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第十三章:予兆
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しおりを挟む二人で生徒会室を出て、そして昇降口まで向かう。もうすっかり遅くなってしまった。校舎には、生徒は殆ど残っていない。これから篠崎の家にいくのか、と波折は少し憂鬱な気持ちで彼の後ろを着いていく。
「――ずいぶん、遅かったじゃねえか」
「……え」
二人が昇降口まで来た時のことだ。下駄箱の影から……ふらりと人影が。鑓水だ。鑓水は「話をする」には遅すぎる二人に、訝しげな眼差しを向ける。
「いったい何の話をしていたんだよ」
「……慧太。先に帰ってって言ったのに」
「……帰る家が一緒なんだから待っていてもいいだろ」
鑓水の言葉を聞いて、ふ、と篠崎が笑った。ぴくりと片眉を動かした鑓水の前に出ると……篠崎はしたり顔で言う。
「今日から冬廣会長は、貴方と同じ家には帰れませんよ」
「……あ?」
「彼は……僕と付き合うことになったので」
鑓水の表情が、強張る。ちらり、篠崎の表情と波折の表情を見比べ……言う。
「付き合う? なに? コイビトドーシってこと?」
「はい。僕が告白して、冬廣会長がそれを受け入れました」
「……たいして話したこともないおまえの告白を、波折が受け入れるとは思えないけどな。適当なこといってんなよ」
そう、自分だって想いを受け入れてもらうのにどれだけ苦労したか。篠崎の告白が成功するなんて、ありえない。篠崎の言っていることを信じることができなかった鑓水は、二人のもとへ寄っていって波折の手を掴む。
「帰るぞ、波折」
「……っ、」
しかし、そうすれば波折は鑓水の手を振り払ってしまった。鑓水が驚いていれば……波折は言ったのだ。
「……篠崎くんの言ってること……本当だから。慧太とは、一緒に帰れない」
「え……」
波折の言葉を聞いた鑓水は、うっかり納得しそうになってしまった。二人が本当に付き合っているなら、自分に邪魔をする資格はない――が、一瞬浮かんだそん考えはすぐに吹っ飛んだ。波折が、泣いたのだ。鑓水に触れられた瞬間、ぼろ、と涙をこぼしたのである。
「あっ……えっと……慧太、俺の家は、使っていていいから……俺は帰らないけど。……でも、もう……俺に触らないで。俺に……関わらないで……」
一瞬その手に感じた、鑓水の温もり。波折はそれに泣いてしまったのだ。本当は鑓水に触れて欲しかったから。でも、篠崎の手前それは許されない。その口から、拒絶の言葉を吐く。
「……篠崎」
そんな波折をみて……鑓水は腸が煮えくりかえりそうになった。どう考えても、何かしらの脅迫をうけて波折は恋人という関係を迫られている。鑓水は衝動のままに篠崎を殴り飛ばすと、胸ぐらを掴んで怒鳴りかかる。
「てめぇ……波折に何をした! 波折を傷つけたっていうなら、許さねえぞ!」
「……暴力を振るう人は大嫌いです。悔しいですか、冬廣会長を僕に奪われて。冬廣会長はちゃんと僕の告白を受け入れて僕の恋人になっているんですから……それ、見苦しいですよ、鑓水くん」
「ざっけんな! だったらなんで波折は泣いてんだよ! 嫌がってんじゃねえか!」
「……嫌がってなんか、ない」
突如、波折が二人のあいだに割ってはいる。ぐ、と押し黙った鑓水の手をとると、篠崎を庇うようにして彼の前に出た。涙をぬぐって、それ以上はやめろ、といった目で鑓水を睨みつける。
「……波折、」
「俺は、篠崎くんと付き合うことになったから。慧太は関わるなよ、もう俺と慧太は関係ないから」
「な、波折……!」
驚きに固まる鑓水に、波折がついと近寄る。そして――
「――」
ある言葉を囁いた。「え、」と鑓水が戸惑っていると……波折は篠崎の手をひいて、鑓水を横切り校舎を出て行ってしまう。
「……波折!」
ワンテンポ遅れて、鑓水が叫ぶ。しかし……波折が振り返ることはなかった。
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