60 / 60
第九章:戦場の天使
3
しおりを挟むイリスとモアは、身を隠すようにしてローセンダール家の屋敷にたどり着いた。二人を出迎えたフレドリカは、安心したような顔をして、イリスとモアに抱擁をする。
「フレドリカ……エディが俺のことを探しているって……本当か?」
「ええ……。イリス、貴方、エディと何かあったの?」
「いや……彼のことは知っているが……今更、彼に行方を捜されるような心当たりは……」
「妙ですわね。話をきいたところだと、彼は血眼になって貴方を探していただとか……」
イリスはエディの行動に理解が及ばないようだった。
しかし、モアは気が気でない。エディが本当は自分を探しているのだとしたら? エディがイリスに危害を加えるつもりだったとしたら? そう考えると、このまま自分がイリスのもとにいてもいいのかと、恐ろしくなる。
「い、イリス……私……私、エディ様のところへ、戻……」
「だめだ。モア。彼のもとに行くな」
「けれど……」
ぐ、とイリスがモアを抱きしめる。モアはがくがくと震えるばかりであった。
そのときだ。
「お嬢様――お嬢様!」
屋敷の召使いが慌ててフレドリカのもとへ駆け寄ってくる。
「ノルダール伯爵です……! ノルダール伯爵が、単身この城へ……!」
「なっ……兵は!?」
「兵士たちではノルダール伯爵を捕えることができず――……あ、」
使用人が振り返ると、そこには――ずるずると触手を身体を這わせてやってきた、巨大な悪魔がいた。
そして、悪魔の後ろから、かつ、かつ、と靴を鳴らして男が現われる。
「やあ、久しぶり。イリス」
そこにいたのは、エディ。エディは帽子を取ると、うやうやしくお辞儀をした。イリスはそんな彼を気色悪いといった目で見つめる。
その横で、がくり、とモアが座り込んでしまった。恐怖のあまり、立っていられなくなったのだ。
「……モア。きみがイリスのところにいたとはね。せっかく育てたきみに逃げられて、俺は参っていたんだ。ついでにみつけられて僥倖だよ」
「エ、ディ……さま……」
「おいで、モア。帰ろう、俺の城へ」
ずるっ、と触手が凄まじい速度でモアの身体に巻き付いた。イリスとフレドリカも不意をつかれたせいか、反応はできず。そのままモアはエディのもとに引っ張り込まれてしまう。
「貴様ッ……!」
「女は邪魔だ、消えろ」
フレドリカが叫ぶと、エディは鬱陶しそうに顔をしかめた。そして、黒く輝く光を、いきおいよくフレドリカに向かって放つ。
「――フレドリカ!」
フレドリカはどんっと勢いよく、イリスに突き飛ばされた。黒い光はそのままイリスにぶつかって、イリスの身体を焼いてしまう。
「イリス!」
モアもフレドリカも、イリスが重傷を負ったのを見て悲鳴を上げた。
フレドリカはぎろりとエディを睨み上げながら立ち上がると、魔法を使って光の剣を編み出す。剣を掴むと、床を蹴ってエディに斬りかかった。
「貴様! モアを返せ!」
「おっと……ずいぶんとはしたないご令嬢だ」
「何が狙いだ、こんなところまで来て……!」
フレドリカの剣はエディの放つ黒い光の壁に阻まれる。フレドリカは唇をかみしめた。
「俺の天使の真価を見たいだけだよ」
「何をわけのわからないことを……!」
「まあ、いい。イリスはどうやらモアのことをかくまっていたようだし……モアのことを返してほしければ、俺を探してみてね。またね、イリス」
エディはフレドリカの剣を思い切りはじく。フレドリカがふらりとふらつけば、エディは黒い霧に包まれた。
イリスは血を流しながら、モアに手を伸ばす。
「モアッ……!」
しかし、手は届かない。
モアはエディと共に、黒い霧のなかに消えてしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
感想ありがとうございます!
2人の過去が気になるところですね( ´ ▽ ` )
エディの動きが怖いです…
幸せに暮らしている二人にイリスの上官が何かきな臭いものを運んで来ました?
モアもエディに捜しだされなければ良いけど 。
感想ありがとうございます!
怪しい雰囲気になってきました(T . T)
このまま幸せに暮らしていてほしいところですが…
冒頭から鬼気迫る描写で引き込まれますね!
短くテンポの良い文章が、そう思わせるのでしょうか。続きが気になります。
投票させていただきました!
応援しております!
感想ありがとうございます(o^^o)
投票もしていただき感無量です…!
楽しんでいただけるように頑張りますので、読んでいただけたら嬉しいです♪