9 / 28
5-4
しおりを挟む
周防は自分のデスクで天井を見つめていた。キャスター付きの椅子を足で蹴って前後させている。部長からの質問は八島の素行に関することで、大体のことは応えられたが、当たり障りのない内容しか話せず、失望されたことは言うまでもなかった。他企業との関係や会社への不満、金銭問題なども問われたが、わからない、としか言うことはできなかった。
「さっきから、その状態のままだが今日中の仕事に差しさわりないのか」
澄川が心配気味に聞いてくる。
「急ぎの仕事は午前中に片付いている。ありがとう」
周防はいすを蹴るのをやめた。起き上がった周防は携帯電話を確認するが、八島はもちろん、姉の咲からの連絡もなかった。太田が心配してメッセージをくれていた。簡単に返事をして、姿勢を正した。仕事に頭を切り替えた。澄川の視線を感じたが、澄川も自分の作業に戻ったようだ。そこからの時間は気を紛らわすように仕事に集中した。明日出社しなくてもいいくらいには作業が進んだころ、携帯電話に着信が入った。澄川が視線を送ってくる。着信は咲からだった。周防は澄川にアイコンタクトをしてフロアの通路へ移動した。
「姉さん、あの、大丈夫?何かあった?」
周防は緊張で声が上ずったのが分かった。
「ごめん、雅人。今日仕事抜けてでてこれる?」
咲の声は涙声だった。
「構わないよ。どこに行けばいい?」
咲から語られたのは予想外の場所だった。そこは雅人もあまり利用したことがない近隣の大学病院だった。
「誰か具合が悪いの?」
雅人は動揺して変な聞き方をしてしまった、と思ったが、咲の言葉でさらに動揺してしまう」
「美紀が、意識がないの」
「…、美紀?分かった。すぐ行く。美紀に何があったの?」
雅人は内心夫の久志に何かあったのではと考えていたので意表をつかれた。
「美紀、誘拐されて、さっき保護されたの。でも何かされたみたいで」
雅人は誘拐、という聞き慣れない恐ろしい言葉が自分の身内に降りかかったことが現実として感じられなかった。しかし、そこでお昼に見たニュースを思い出した。
「まさか…」
雅人はすでに通話を終わらせていたが、その場で少し固まってしまった。雅人はすぐに頭を切り替えて、帰り支度をしながら、澄川に咲からの電話の内容を伝えた。
「それって、八島さんの行方不明とも関係あるんじゃないのか?」
澄川は深刻な表情で周防を見つめている。
「…、わからない。そうなのかもしれない」
周防はその関連性は言われるまで考えていなかったが、そうに違いない、と思うようになった。
「係長には、病院の場所を伝えて、俺から早退の件伝えておく。そのまま行ってこい」
「…ありがとう」
澄川の存在がいつも以上に心強かった。荷物をまとめ終えた周防は、駆け足にフロアを飛び出した。
「さっきから、その状態のままだが今日中の仕事に差しさわりないのか」
澄川が心配気味に聞いてくる。
「急ぎの仕事は午前中に片付いている。ありがとう」
周防はいすを蹴るのをやめた。起き上がった周防は携帯電話を確認するが、八島はもちろん、姉の咲からの連絡もなかった。太田が心配してメッセージをくれていた。簡単に返事をして、姿勢を正した。仕事に頭を切り替えた。澄川の視線を感じたが、澄川も自分の作業に戻ったようだ。そこからの時間は気を紛らわすように仕事に集中した。明日出社しなくてもいいくらいには作業が進んだころ、携帯電話に着信が入った。澄川が視線を送ってくる。着信は咲からだった。周防は澄川にアイコンタクトをしてフロアの通路へ移動した。
「姉さん、あの、大丈夫?何かあった?」
周防は緊張で声が上ずったのが分かった。
「ごめん、雅人。今日仕事抜けてでてこれる?」
咲の声は涙声だった。
「構わないよ。どこに行けばいい?」
咲から語られたのは予想外の場所だった。そこは雅人もあまり利用したことがない近隣の大学病院だった。
「誰か具合が悪いの?」
雅人は動揺して変な聞き方をしてしまった、と思ったが、咲の言葉でさらに動揺してしまう」
「美紀が、意識がないの」
「…、美紀?分かった。すぐ行く。美紀に何があったの?」
雅人は内心夫の久志に何かあったのではと考えていたので意表をつかれた。
「美紀、誘拐されて、さっき保護されたの。でも何かされたみたいで」
雅人は誘拐、という聞き慣れない恐ろしい言葉が自分の身内に降りかかったことが現実として感じられなかった。しかし、そこでお昼に見たニュースを思い出した。
「まさか…」
雅人はすでに通話を終わらせていたが、その場で少し固まってしまった。雅人はすぐに頭を切り替えて、帰り支度をしながら、澄川に咲からの電話の内容を伝えた。
「それって、八島さんの行方不明とも関係あるんじゃないのか?」
澄川は深刻な表情で周防を見つめている。
「…、わからない。そうなのかもしれない」
周防はその関連性は言われるまで考えていなかったが、そうに違いない、と思うようになった。
「係長には、病院の場所を伝えて、俺から早退の件伝えておく。そのまま行ってこい」
「…ありがとう」
澄川の存在がいつも以上に心強かった。荷物をまとめ終えた周防は、駆け足にフロアを飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる