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第七章:そのイジワルが嬉しくて
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図書室をでると、二人は食堂に向かった。この学校の食堂はランチタイム以外も解放してあって、友人との語らいの場として利用する生徒たちがいつでもぽつぽつといた。鑓水に連れられて沙良が窓際の席に座ると、鑓水は途中で買った缶ジュースを開けて一口、飲む。
「話っていうか、俺考えていることあってさ」
「考えていること?」
「君の好きな人のことですよ、神藤クン」
「……!」
鑓水に合わせてココアを口にした瞬間にそんなことを言われたものだから、沙良は飲み込もうとしたそれを吹き出しそうになった。動揺を隠せず顔をかあっと赤らめたまま鑓水を見つめれば、彼はふう、と溜息をついて缶ジュースをテーブルに置く。
そういえば鑓水から波折は「お手つき」だ、と聞いていたため、鑓水には波折について色々と聞きたいことがある。そのことだろうか……と妙に緊張しながら鑓水の言葉を待った。
「波折ってさー……ちょっと異常だと思うんだよね」
「……い、異常?」
「まあ、男に軽々しく股開くのも変だし、調教されきってんのも変だけどさァ」
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい、それどういうこ」
「――一番変なのは、あいつの魔術かな」
「……え?」
魔術? 沙良は予想外の言葉に首をかしげた。
「神藤ー、魔術は何でできていますか」
「えっ、えっと、50%の知識と50%の適正……?」
「そのとーり」
魔術の効果は、使用者の50%の知識と50%の適正によって決まる――というのは、JSで一番初めて習ったことだ。
50%は座学によって覚えられる知識や、練習の積み重ねによる慣れ。そして残りの50%はその人間が生まれつきもつ魔術への適正だという。
「魔術にも種類があって、とりあえず試験なんかでは4種類にわけられる。人それぞれの適正があるから、どれかはできるけど、どれかは苦手っていうのが普通だ……っていうのはみんな知ってんじゃん?」
「はあ……」
「おかしいと思わねえか。波折は全ての種類で満点の成績を叩きだしている。50%は努力で補えるにしても、残りの50%は本人の意思ではどうすることもできない」
「えー……不正とかしてるわけでもあるまいし……波折先輩がすごいってだけじゃあ……」
「……その、『適正』ってなんだと思う?」
「?」
そこで鑓水が図書室で借りてきたレポートを沙良の前に出す。英語で書いてあって全く理解できず、沙良は目を回すばかりだ。
「『適正』っていうのは……その人間の『存在意義』、らしいぜ」
「存在意義、」
「有名になって名をあげたい、社会を良いものにしたい……何かしら人が持っている夢みたいなもの。要するに、想いの強さかな」
「それが適正? どういうことです?」
「たとえば人を救うために裁判官になった奴と、魔女を殲滅するために裁判官になった奴、それぞれの前に突然怪我人が現れたとする。どっちも、怪我を治してやりたいって思うだろう。でも、突発的に『この人の怪我を治してやりたい』と想うのと常日頃から『人のために生きたい』と思っているのじゃあ、『怪我を治す』という想いの強さはまるで違う。ずっと人を救いたいと思っている奴の『人の怪我を治したい』っていう想いの強さは、魔女を殲滅したいと思っている奴の『人の怪我を治したい』っていう想いに比べてずっと強い。だから――治癒魔術の分野においては、人を救うために裁判官になった奴のほうが優れている」
「……じゃあ、全部満点の波折先輩は……あれ?」
「人はそんなに器用な生き物じゃない。どんなに夢をたくさん持っていても、こうありたいと思っていても、全てに等しく想いを注ぐことなんて絶対にできない。だから、波折はありえないんだ」
ありえない――そんなことを言われても。
鑓水の言いたいことは、なんとなくわかった。波折が、人としてどこかおかしいということ。心の内面が現れる「魔術の適正」にて異常を示しているということは、波折の心も異常だ、ということだ。
でも……
「波折は……人間らしさに欠けているって俺は思うね。神藤もそう思うだろ? 俺はアイツがなんであんなふうになったのか、すっげえ興味が――」
「俺は、そう思いません」
「ん?」
「俺は……波折先輩が人間らしさに欠けているなんて、思いません」
でも、波折を異常だなんて、沙良は思わなかった。波折の笑顔とか、涙とか……そういったものをみてきたから。それに、たくさん心を揺さぶられてきたから。
波折を見る目に関して、鑓水よりも自分のほうが上だ、沙良はそう思ってきっぱりと鑓水の理論を否定する。ロジックを並べていけば確かに波折が異常である、という答えにたどり着くけれど、実際に波折と触れ合っていればその答えを否定することができる。そう思うのだ。
しかし、そんな沙良をみて、鑓水はブッと吹き出す。そして、堪えるようにして、笑い出した。
「なんとなくその反応予想していたわ……やっぱり神藤おまえ、純粋だなあ」
「えっ?」
「あんだけヒントあったのに波折のアレにも気付かねえんだから、おまえ……もうちょっと人を疑ってかかったほうがいいよ」
「な、なんのことですか」
がた、と鑓水が立ち上がる。空になった沙良のジュースの缶をとりあげると、そのまま歩き出してしまった。沙良が慌てて立ち上がり、追いかけようとしたところで鑓水は振り返る。
「アイツを欲しいなら、もっと狡猾に生きろよ。純心なままじゃあ、あの頭おかしい奴をものにできないと思うぜ。悪いね、神藤――俺のほうが先に波折を手に入れるかも」
「はっ!? えっ、ちょっ……鑓水先輩!?」
沙良の呼びかけも虚しく、鑓水は再び振り返ることはなく食堂を出て行ってしまった。取り残された沙良は、鑓水の言葉の意味をぐるぐると頭のなかで巡らせていた。
「話っていうか、俺考えていることあってさ」
「考えていること?」
「君の好きな人のことですよ、神藤クン」
「……!」
鑓水に合わせてココアを口にした瞬間にそんなことを言われたものだから、沙良は飲み込もうとしたそれを吹き出しそうになった。動揺を隠せず顔をかあっと赤らめたまま鑓水を見つめれば、彼はふう、と溜息をついて缶ジュースをテーブルに置く。
そういえば鑓水から波折は「お手つき」だ、と聞いていたため、鑓水には波折について色々と聞きたいことがある。そのことだろうか……と妙に緊張しながら鑓水の言葉を待った。
「波折ってさー……ちょっと異常だと思うんだよね」
「……い、異常?」
「まあ、男に軽々しく股開くのも変だし、調教されきってんのも変だけどさァ」
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい、それどういうこ」
「――一番変なのは、あいつの魔術かな」
「……え?」
魔術? 沙良は予想外の言葉に首をかしげた。
「神藤ー、魔術は何でできていますか」
「えっ、えっと、50%の知識と50%の適正……?」
「そのとーり」
魔術の効果は、使用者の50%の知識と50%の適正によって決まる――というのは、JSで一番初めて習ったことだ。
50%は座学によって覚えられる知識や、練習の積み重ねによる慣れ。そして残りの50%はその人間が生まれつきもつ魔術への適正だという。
「魔術にも種類があって、とりあえず試験なんかでは4種類にわけられる。人それぞれの適正があるから、どれかはできるけど、どれかは苦手っていうのが普通だ……っていうのはみんな知ってんじゃん?」
「はあ……」
「おかしいと思わねえか。波折は全ての種類で満点の成績を叩きだしている。50%は努力で補えるにしても、残りの50%は本人の意思ではどうすることもできない」
「えー……不正とかしてるわけでもあるまいし……波折先輩がすごいってだけじゃあ……」
「……その、『適正』ってなんだと思う?」
「?」
そこで鑓水が図書室で借りてきたレポートを沙良の前に出す。英語で書いてあって全く理解できず、沙良は目を回すばかりだ。
「『適正』っていうのは……その人間の『存在意義』、らしいぜ」
「存在意義、」
「有名になって名をあげたい、社会を良いものにしたい……何かしら人が持っている夢みたいなもの。要するに、想いの強さかな」
「それが適正? どういうことです?」
「たとえば人を救うために裁判官になった奴と、魔女を殲滅するために裁判官になった奴、それぞれの前に突然怪我人が現れたとする。どっちも、怪我を治してやりたいって思うだろう。でも、突発的に『この人の怪我を治してやりたい』と想うのと常日頃から『人のために生きたい』と思っているのじゃあ、『怪我を治す』という想いの強さはまるで違う。ずっと人を救いたいと思っている奴の『人の怪我を治したい』っていう想いの強さは、魔女を殲滅したいと思っている奴の『人の怪我を治したい』っていう想いに比べてずっと強い。だから――治癒魔術の分野においては、人を救うために裁判官になった奴のほうが優れている」
「……じゃあ、全部満点の波折先輩は……あれ?」
「人はそんなに器用な生き物じゃない。どんなに夢をたくさん持っていても、こうありたいと思っていても、全てに等しく想いを注ぐことなんて絶対にできない。だから、波折はありえないんだ」
ありえない――そんなことを言われても。
鑓水の言いたいことは、なんとなくわかった。波折が、人としてどこかおかしいということ。心の内面が現れる「魔術の適正」にて異常を示しているということは、波折の心も異常だ、ということだ。
でも……
「波折は……人間らしさに欠けているって俺は思うね。神藤もそう思うだろ? 俺はアイツがなんであんなふうになったのか、すっげえ興味が――」
「俺は、そう思いません」
「ん?」
「俺は……波折先輩が人間らしさに欠けているなんて、思いません」
でも、波折を異常だなんて、沙良は思わなかった。波折の笑顔とか、涙とか……そういったものをみてきたから。それに、たくさん心を揺さぶられてきたから。
波折を見る目に関して、鑓水よりも自分のほうが上だ、沙良はそう思ってきっぱりと鑓水の理論を否定する。ロジックを並べていけば確かに波折が異常である、という答えにたどり着くけれど、実際に波折と触れ合っていればその答えを否定することができる。そう思うのだ。
しかし、そんな沙良をみて、鑓水はブッと吹き出す。そして、堪えるようにして、笑い出した。
「なんとなくその反応予想していたわ……やっぱり神藤おまえ、純粋だなあ」
「えっ?」
「あんだけヒントあったのに波折のアレにも気付かねえんだから、おまえ……もうちょっと人を疑ってかかったほうがいいよ」
「な、なんのことですか」
がた、と鑓水が立ち上がる。空になった沙良のジュースの缶をとりあげると、そのまま歩き出してしまった。沙良が慌てて立ち上がり、追いかけようとしたところで鑓水は振り返る。
「アイツを欲しいなら、もっと狡猾に生きろよ。純心なままじゃあ、あの頭おかしい奴をものにできないと思うぜ。悪いね、神藤――俺のほうが先に波折を手に入れるかも」
「はっ!? えっ、ちょっ……鑓水先輩!?」
沙良の呼びかけも虚しく、鑓水は再び振り返ることはなく食堂を出て行ってしまった。取り残された沙良は、鑓水の言葉の意味をぐるぐると頭のなかで巡らせていた。
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