すみっこ屋敷の魔法使い

うめこ

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第七章:花が舞うように

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 花まつりが開催されている街の様子は、たしかにいつもとは異なっていた。どこもかしこも花で飾られていて、華やかだ。人通りもいつもより多くて、賑やか。色とりどりの街を見て、モアはぱあっと瞳を輝かせた。


「すごい、きれい……きれいです」

「モアは花が好きなんだね」

「……前にも、同じことを聞いてきましたね、イリス」

「そういえばそうだった。けれど、そのとき、モアは答えてくれなかったんだ」

「……きっと、私は花が『好き』です。『好き』なんです」


 心がときめくもの。嬉しくなるもの。幸せになるもの。

 イリスが教えてくれた「好き」。

 それから、今までかお話した人たちが教えてくれた「好き」。

 「好き」という気持ちを、モアはわかるようになってきた。だから――

 チラ、とモアはイリスの顔を見つめる。イリスは「?」と優しくモアを見つめてきた。きゅ、と胸が苦しくなる。

 ――イリスのことも。きっと、私は。


「そこのお兄さん、お嬢さん! お花はいかが?」


 ふと、花屋の店員がイリスとモアに声をかけてきた。花屋は大盛況で、たくさんの人がそこにいる。呼び込みをしている店員は、それでもどんどん道行く人に声をかけていた。


「大切な人に! お花贈りましょう! ほら、そこのお二人も!」


 ――大切な人。

 そう言われて――イリスとモアは、お互いにお互いの顔を見つめた。目が合った瞬間、お互いに「あ」と声をあげてしまう。

 モアは顔を紅くして、ふいっとうつむいてしまった。


「あの……い、イリス……私、……イリスに、お花、贈りたいです……。でも、お金がなくて……」


 絞り出すように、モアはそう言った。

 そうすればイリスは優しく微笑む。


「じゃあ、贈りっこしない?」

「贈りっ、こ……?」


 そう言うとイリスは、モアの手を引いて花屋の店員に声をかけた。


「花を二つください」

「もちろん! 今日は花冠が人気なんですよ。ほら、手で持っていると夜のアレがやりにくくなるから」

「アレ?」

「アレですよ、アレ! 泉広場のダンスパーティ」
 
「ああ……そういえば……」


 二人が交わしている会話を、モアはきょとんとして聞いていた。

 ダンスパーティ、があるらしい。

 モアはダンスをしたことがなかった。ずっとエディの屋敷にいたから。ダンスパーティに興味はあるけれど、ダンスをしたことがない。

 私は、ダンスなんてできないな。

 そう思ったが、イリスは店員に言われるがままに花冠を二つ購入していた。


「はい、モア」


 イリスは花冠をひとつモアに渡す。

 そして、今度は花冠をモアの頭にポンと被せてきた。


「モア。俺にも被せてくれる?」

「……!」


 贈りっこ、ってこういうことか。

 ぱ、と頬を紅潮させて、モアは理解する。

 イリスが少し屈んでくれたので、その頭にモアは花冠を被せた。そうすればイリスは照れくさそうに微笑んだ。


「……あれ。イリスも……私に、花冠をくれた……ことになりますね?」

「うん。そうだね。モア」

「えっと……」

「俺も、きみと同じ気持ち」

「えっ!?」


 今度はカアッと顔を真っ赤にする。

 どういうことだろう。同じ気持ちって?

 私と同じ? イリスも、ドキドキしているの? 胸がきゅーってなるの? 

 それとも……いつも一緒にいるからって、そういうこと?

 わからない。わからないのに、たまらなく嬉しい。

 もじもじとしているモアに、イリスが手を差し伸べてくる。モアがその手とイリスの顔を交互に見てわたわたとしていると、


「モア。手を繋がない?」


 とイリスが言った。

 モアは顔が熱くなりすぎて泣きそうになりながらも、そっとその手に手を伸ばす。つん、と指先が触れあえば、きゅっとイリスが手を握ってくれた。イリスもほんのり顔を紅くして、二人、手を繋ぐ。
  
 胸がいっぱい。胸が苦しくて、声を出したくなるくらいにたくさんの感情が渦巻いている。

 イリスは今、どんな気持ちなの? イリスの手が温かい。今、私の胸がドキドキしていること、イリスにバレていない?

 ねえ、ドロテア。フレドリカ。この気持ちは、恋、なの。教えて。

 手を繋いで歩くと、世界が輝いて見える。こんなに空は遠かったのか。こんなに太陽は眩しかったのか。街ゆく人は、みんな、笑っていたのか。

 イリス――恥ずかしくて言えないけれど。私、きっと、今。

 幸せ。
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