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第十章:その弱さを知ったとき
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「おまえ棗をどうしたんだよ」
異様な光景であった親への挨拶が終わったあと。鑓水は錫へ問い詰めた。ほんの少し前まで自分を好きだった棗が、突然兄を好きになるとは思えない。ましてや棗がやすやすと体を開き、避妊を怠るような人物にも思えなかった。胸ぐらを掴んで錫を追い詰めてやれば、錫は至極楽しそうに笑う。
「あっは、いい顔。辛い? 棗ちゃん盗られてさぁ!」
「あぁ!?」
「何したって、おまえに失恋して嘆いていた棗ちゃんのこと、犯しただけだけど? おまえと家族になれるって聞いてさ、棗ちゃんほいほい俺に股開いてんの! まあ途中で泣き出しちゃったから無理やり突っ込んで中出ししたけどさぁ」
「……ッ」
「棗ちゃんまだ中学生じゃん? 処女だったじゃん? キツキツで気持ちいいんだよね。何回か犯してたらさ、なんか棗ちゃんおかしくなっちゃった! いつも泣きながら俺に抱かれていたのに、突然にこにこ笑いだして。おまえと家族になれるから嬉しいってにこにこにこにこ」
「……ッ、ざっけんな! なんでそんなことした! なんで棗にそんな酷いことしたんだよ! 中学生犯すとか頭おかしいんじゃねえのかてめえ!」
思わず鑓水は錫を殴ってしまった。しかし錫はへらへらとした表情を崩さない。どろりとした視線を鑓水に投げかける。
「……おまえから大切なものを奪うためだよ」
「……は?」
「おまえのせいで俺の人生狂ったんだよ。おまえばっかりちやほやちやほや。 おまえさえいなければ俺は幸せな人生歩めたのに。おまえが俺から全部奪ったんだ。だから俺もおまえから全部奪う」
「な、に言ってんだおまえ……」
錫の言っていることは、鑓水には理解できなかった。――できない、というよりはしたくもなかった。あんまりにも自分勝手で、そして狂気染みていたから。
「――けいちゃん? どうしたの怖い顔して」
錫を探していたのだろうか――棗が顔をのぞかせた。鑓水と錫が二人でいたことをみつけると、ぱあっと瞳を輝かせる。鑓水のもとに駆け寄ってきて、抱きついた。
「けいちゃん! けいちゃん、けいちゃん! 私たちこれから家族だよ! 一緒に住めるの! けいちゃん……!」
「……、」
棗が鑓水に抱きつこうとも、錫はそのへらへらとした表情を変えることはない。彼は棗のことを愛してなんていなかった。だから棗が鑓水に好意をもっていようとどうでもいいのだ。むしろ棗が鑓水を純粋に好きでいるほど、愉しいのだろう。彼女の純潔が穢されたのはおまえのせいだと……鑓水に見せつけることができるからだ。
「棗ちゃん、本当に可愛いよね。なんでおまえのことなんて好きになったんだろうね。おまえのことなんて好きに何なければ、こんなことにはならなかったのにさ! 案外あっさり孕むからびっくりしたよ! あは、」
「……兄貴、おまえ……おかしいよ」
「はあ? おかしいのはおまえだろ? おまえの存在が、おかしいんだ。この世にいるべきじゃない。俺の人生おかしくしやがって、おまえ消えろよ、死ねば? おまえが生きている限り……俺は、おまえの大切なもの壊し続けるから」
錫は棗を鑓水から引き剥がすと、これ見よがしに彼女にキスをした。とてもじゃないが二人はお似合いとは言えない。ぶちゅ、と視界の暴力とも呼べるような汚いキスに、鑓水は思わず目をそらす。
錫はへらへらと笑いながら棗を連れて去っていく。取り残された鑓水は、その場にがくりと座り込んでしまった。
鑓水があんまりにも輝かしい人物だったから。だからこの家はおかしくなった。もしも自分さえいなければ、親が異常な見栄張りになることもなかった、錫が嫉妬に狂うこともなかった、棗の純潔が壊されることはなかった。
「……俺が悪いの? 別に好きで1番でいるわけじゃねえよ……」
招かれてしまった悲劇は、たしかに自分に起因する。自分は悪くない、そうわかっているのに全て自分のせいだと思わざるを得ない、そんな状況に鑓水は追い込まれていた。
『――けいちゃん!』
純粋な棗はもう、戻ってこない。鑓水はただ……出口の見えない絶望に喘ぐことしかできなかった。
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