誰の目にも輝きを

ヨージー

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 恭子の母親はデザイナーとして売れっ子で、恭子が物心つく頃には、国外の仕事も入っていたらしい。だから、恭子はあまり同じところに長く住んでいた経験はないらしい。学校も長くても一年のうちには転校することが多かったらしい。それを可哀想に思った恭子の母親が恭子だけの家を用意した。恭子のお母さんの両親は亡くなっていたし、あまりゆかりのある親類も居なかったみたい。お父さんに当たる人とも完全に縁が切れていたみたい。だから、恭子はあの家に一人で住んでいる。僕の親が、それを聞いて同い年の僕と同じ学校に通えるように近くの家にしてもらったらしい。同じ高校になったのは偶然だったけど。南洞さんは恭子が昔からなんというか、明るくて大胆なやつだと思っているかもしれないけれど、昔はもっと自信のない子だった。意外?そう、でもそうだったんだ。恭子はさ、本当はお母さんと一緒の方がよかったんだよね。それでいてお母さんのお荷物にもなりたくなかった。それでさ、お母さんの仕事を手伝えるようにって、お母さんが昔作った服を結構送ってもらったらしい。え、ああ、南洞さんは恭子の家に行ったんだね。そう、たくさんあったでしょ。僕は行ったことないよ。さすがに女の子一人しかいない家だからね。運び込む時に手伝ったんだ。え、ああそうか。踏み入れたことにはなるね。でもそのときだけだよ。恭子はそう、その服を使ってお母さんの仕事を知ろうとしたんだ。結果はいまいちだったそうだけど。当時はかなりがっくりきてたよ。南洞さんも恭子のセンスみたことあるんだ。僕はあまりさとくないからよくわからなかったけど、やっぱりそうなんだね。そう、それで恭子が見つけたのが化粧なんだ。恭子がそれを見いだしてからというもの、って怪物みたいに聞こえちゃうね。いや、でも本当にすごかった。ずっと勉強と練習をしていたよ。ヘアアレンジというのかな。そのあたりを含めての構成について熱く語られたこともある。きっと恭子は化粧でお母さんと一緒に仕事をしていくつもりなんだ。格好いいよね。

 その日の帰り道は少し憂鬱だった。獅童宰都がいかに芦屋恭子と関係深いのかわかってしまったから。自分に可能性はあるのだろうか。ふと自分がすでに獅童宰都と仲良くなるだけでは満足できないことに気づいた。弥伊子はもっと獅童宰都のことが知りたかったし、もっと近づきたかった。そういえば、芦屋恭子はメイクに関してパーティーに向けたものを目指していたのだろうか。確か芦屋恭子は。
 芦屋恭子が学校に来なくなってからもう少しで一月がたとうとしていた。
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