資産家の秘密

ヨージー

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 電車の中は乗り換えを経るごとに乗車人数が減っていく様子で、智樹としてはあまり見かけない光景のように思えた。亜香里と圭介は終始話し続けていて、間に挟まれる位置にいた智樹はしきりに相槌をしなくてはならず、少し疲れてしまった。どうにも二人ともが自分よりもずっとおしゃべり好きらしい、と智樹は相槌の合間に考えた。
 たどり着いた駅で切符を回収され、駅舎をでるとあたりは木々に囲まれており、古めかしいお土産屋くらいしか建物が見えなかった。三人はバスを待ち、合間に鮮度をうたい文句にしたソフトクリームを食べた。智樹としては、これ以上体温を失う行動は慎みたかったが、二人が観光地の醍醐味として譲らなかった。
 バスに乗車してからは田舎道に智樹は驚いた。なんというか、自然そのままというべきか、道の舗装はもとより、道が真っすぐではないのだ。何度も大きく角度をつけるカーブに体を持っていかれてしまう。加えて、運転が荒い、あぜ道に慣れているドライバーはそれなりの速度で急カーブに突入する。これから向かう施設も娯楽施設ということだが、すでにジェットコースターに乗り込んでいる心地だった。とはいえ、智樹は本物のジェットコースターに乗ったことはない。
 施設に到着した途端、林におぼつかない足取りで圭介が転がり込んでいった。正確にはそのように見えた。圭介はしばらく林でうめき声を出していたが、青い顔をして戻ってきた。亜香里が水を買ってきてくれていて、圭介の回復を待ってから施設へ足を踏み入れた。
 施設では、定番の手裏剣投げを始め、射的にも挑戦した。手裏剣では亜香里が隠れた才能を開花させていた。本人曰く初めてというのだから驚きだ。射的では智樹が一番の活躍を見せた。決してうまい、というわけではないと思うのだが、智樹しか命中しなかったので、そういうことになった。圭介が見せ場を作ろうと、水遁の術なるアクティビティに挑戦し、寒空の中入水したことはのちの笑い話だが、月曜日に熱を出してしまう結果となり、なんともかわいそうに思えてしまった。
 問題の忍者屋敷では、ガイドのもと、施設内の設備一つ一つを説明していただけた。そして、結論としては、少し目的が違うものではないか、という点だった。回転扉、屋根裏、明り取り階段、落とし穴、隠し階段と様々な作りを教えてもらい、興味深くは感じたものの、用途が攻め入る敵を迎え撃つための設備であることがほとんどであった。
「秘密の部屋って、何のための秘密なんだろうね」
 亜香里が不意につぶやいた。
「それは見られたくない、ってことだろ」
 寒そうに肩をさする圭介が答えた。
「それはそうだけど、その必要、というか、そこまですることって何だろうね」
「それはお前、男にはいろいろあるんだよ」
「なにそれ」
亜香里が訳知り顔で圭介をにらんだ。
「なんだよ、智樹はどう思う?」
「うーん、どうだろう。でも、確かに、そのために秘密の部屋を作るってことだもんね」
「それって個人でできるのかな」
「お前んちって建築業とかなの?」
「圭介、それは流石にないんじゃない?」
「あ、いや、親戚にいるよ」
 圭介と亜香里が智樹に驚く。
「そんなに驚くこと?」
「いや、なんというか、その、秘密の部屋に現実味が出た気がした」
 圭介が鼻をすすりながら言う。

亜香里も一度屋敷を見てみたいとのことで、次の休みに亜香里を連れて屋敷を訪れることになった。智樹はお土産に手裏剣の焼き印がおされた茶菓子を買って帰ることにした。圭介は手裏剣がモチーフのキーホルダーを購入した。亜香里はポストカードを購入していた。
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