誰の目にも輝きを

ヨージー

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 芦屋恭子は弥伊子の頬へスポンジをあてる。今回はあまり目立たないようにベースメイクのみでおさめる話しになっている。弥伊子は費用を払っていない点を伝えたが、芦屋恭子曰く、弥伊子は芦屋恭子の広告塔として活用されるらしい。先日の学生としてはアウトなメイクは実は狙ったものだったらしい。弥伊子は昨日の出来事に現実味がない。もちろん母にも学校から連絡があったのだけれど、笑われただけ、面白がられただけで、芦屋恭子との関係を咎められることもなかった。
「そういえば、初めてあった日に家に連れていこうとしていたけど、もういいの?」
「そう、そこなんだ。ぜひお願いがある」
芦屋恭子はフェイスパウダーを施しながら悪巧みのような表情を浮かべた。弥伊子が入らないことを言ってしまったと、顔をひきつらせようとしたら、芦屋恭子にダメ出しを受けた。弥伊子はメイクのために表情の品も求められるようだと理解した。
「週末にさメイクした上で出掛けて欲しい」
「でかける、別にいいけど、」
「おっけー、服は母さんの商材があるから、そこも任せろ」
「え、あ。家に行くのね」
「そう言う話だろ」
「そうでした」
「当日は撮影もするから、覚悟しておけよ」
「さ、撮影?」
「表情!」
「ごめん」
 その日から弥伊子は毎日芦屋恭子にメイクされながら通学することになり、芦屋恭子は毎日南洞家に宿泊した。弥伊子の母は芦屋恭子の滞在を快く受け入れていて、たまにメイク道具の質問をした。

「真澄、先に学校行っちゃってたなら、連絡してよ」
「ごめん、ごめん」
「帰りは一緒に帰ろう」
「図書室はいいの?」
「…うん」
弥伊子はまだ獅童宰都の前に行く勇気が持てなかった。弥伊子は自分が何に期待していたのか、傷ついていることを実感している。そして、また同じように傷ついてしまうことを恐れている。
「弥伊子は、さ。もっと前にでていいんだと思うな」
「え、なに。どういうこと?」
弥伊子は考えにふけっていて真澄の言葉をよく聞けなかった。
「ううん、なんでもない」
弥伊子は数日の間に周囲の印象が変わり始めていることを実感していた。視線を向けられることや声をかけられることが増えた。弥伊子はクラスでもそんなに多くの人たちと話すことは多くなかったが、最近はクラスのほぼ全員と向こうから声をかけられる形で毎日話していた。最初は挨拶だけだったクラスメイトたちも、休み時間の度に話しかけに来るようになってきていた。
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