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第十五章:とある狂人の育成記
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「――殺しちゃえばいいじゃないか、沙良くん」
「……え」
二人を囲っていた魔女の一人が、言う。
「わかるだろう、波折がそのまま成長したらどうなるかなんて。JSでトップをとれる魔術の才能の持ち主だ。きっと裁判官として名を馳せる裏で魔女を従えるとんでもない悪人になっているよ」
「で、でも」
「きっと今の君なら止められる。なぜかって? 波折に抵抗の意思が無いからだ! 今ここで君が波折を殺さないと、今後波折を殺せる者は現れない。波折が心を許した君にしか、できないんだよ」
波折がちらりと沙良を見上げる。涙に濡れたその瞳に、たしかに抵抗の意思は感じない。でも、ここで波折を殺すなんて。たしかにここで波折を殺さないと、これからさらに彼は悪を重ねるかもしれない。憎い魔女。目の前にいるのは、ずっとずっと恨んできた魔女だ。
――でもどうする。ここで魔術をつかえばJSは退学になって裁判官にはなれない。一時の感情に身を任せて夢を断つのか。憎い魔女を消したいんじゃないのか。
でも……
「――こんな状況になってもまだ迷うんだ? なかなかしぶといじゃないか」
「えっ……」
突然、朗々とした声が響きわたる。今までの魔女たちの仮面にくぐもった声とは違うクリアな声だ。ハッとして沙良が顔をあげれば……そこに、新たな登場人物。こんなところにいるわけのない、見知った顔が、二人。
「え……淺羽先生と、……鑓水先輩?」
にやにやと笑う淺羽と、面白くなさそうな顔をしている鑓水。こんな、周囲の人々を惨殺した魔女の輪に堂々と入ってくることに違和感を覚えたし、何よりその口ぶりはまるで……
「……二人もまさか、魔女……」
「察しがいいね」
淺羽は飄々とした調子で沙良と波折のもとに近づいてくる。波折が目を見開いて、そして震えだし、ずるずると後ずさってゆく。
「波折」
「は、い……」
「きいたよ、全部。魔術使ったんだって?」
「……ッ」
その瞬間、波折はガバッと淺羽の前に出て、そして床に額をぶつける勢いで土下座をした。異常な光景に沙良が息を呑んでいると、波折が叫ぶ。
「申し訳ありませんご主人様……どうか……どうか許してください……」
――ご主人様……!?
波折の言葉を聞いて沙良は驚きのあまり素っ頓狂な声をあげそうになった。動画にて波折を陵辱していたあの人物。それが、淺羽だとでもいうのか。沙良にとってはにわかに信じがたいことで、すぐに状況は飲み込めない。
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