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第九章:戦場の天使
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ザアザアと雨が降っている。窓に雨がたたきつけられる音は、まるで銃声のようだ。イリスは頭をおさえながらカーテンを閉める。
具合の悪そうなイリスを見て、モアは「大丈夫ですか?」と声をかけた。
イリスは、雨の日は古傷が痛むのだという。辛そうな顔をしているので、モアは彼を見ていると不安になってしまう。
イリスは「大丈夫だよ」とモアに微笑みかけた。そして、玄関までふらりと歩いて行く。郵便物をとりに行くのだろうと察したモアは、「私が行きます」と言ったが、それもイリスは「大丈夫だよ」と言った。
ひとつの封筒を見て、イリスは手を止める。差出人は、フレドリカだった。
「フレドリカ……何か、あったのでしょうか」
「妙だな。いつもならうちに直接来るのに。そんなに急ぎの用事があったのかな」
奇妙なフレドリカの手紙。いやな予感がして、イリスはすぐに封を切る。モアも中身が気になったので、手紙をのぞき込んだ。
――が。
その中身を見て、モアはふらりと崩れ落ちる。
「……エディ、様」
手紙には、『エディがイリスの居所を探している。ローセンダール家の屋敷に身を隠せ』という記されていた。
その場にへたりと座り込んでしまったモアに、イリスが手を差し伸べる――しかし、モアは反射的にその手を払ってしまった。
「……モア?」
「あ、……イリ、ス……」
はあ、はあ、とモアの呼吸が荒くなる。
エディにされてきたことを思いだした。悪魔に、エディに。毎日のように犯されて。「醜い女だ」「淫らな女だ」たくさんの呪いの言葉を吐かれた。「普通の女の子になど一生なれない」と、それはモアにかけられた呪い。
全身に、ずるりと男の手が這いずり回るような錯覚を覚えた。穢い。自分は、穢い。数多の男に犯され、精液を注ぎ込まれ、そして全身で男に奉仕をした。そんな穢い自分に、イリスは触れて欲しくない。そう思ってしまった。
モアは自らの身体を抱きしめるようにして、うずくまる。呼吸がどんどん荒くなる。視界がくらくらとしてくる。手先がしびれる。
「あ、あ……いや、いや……」
黒い雨が降り注ぐように、たくさんの記憶がこみ上げてきた。
所詮、今までの時間は「普通の女の子ごっこ」。自分は永遠にあの男から逃げることはできないのだと。そう思い知る。
具合の悪そうなイリスを見て、モアは「大丈夫ですか?」と声をかけた。
イリスは、雨の日は古傷が痛むのだという。辛そうな顔をしているので、モアは彼を見ていると不安になってしまう。
イリスは「大丈夫だよ」とモアに微笑みかけた。そして、玄関までふらりと歩いて行く。郵便物をとりに行くのだろうと察したモアは、「私が行きます」と言ったが、それもイリスは「大丈夫だよ」と言った。
ひとつの封筒を見て、イリスは手を止める。差出人は、フレドリカだった。
「フレドリカ……何か、あったのでしょうか」
「妙だな。いつもならうちに直接来るのに。そんなに急ぎの用事があったのかな」
奇妙なフレドリカの手紙。いやな予感がして、イリスはすぐに封を切る。モアも中身が気になったので、手紙をのぞき込んだ。
――が。
その中身を見て、モアはふらりと崩れ落ちる。
「……エディ、様」
手紙には、『エディがイリスの居所を探している。ローセンダール家の屋敷に身を隠せ』という記されていた。
その場にへたりと座り込んでしまったモアに、イリスが手を差し伸べる――しかし、モアは反射的にその手を払ってしまった。
「……モア?」
「あ、……イリ、ス……」
はあ、はあ、とモアの呼吸が荒くなる。
エディにされてきたことを思いだした。悪魔に、エディに。毎日のように犯されて。「醜い女だ」「淫らな女だ」たくさんの呪いの言葉を吐かれた。「普通の女の子になど一生なれない」と、それはモアにかけられた呪い。
全身に、ずるりと男の手が這いずり回るような錯覚を覚えた。穢い。自分は、穢い。数多の男に犯され、精液を注ぎ込まれ、そして全身で男に奉仕をした。そんな穢い自分に、イリスは触れて欲しくない。そう思ってしまった。
モアは自らの身体を抱きしめるようにして、うずくまる。呼吸がどんどん荒くなる。視界がくらくらとしてくる。手先がしびれる。
「あ、あ……いや、いや……」
黒い雨が降り注ぐように、たくさんの記憶がこみ上げてきた。
所詮、今までの時間は「普通の女の子ごっこ」。自分は永遠にあの男から逃げることはできないのだと。そう思い知る。
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