朱に交われば緋になる=神子と呪いの魔法陣=

誘蛾灯之

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「──というわけです」

 事の顛末を簡潔に説明した。恥ずかしかったから手帳の話は伏せ、仕事で使おうと買ったものが捕られたと伝えると、物凄い怖い顔をされた。しかも何故か背後に鬼の幻影まで見え、話したことを後悔した。
 次の瞬間ダレクは瑛士の両肩に凄い勢いで手を乗せこう言った。

「次からは携帯護身具を持たす」
「あはは…、ありがとうございます」

 流石に冗談だと思って流したのだが、次の日の朝、本当に携帯護身具を渡された。
 見た目は数珠みたいだけど、実はこれ小型のスタンガンらしく、ラディと唱えながら相手に接触させると放電するらしい。おまけに持ち主設定できて、持ち主の方には電流がいかないように調整してくれるらしい。凄いな魔法具。

 でも道具に甘えてばかりじゃダメだと思うから、やっぱり筋トレはしておこうと決意した瑛士なのであった。






 □□□





「クリハラ、お前大丈夫なのか??」

 職場につくなりシンシアに心配された。
 どうやら昨日の事件はみんなに知れ渡ってしまったらしく、先輩達に捕られないようにする持ち方や捕られてしまった時の対処法などを教え込まれた。まさかこんな歳になって自衛の方法を教わるとは思わなかったな。

「クリハラ、すみません。こちらも通報した後に探してはみたのですが…」
「良いんですクレオフェンさん。油断した俺が悪かったんです。盗られたものはまた買えますし、次からは気を付けますので」
「そうですね。貴方はなんとなく警戒心が足りませんので」
「うぐっ!?…気をつけます…」

 結局手帳は見付からず、あの盗賊団も捕まらなかった。
 曰く、この街にはそんな輩は山ほどいるらしく、捕まらないのが当たり前なんだと。今さらだけど、日本て治安が良かったんだなと再認識した。これからは本当に気を付けよう。

 その後は何事もなく過ぎ、とある日の午後、笑顔のクレオフェンが小瓶を片手にやって来た。何かを企んでいるような笑顔で、瑛士は思わず椅子を後ろに引き掛けた。だけど、クレオフェンの次の言葉で座り直した。

「ようやく出来ましたよ。クリハラ、ちょっと試しに飲んでみてください」

 主語が抜けているが、恐らくこれは瑛士用に調整された魔力補給薬だろう。すぐに出来ると言っていたが、どうやら瑛士の魔力構成がかなり特殊のものだったらしく、負荷無く吸収できる割合に調整するのに時間を要したと言われた。
 見た目は栄養瓶サイズのラムネである。足りないものは中のビー玉のみ。
 小瓶を受け取り、思わずクレオフェンに提案してみた。

「この、ここんところにビー玉嵌め込めます?」
「なんですか?そのびーだまとやらは?」

 ビー玉自体存在してなかったのでこの話は無かったことにした。

「さて」

 早速と、ドキドキしながら魔法部分のごく小さな故障を直した。途端にやってくる体のダルさ。今だとばかりに渡された魔力供給薬を飲み干す。
 味はラムネではなく、さっぱりとしたスポーツドリンクレモン風味だ。口に含んだ瞬間、液体は溶けて消えた。わたあめのようだ。

「どうです?」

 恐る恐るとクレオフェンが訊ねてくる。恐る恐る手を開閉し、感覚を研ぎ澄ます。異常無し、と言うよりも目眩もダルさもまとめて吹き飛んだ。例えるならばちょっと高めの栄養剤を飲んだような目のスッキリ感。

「クレオフェンさん!めっちゃ効きますこれ凄いですね!!!」
「そうでしょう!そうでしょう!この私が自ら調合したしたからね!」

 得意顔のクレオフェンが興奮気味に袖口から一気に十本程の小瓶を取り出し机に並べた。
 何ですかその袖口。俺の袖そんなに収納できませんよ。

「よし!実験終了!さぁー、クリハラさん」
「は、はい?」

 クレオフェンががっしりと瑛士の両肩を掴み、にたりと笑顔を浮かべた。

「そろそろ、魔法陣修復訓練、しましょっか!」

 語尾に星マークの幻覚が見えた。







 □□□贈り物マウント□□□








 その日から瑛士も実験に参加できることになり、微量ではあるが、魔法陣の修復作業が出来るようになった。とはいえ、やはり魔力残量は気になる。調整をミスって倒れでもしたらダレクに何て言えば良いか…。と、モヤモヤしていたところ、シンシアが。

「……え?もしかして自分の体内魔力残量分からないのか?」

 といわれた。
 普通ならば、お腹すいたとか眠いみたいな感覚で分かるらしいのだけれども、瑛士はそれが全く分からなかった。
 それをクレオフェンにいえば、驚いた顔をしながらも「それは困りましたねぇ」と真剣に考えてくれた。
 翌日、魔力残量が色で判別できる指輪を貰った。
 仕事が早い。

 日常生活の邪魔にならなさそうな左手の人差し指に嵌めてみるとすぐに指輪の石の色が変わった。青色だ。

「通常がこの青色で、半分になると黄色、さらにその半分、つまり魔力欠乏一歩手前が赤色になりますので、赤色に完全になる前にやめましょう。そうですね、中間の橙色くらいを目安に」
「分かりました」

 ちなみに魔力供給薬を黄色の所で飲むと青になり、橙色で飲むと緑になる。つまりはこの小瓶ひとつで50%回復出来るらしい。なんと優秀なんだ。原料はなんだろう。魔石は拒絶反応だし。訊ねてみたけど、ちょっと秘密と言われて教えてくれなかった。









 今日は久しぶりにダレクと夕飯を取っている。

 ここのところダレクは忙しいらしく帰るのが深夜というのがデフォルトになってきた。自分が言えたことじゃないけれど、ダレクの健康が心配である。
 この世界での栄養食でも調べてみるかと思ったところで、ダレクがこちらをみて「おい」と声をかけてきた。

「はい?」

 なんだろう。手を止めてダレクを見ると眉間に皺がよっていた。

「なんですか?」

 何かしただろうかと慌てて記憶を引きずり出してみるものの心当たりがない。

「その左手」
「左手?」

 左手がどうかしたのだうか?

「指輪は一体なんだ?」
「指輪ですか」

 何の事かと思えば左手の人差し指にしている魔力残量測定器である指輪の事だった。指輪を外してダレクの方へと向ける。

「これクレオフェンさんがくれたんですよ」
「ほう?スファレライト卿が?ファーストネーム呼びとは少し見ない間にずいぶんと仲が良いじゃないか」

 あれ。これもしかして変な誤解でもされているか?まさかとは思いつつも訂正する。

「俺は正式な団員じゃないので団長は変ですし、スファレライト卿だと、なんでか毎回噛んじゃうので妥協点がクレオフェンさんになりました」

 日本語のせいだろう。言いにくい。なんならダレクのファミリーネームのアレキサンドライトも言いにくい。こっそり練習しなければ。

「ふーん…」

 ジト目で見てくるダレク。半信半疑と言ったところだろう。仕方ない。

「言っておきますけれど、俺が様つけるの、今のところダレク様しかいませんからね?」
「ほう、そうなのか」
「そうです」
「そうか……、じゃあ今から様抜きで呼べ」
「……は?」

 誇れと言う意味で言ったのに、逆に抜けと言われてしまってポカンとした。

「そら、言ってみろ」
「ええ…、なんでですか…」

 いいから言えと視線で圧をかけてくる。

「……、……ダレク」
「よし」

 何がよしだ。しかし当のダレクが満足そうにしていたので、瑛士はまぁいいかと諦めた。
 そのまま食事をしていると突然影が落ちる。見上げるといつの間にかダレクが目の前にいた。

「だが、その指輪は解せねぇ」

 いや、解せんと言われましても。思わず突っ込みを入れようかと思った時、ダレクが瑛士の顎をくいと持ち上げキスをした。軽いフレンチキスだ。

「そのうち私がもっと良いものを贈ってやるからな。さて、私はもう寝る。お前も勉強は程ほどにして早めに寝ろよ」

 ヒラリと手を後ろ手に振り、ダレクは寝室へと戻っていってしまった。

「今のは魔力供給じゃないよな、魔力減ってなかったし…」

 実際指輪の色は満タンの青をしてしていた。それに、なんだ。もっと良いものを贈ってやるからなって…。ダレクの行動がよく分からず、瑛士は首を捻ったのだった。






 □□□




「とりあえず、これを先に贈ってやる」

 翌日、何故かネックレスを贈られた。紫の小さな宝石のついたネックレスだ。

「いやいや、ダレク様」
「様?」
「…ダレク、その、なんでこれを俺なんかに?」

 ふんとダレクが鼻で笑う。

「別にお前が宝石のひとつやふたつ持っていたって良いだろう?ありがたく身に付けていろ」
「はぁ」

 相変わらず無茶苦茶だったが、瑛士はそのネックレスを仕方なくポケットに入れて持ち歩く様にした。せっかく貰ったものだし、剥き出して部屋に置いておくのは気が引けるからである。

 そのまま出勤し、シンシア指導のもと魔方陣修復の実験を行っていた所、突然部屋の扉が開き、汗だくの同僚がこちらにやって来た。

「クリハラ、お前何やったんだ???」
「え???」

 何がだ?と、シンシアの方を見るが、シンシアも心当たりがないらしい。「は?」と言いたげな顔で同僚を見上げていた。

「特になにかした覚えはないですけど、どうしたんですか?」

 同僚は袖で顔の汗をぬぐい、こう言った。

「陛下のお呼びだ。早くいかないと大変だぞ」

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