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第十五章:とある狂人の育成記
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さすがに家族がいるときは、風呂は別々に入る。先に沙良が入って、波折はその間沙良の部屋で待っていた。
「……」
棚に、いくつかの写真が飾ってある。母親との写真や洋之と夕紀との写真、それから友達との写真。どれもこれも沙良の世界を閉じ込めた、きらきらとした写真だ。不可侵の世界だなあ……そう思って波折は写真を眺める。今、こうして沙良と一緒にいて、沙良から好意を受けているけれど……絶対に、自分と彼は交わることはない。彼は鑓水とは違う。自分の中の確固たる信念を曲げたりはしないだろう。
ぽふ、と波折は沙良のベッドに頬を乗せる。かすかに、沙良の匂いがして気持ちいい。
あと、どれくらい沙良と一緒にいられるのだろう。いつ、「ご主人様」は仕掛けてくるのか。もっと一緒にいたい。もっと彼と一緒に、「普通の高校生」をしたい。
「……っ」
悲しい。胸がきりきりと痛む。
なんで俺はこんな人生を送っているのだろう。もしも普通の高校生だったら、沙良とずっと一緒にいられたのに。
「……」
あれ、今なんか変なことを考えた。自分の人生を否定するような……「ご主人様」から与えられたこの人生を否定するような。
――恐ろしいことだ。「ご主人様」に逆らうことを一瞬でも考えた。
そんなに……そんなに、俺は沙良と一緒にいたい? ご主人様よりも優先する? それは、ムリ。すでに手を血に染めてしまっている俺が、あの沙良と一緒にいられるわけがない。ほんの一瞬の気の迷いだ、気にする必要はない。
「沙良……」
「――波折先輩?」
ふと声がして、波折はバッと顔をあげる。沙良が、風呂からあがってきたようだ。びっくりしたような顔をして、こちらをみている。
「……どうしたんですか? 泣いて……」
「……泣い、てる?」
言われて、波折は慌てたように自分の頬に触れてみる。そうすれば、肌は濡れていた。気づかない間に、泣いていたらしい。
「あ……えっと、」
沙良のベッドに顔を預けて一人で泣いていたなんて。そりゃあ沙良も驚くだろう。波折はごまかすように笑ったが、沙良がどんどん近づいてくる。
「どうかしましたか。今日の先輩、ちょっと変ですよ」
沙良はしゃがみこんで波折の目を見つめ、そして頬に手を添えてきた。じっと自分を覗きこむ瞳が硝子玉のようにきらきらとしていて、思わず波折は視線をそらす。
「……変って?」
「俺の顔みて、寂しそうにするから」
「……ッ、してないよ」
「ほんとうに?」
――沙良のくせに。色々と、こちらの裏については鈍いくせに俺のことには、鋭い。
ぎゅっと抱きしめられて、彼の想いに包まれて。ああ、本当にずっと彼と一緒にいたい、そう思ってしまって、「あぶない」と思った。波折は慌てて沙良と突き飛ばし立ち上がる。
「……お風呂。次、俺入ってくるから」
「……はい」
急いで沙良に背を向けた。そして部屋の扉に手をかける。背中に突き刺さるような視線を感じて振り返れば……沙良が、切なげな顔をしていた。
「先輩……俺、何があっても先輩のこと、好きだから」
「……」
それは、ないね。
――波折は、逃げるようにして部屋を出る。
「……」
棚に、いくつかの写真が飾ってある。母親との写真や洋之と夕紀との写真、それから友達との写真。どれもこれも沙良の世界を閉じ込めた、きらきらとした写真だ。不可侵の世界だなあ……そう思って波折は写真を眺める。今、こうして沙良と一緒にいて、沙良から好意を受けているけれど……絶対に、自分と彼は交わることはない。彼は鑓水とは違う。自分の中の確固たる信念を曲げたりはしないだろう。
ぽふ、と波折は沙良のベッドに頬を乗せる。かすかに、沙良の匂いがして気持ちいい。
あと、どれくらい沙良と一緒にいられるのだろう。いつ、「ご主人様」は仕掛けてくるのか。もっと一緒にいたい。もっと彼と一緒に、「普通の高校生」をしたい。
「……っ」
悲しい。胸がきりきりと痛む。
なんで俺はこんな人生を送っているのだろう。もしも普通の高校生だったら、沙良とずっと一緒にいられたのに。
「……」
あれ、今なんか変なことを考えた。自分の人生を否定するような……「ご主人様」から与えられたこの人生を否定するような。
――恐ろしいことだ。「ご主人様」に逆らうことを一瞬でも考えた。
そんなに……そんなに、俺は沙良と一緒にいたい? ご主人様よりも優先する? それは、ムリ。すでに手を血に染めてしまっている俺が、あの沙良と一緒にいられるわけがない。ほんの一瞬の気の迷いだ、気にする必要はない。
「沙良……」
「――波折先輩?」
ふと声がして、波折はバッと顔をあげる。沙良が、風呂からあがってきたようだ。びっくりしたような顔をして、こちらをみている。
「……どうしたんですか? 泣いて……」
「……泣い、てる?」
言われて、波折は慌てたように自分の頬に触れてみる。そうすれば、肌は濡れていた。気づかない間に、泣いていたらしい。
「あ……えっと、」
沙良のベッドに顔を預けて一人で泣いていたなんて。そりゃあ沙良も驚くだろう。波折はごまかすように笑ったが、沙良がどんどん近づいてくる。
「どうかしましたか。今日の先輩、ちょっと変ですよ」
沙良はしゃがみこんで波折の目を見つめ、そして頬に手を添えてきた。じっと自分を覗きこむ瞳が硝子玉のようにきらきらとしていて、思わず波折は視線をそらす。
「……変って?」
「俺の顔みて、寂しそうにするから」
「……ッ、してないよ」
「ほんとうに?」
――沙良のくせに。色々と、こちらの裏については鈍いくせに俺のことには、鋭い。
ぎゅっと抱きしめられて、彼の想いに包まれて。ああ、本当にずっと彼と一緒にいたい、そう思ってしまって、「あぶない」と思った。波折は慌てて沙良と突き飛ばし立ち上がる。
「……お風呂。次、俺入ってくるから」
「……はい」
急いで沙良に背を向けた。そして部屋の扉に手をかける。背中に突き刺さるような視線を感じて振り返れば……沙良が、切なげな顔をしていた。
「先輩……俺、何があっても先輩のこと、好きだから」
「……」
それは、ないね。
――波折は、逃げるようにして部屋を出る。
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