10 / 28
6.接触
しおりを挟む
ライダースーツを着た男が歩み寄ってくるのが倒れた透の横目に見えた。背中に熱を感じた。何かで思い切り打ちつけられたようだ。痛みが背中を駆け上がってくる。透は痛みをこらえて食いしばる。男が透に手をかけようとしたときを見計らって、透は飛びのいた。透は手元にあった石を男に投げつける。男は石を片手でそれをはじいた。息つく間もなく男に頭をつかまれ地面に押し倒される。顎を打ち付ける。帽子が脱げた。透が立ち上がろうと片手をつくと、男に手の甲を踏みつけられた。透がうめき声をあげると、男は足をどけた。見上げると男が足を振りかぶっていた。衝撃。工場の屋外に蹴りだされた。男はすぐに透の目前に寄り、透の襟首をひねりあげた。男は長身で、透は足先が地面から離れてしまった。透は男に工場の外壁に押し付けられる。
「お前は何者だ」
男は透の襟元をつかむ力を緩めない。透は足をばたつかせて、男を蹴ろうとするが、男は当たっても全く動じない。サイレンが聞こえた。救急車両だろう。男の注意がそちらにそれる。透は右手の平を男の鼻先に打ち付ける。襟元をつかんだ男の腕の力が緩んだ。透は着地と同時に飛びのき、男から距離をとった。男を振り向く。しかし、視界にあったのは男のこぶしだった。透はしりもちをつく。姿勢を崩し切らないように耐えて、跳ね起きる。男の居た位置をみる。距離がつまっていた。首に衝撃。首だけを狙って突き飛ばされた。
「…っく」
声にならないうめき声がでた。首の後ろ、ジャージをつかまれた。強い力で引きずられる。自分のシャツの襟が首に食い込む息ができない。
「折角のバイクを乗り捨てなくちゃならなくなった。この借りは高いよ」
男の低い声が恐怖心をあおった。工場の裏口には黒のバンと、バイクが一台あった。脇に赤いタンクが見えた。男は透をバンの後部座席に押し込むと、タンク中身をバイクに振りかけた。液体がバイクのシートを濡らした。透は逃げようとバンのドアを掴む。首元に強い痛みを感じた。力が抜ける。意識が遠のく。透は車の振動と、ドア越しに猛烈な熱を感じたところで意識を失った。
「あんな、あんな子どもを手に掛けるなんて聞いていない」
石井の声は壁に反響した。
「おい、そんな理由で、追手がいる場合のプランに変更したのか?」
「そんなことはいい。包みは回収できただろう?パルスの増幅はできたのか?」
石井は勢いに任せてまくし立てている。石井の他に少なくとも二人、人影が確認できる。
「調整はほぼ終わっている。チェック作業を監視の下で進めさせている」
長身の男が石井をなだめるように話している。もう一人の細身の男が言葉を挟む。
「子どもをって、明日の話を聞いていないのか?それに今日だって…」
「何の話をしている?」
石井の声は動揺している。
「お前、誘拐した子どもらを生かしたままにしておくと思っているのか?」
細身の男は石井をあおるようにおどけた口ぶりだ。
「少し静かにしてくれ。佐田」
長身の男が佐田という細身の男の肩をたたく。
「…、誘拐した子どもを、そんな、どうして」
石井は頭を抱えている。
「まあ落ち着け」
長身の男が石井の方に近づこうとする。
「近寄るな。なんて、野蛮で、愚かなんだ」
石井が長身の男の手を払いのける。石井はぶつぶつと何かを言いながら後ずさっている。長身の男と佐田という男が顔を見合わせた。
「着いてきてしまった子どもはどうした?」
長身の男は石井に優しく語り掛ける。
「ん、ああ、車で待たせてある。あたりを見てくると伝えている」
「そうか…」
バシュ。軽い音が聞こえた。石井がぐらついているように見えた。長身の男がピストルのようなものを構えている。
「館山さん、それは?」
佐田が興味津々といった様子で質問している。状況がのみ込めなかった。
「ん、ああ、今回の計画に向けて念のために用意したものの一つだ。弾が竹製だから、軽い。ガスを使うから、天気には注意が必要だが、ちゃんとねらって打てば、大人でも一発で済む」
館山という長身の男が言葉を話し終わるころ、ぐらついていた石井がひざから崩れた。
「ひっ…」
木乃美は思わず声が出てしまう。
「おいおい、車で待ってなきゃダメなんじゃないの?」
佐田のおどけた口調が部屋に響く。木乃美は駆けだした。
「捕まえてくるんで、あとでそれかしてください」
佐田の言葉に館山は肩をすくめた。
「一応外部に連絡の取れないようにしておくが、早めに処理してくれ。郷田が戻ったら明日のミーティングだ」
「お前は何者だ」
男は透の襟元をつかむ力を緩めない。透は足をばたつかせて、男を蹴ろうとするが、男は当たっても全く動じない。サイレンが聞こえた。救急車両だろう。男の注意がそちらにそれる。透は右手の平を男の鼻先に打ち付ける。襟元をつかんだ男の腕の力が緩んだ。透は着地と同時に飛びのき、男から距離をとった。男を振り向く。しかし、視界にあったのは男のこぶしだった。透はしりもちをつく。姿勢を崩し切らないように耐えて、跳ね起きる。男の居た位置をみる。距離がつまっていた。首に衝撃。首だけを狙って突き飛ばされた。
「…っく」
声にならないうめき声がでた。首の後ろ、ジャージをつかまれた。強い力で引きずられる。自分のシャツの襟が首に食い込む息ができない。
「折角のバイクを乗り捨てなくちゃならなくなった。この借りは高いよ」
男の低い声が恐怖心をあおった。工場の裏口には黒のバンと、バイクが一台あった。脇に赤いタンクが見えた。男は透をバンの後部座席に押し込むと、タンク中身をバイクに振りかけた。液体がバイクのシートを濡らした。透は逃げようとバンのドアを掴む。首元に強い痛みを感じた。力が抜ける。意識が遠のく。透は車の振動と、ドア越しに猛烈な熱を感じたところで意識を失った。
「あんな、あんな子どもを手に掛けるなんて聞いていない」
石井の声は壁に反響した。
「おい、そんな理由で、追手がいる場合のプランに変更したのか?」
「そんなことはいい。包みは回収できただろう?パルスの増幅はできたのか?」
石井は勢いに任せてまくし立てている。石井の他に少なくとも二人、人影が確認できる。
「調整はほぼ終わっている。チェック作業を監視の下で進めさせている」
長身の男が石井をなだめるように話している。もう一人の細身の男が言葉を挟む。
「子どもをって、明日の話を聞いていないのか?それに今日だって…」
「何の話をしている?」
石井の声は動揺している。
「お前、誘拐した子どもらを生かしたままにしておくと思っているのか?」
細身の男は石井をあおるようにおどけた口ぶりだ。
「少し静かにしてくれ。佐田」
長身の男が佐田という細身の男の肩をたたく。
「…、誘拐した子どもを、そんな、どうして」
石井は頭を抱えている。
「まあ落ち着け」
長身の男が石井の方に近づこうとする。
「近寄るな。なんて、野蛮で、愚かなんだ」
石井が長身の男の手を払いのける。石井はぶつぶつと何かを言いながら後ずさっている。長身の男と佐田という男が顔を見合わせた。
「着いてきてしまった子どもはどうした?」
長身の男は石井に優しく語り掛ける。
「ん、ああ、車で待たせてある。あたりを見てくると伝えている」
「そうか…」
バシュ。軽い音が聞こえた。石井がぐらついているように見えた。長身の男がピストルのようなものを構えている。
「館山さん、それは?」
佐田が興味津々といった様子で質問している。状況がのみ込めなかった。
「ん、ああ、今回の計画に向けて念のために用意したものの一つだ。弾が竹製だから、軽い。ガスを使うから、天気には注意が必要だが、ちゃんとねらって打てば、大人でも一発で済む」
館山という長身の男が言葉を話し終わるころ、ぐらついていた石井がひざから崩れた。
「ひっ…」
木乃美は思わず声が出てしまう。
「おいおい、車で待ってなきゃダメなんじゃないの?」
佐田のおどけた口調が部屋に響く。木乃美は駆けだした。
「捕まえてくるんで、あとでそれかしてください」
佐田の言葉に館山は肩をすくめた。
「一応外部に連絡の取れないようにしておくが、早めに処理してくれ。郷田が戻ったら明日のミーティングだ」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる