かれてしまった。入学式の日に自己紹介できたことが奇跡に思えるほどに縁遠い存在となってしまった。そこから一年何も起こせず過ぎた時間を悔いてばかりだったが、ようやく彼の誕生日を聞くことができた。それも友達の友達をたどるような絡め手で何とか入手したものだ。この機会を失ってしまうことは本当に悔やんでも悔やみきれないが、自分の中の正義感、のようなものが現状を放棄できない、と強く主張していた。
石井がハンドルを握り直すのが見えた。トラックが畑道の中に点々としかない建物の一つに入っていくのが見えた。
そんな父だった。木乃美は本を数ページめくった時点で眠気に負けた。しかし、そんな攻防を何度か繰り返すうちに頭に入った登場人物がいた。人のために尽くす顔を隠したヒーローみたいな人物で、どんな些細な出来事でも困った人に右手を差し出していた。木乃美はその登場人物に憧れたりすることはなかったが、もしかしたら意中の彼がそのヒーローだったとしたら、そう考えると胸が高鳴った。彼とは夜にたまにすれ違った。彼は木乃美に視線すら向けない。たまに彼が木乃美の使うコンビニで買い食いすることもあった。彼の学校では自転車のステッカーの色で、学年が分かる仕様になっていて、人づての調査の結果、彼が木乃美と同じ学年であることが分かり、一人ベッドの上で悶えたこともあった。しかし、彼と一方的に顔を合わせるうちに、全く気にも留められていないことが、木乃美を悩ませるようになっていた。呆けていると父に怒鳴られることもしばしばだった。その問題を解決する糸口は、彼の眺めた本から見つけることができた。その結果、木乃美は顔を隠したままながら、彼に遠目でも見つめられるようになった。見つめられる、というのはやや語弊がある。通りすがりざまに二度見されたりした。木乃美はヒーローになったのだ。木乃美は困った人を助けるうちに人助けに夢中になる自分も発見した。お揃いの文房具を買わなくては仲良くできない学校の友達と違って、街中の人々は助けてくれた木乃美に心からの感謝をしてくれた。生き生きとしだした木乃美を父も満足したようにほめてくれた。そして、幸福は続いた。なんと彼と連絡先を交換することができたのだ。ある事件をきっかけとしたものの、自然な流れで聞き出すことができた。しかし、そこで木乃美は我に返った。その時、彼と会った木乃美はヒーローの衣装で、顔を隠していた。木乃美は彼と話すうちに自分の現状がすごく恥ずかしくなってきた。彼は、この姿の自分を知ってどう思うだろうか。変人だと思われないだろうか。彼は仮面をつけた人助けするヒーローの存在を知らなかった。彼はあの本を読んではいなかった。それだけで仮面越しの木乃美は赤面していた。自分が追っていた影はなんだったのか、と。自分がいたたまれなくなって、折角連絡先を交換できた夜もそそくさと逃げ出してしまった。手に入れた連絡先も恥ずかしさから連絡できなかった。中学二年生の出来事だった。世にいう中二病ではないか、とその後木乃美はまたしてもベッドで悶絶することとなった。しかし、その時に手に入れた連絡先は全く使わなかったわけではない。木乃美が中学三年生を迎え進路に迷ったとき、彼のことを思い出した。思い出したというには、思い続けていた気もしたが。彼も中学三年生、受験生のはずだ。同じ高校に行きたかった。恥を忍んで、ヒーローとして彼の受験を応援するようにして志望校を聞き出した。聞き出したが、久しぶりのヒーロー口調に自分で悶絶してしまい、連絡を取り続けることができなくなってしまった。しかも、聞き出すことのできた志望校は、さすがに一年生から塾通いしていただけのことはあり、なかなか有名な進学校で、木乃美にはとてもではないが、学力で太刀打ちできる学校ではなかった。諦めきれずに全国模試で志望校に指定してみたが、合格できる余地はなかった。担任からも難しいと言われたが、木乃美に転機が訪れた。担任が木乃美の想いに応えるために、その高校の入学方法から部活動推薦を見つけ出してくれた。木乃美は父の教育方針から部活動に入っていなかったが、木乃美には一つだけ自信のある分野があった。三年生という立場上かなり困難ではあったが、入部してすぐに大きな大会があったことも幸いして、部活動推薦に利用できる実績を勝ち取ることができた。木乃美は元々高校受験に対してそこまで準備も気乗りもしていなかったが、自分の中学からでは有数のエリート受験を成し遂げることとなった。友だちはもちろん、学力に絶望していた両親も泣いて喜んでくれた。彼の不合格を心配したが、それも杞憂に終わり、入学式の日に本当の自分として自己紹介することもできた。しかし、同じ学校になっても試練が立ちはだかった。部活動推薦となった木乃美はもちろん部活動参加の義務があり、朝練はもちろん、放課後も部活動に従事させられた。しかし、意中の彼は部活に入ることもなく、授業時間に合わせて登下校をしていて、登下校を一緒にと、木乃美の考えていたプランの一つはふいになってしまった。しかも木乃美は入学するまで、よく知らなかったが、木乃美の高校には学科分類が存在した。彼がいる学科は有名大学への進学を目指した特別進学科。木乃美の学科は体育大学などを目指す、体育学科だった。同じクラスになるかもしれない、というささやかな望みすらも打ち砕かれてしまった。入学式の日に自己紹介できたことが奇跡に思えるほどに縁遠い存在となってしまった。そこから一年何も起こせず過ぎた時間を悔いてばかりだったが、ようやく彼の誕生日を聞くことができた。それも友達の友達をたどるような絡め手で何とか入手したものだ。この機会を失ってしまうことは本当に悔やんでも悔やみきれないが、自分の中の正義感、のようなものが現状を放棄できない、と強く主張していた。
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