資産家の秘密

ヨージー

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「お、いたいた」
 図書室の戸を開き、覗き込んだ圭介と目が合った。
「圭介、図書室だから静かに」
 智樹は高い棚に本を戻した。
「学校じゃ、あまり参考になりそうなものがないね」
「ああ、ここで資料探してたのか」
「まあね、あまり意味なかったけど」
「隠し部屋の作りなんて、学校とイメージ合わねえもんな」
「そういう話、か」
二人は近くの机へ移動した。
「隠し部屋とは、なんて本そもそもあんのか」
「言い出しっぺがそう言わないでよ」
「でもさ」
「忍者屋敷ってあるよね」
「ん、ああ」
「歴史と文化、そういう切り口ならなにかでてくるかもしれない」
「なるほど」
「でも、ここにはなにも」
「てかさ、さっきの担任の話」
「え、と不審者だっけ」
「そうそう、お姉さんが狙われているかも、いや違いない」
「極端な話だな」
「なにを」
「でも、不審者って、こう春に出てくるって言うよね」
「そんな話あったか?」

智樹はその日の肌寒さに眉間をしかめる。智樹は元々寒さに弱いほうだと自覚している。昔から冬になるころには一度体調を崩していた。朝に目が覚めて、寒さを理解したときにはうんざりした。冬眠する動物なんかは、そのうんざりを避けるために寝続けているのではないかなど考えながら、掛布団から這いずり出た。そのまま智樹は朝食の間も、出かけ自宅をしながらもため息をついた。
智樹が市の図書館へ着くころわずかに差していた日光も雲に隠れてしまい、智樹はなお辟易として、コートの襟に首をうずめた。幸いだったのが、圭介がほどなくして現れたことと、つい先週までは街中の建物は冷房がかかっていたが、図書館の中は暖房が効いていたことだ。
「ぬがねぇの?」
圭介が智樹のコートを指して言う。
「席とりは一着あれば十分だろ」
 曲がりなりにも運動部の圭介が屋内に入るや否やコートを椅子に掛けて、智樹よりも1、二枚は少ない服装になったことに対して嫌味を込めて返した。圭介は嫌味に気付かず、一度首をかしげて暗に『おかしな奴』といった態度で本のコーナーへ向かった。
「圭介と間島君じゃん」
 二人が振り返るとそこにはクラスメイトの久喜亜香里がいた。
「亜香里、なんでここに?」
「どっちかっていうと圭介の方が不自然。あたしは本を返しに来ただけ」
 圭介が目を細める。
「読書趣味?似合わないな」
「喧嘩売ってる?」
「別に」
 明かりの手元には屋内で行う体幹トレーニングの本が抱えられていた。
「間島君が圭介とペアってのも不思議ね」
 亜香里が今度は智樹に目を向けた。
「ああ、それは、あと智樹でいいよ」
「ちょっと待った」
 圭介が智樹と亜香里の間に体を挟む。
「どうしたの?」
「亜香里にまで言わなくていいだろ」
「何よ、本当に喧嘩売ってるわけ?」
「久喜さん、別に秘密なんてことの程ではないんだ」
「あ、智樹くん、私も亜香里でいいよ」
「あ、分かった亜香里さん」
「俺を忘れるな」
 圭介がまだ納得していない様子だったので、多少なだめてから、亜香里に智樹の祖父の話を伝えた。
「へえ、素敵ね」
 亜香里は智樹へそういうと、圭介をにらんだ。
「隠さなくていいんじゃない?」
 圭介はきまりが悪そうに視線をそらした。
「今度、また聞かせてね智樹くん」
「なに、帰るの?」
 圭介が亜香里に視線を向ける。
「私はこれから部活なの。それじゃあまたね」
 前半は冷たく圭介に、後半は智樹に笑顔で話すと亜香里は足早に去っていった。
「亜香里さんて何部なの?」
「んあ、あいつは水泳部だな」
 智樹は外気温を想像して一瞬驚いたが、先ほど手に持っていた本を思い出して納得した。そこから二人で図書館の歴史にまつわるコーナーと建築にまつわるコーナーを見て回ったが、正直タイトルだけでは本の内容がイメージできず、かなり苦戦した。建築に関しては少なくとも資料に使えそうなものは見当たらなかったし、歴史では探したい内容がピンポイント過ぎて、一朝一夕ではどうにもならず途中で断念することになった。
 その日はまた出直そうという話になり、二人は別れた。寒さに耐えながら智樹が家に着くと彩花がココアを入れてくれた。智樹は自分の近くに電気ストーブを引き寄せて、両手をマグカップ越しのココアの熱で温めながら、身を縮めていた。すると、携帯電話に知らない番号から着信があった。
「もしもし」
「もしもし、智樹くん?」
「ああ、亜香里さん。部活お疲れさま」
「ありがとう。圭介から番号聞いちゃった」
「そう、別に大丈夫だよ」
「今日聞いた話、私も手伝えたらと思うんだけど、どうかな?」
「え、本当に?助かるよ」
「よかった。ありがとう。私、部活の間も気になっちゃって」
「それは、うん。なんというか僕たちもあったらいいなってくらいの話で…」
「ううん、絶対あるよ。おじいさんが智樹くんにって思って話してくれたんでしょ?」
「それは、そうだけど…。ありがとう」
「私は何もしてないよ?」
「信じてくれてありがとう」
「ふふ、そう、それでなんだけど、隠し部屋で思いついたんだけど、そういうのって忍者屋敷なのかなって」
「忍者屋敷、そうだね、今日もそれで図書館に資料を探しに行ったんだ。見つからなかったけど…」
「そうなんだ…。そう、でね、考えたの。そういう歴史の施設って体験する施設の方が、本当にそれを体験できるし説明してくれると思うの」
「ああ、なるほど」
「それでね、家に帰るまでに調べたんだけど、電車で行ける範囲で、そういう施設あったの」
「すごい、ありがとう」
「ううん、全然大したことじゃないよ」
「私、来週末は部活お休みだから、一緒に行ってみない?」
「え、いいの?ありがとう」
「よかった。圭介にも智樹くんが行くって言ってくれたら大丈夫って聞いたから、圭介も来れるよ」
「そっか、よかった二人ともそこまでしてくれて、ほんと嬉しいよ」
「もう、照れちゃうから、そんなに感謝しなくていいよ。詳しくはまた学校で話すね」
「うん、分かった。よろしく」

 彩花が閉め忘れたカーテンを閉めようとカーテンに手を掛けたとき、彩花はふと窓に視線を感じた。彩花が見返すと、路地の角に逃げていく人影が見えた。
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