BLUE~性奴隷になった没落貴族の青年は、愛の果てを知る~

うめこ

文字の大きさ
23 / 84
第三章:愚者は見て見ないフリ

5(2)

しおりを挟む


 理性の砕ける音すら聞こえなかった。気づけばエリスはラズワードに口付けていた。

 今までこんなにも劣情を駆られたことがあったか。それくらいに、そのキスには欲望だけを込めて深くラズワードを貪る。何度も何度も奴隷をひどく抱いてきて、こんなにも相手を欲しいと思ったのは初めてだ。

 深く、深く。熱も何もかも溶けてしまうような、激しいキス。

 
「……あ、……はぁ……」


 息が苦しくなって解放してやれば、ラズワードはくたりとエリスに体を預けてくる。はあはあと肩で息をして、目を閉じキスの余韻に浸っているかのように。脳みそまで蕩けてしまったのかと思わせるほどに頬を紅潮させ、体のすべてをエリスに捧げているように。 


「は……すげぇなおまえ……こうなっちゃうの? ハルにもみせてやれよ、流石にあいつだって今のおまえ見たらやる気だすと思うぜ?」

「……でも……ハル様は俺にそんなこと求めていないみたいですから……できません……」

「だってさ、おまえだってやっぱり主人に抱かれたほうがいいんだろ? ……それとも、こうして主人のことを想うながら違う男に抱かれたほうが興奮する?」


 エリスは自分に抱きついているラズワードを引き剥がすと、壁に押し付ける。そして顎を持ち上げ挑発的に笑ってやる。

 先ほど見せたハルへの忠誠心。それを煽って、情欲と理性に苦しむ顔をみたいと思ったのだ。きっと耐えようとすれば耐えようとするほどに、彼の熱は上昇する。ハルの前で涼しい顔でずっと熱を押さえ込んできて、今こうなっているのだから。……エリスはそう思った。

 しかし、ラズワードの表情はエリスの思ったものとは違うものへ変化する。辛そうに涙でも浮かべてくれるものだと期待した。しかし、そうではなかった。

 ラズワードは、ハ、と情欲と彼の本来持ち合わせている冷たさが混ざったような笑みを浮かべたのだ。


「……エリス様のおっしゃっている意味がわかりません。なぜ、ハル様を想いながら貴方に抱かれることによって興奮を覚えるのでしょうか?」

「お前の本当の愛するべき男はハル、さしずめ俺は間男ってところだろ? いいだろう、そういうの」

「……何か、エリス様は俺に誤解を抱いていますね」


 エリスの言葉をくだらないとでも言うかのようにラズワードは笑う。その欲に濡れた瞳でエリスを見つめ、顔に添えられたエリスの手に、自らの手を重ねる。ゆっくりとした仕草でエリスの手をどかすと、また、ラズワードは微笑みを浮かべる。


「そうです、確かに俺はハル様にすべてを捧げる……そう誓っています。それこそ身も心もすべて。……でもそれだけです。貴方に抱かれることに背徳感は覚えません。ましてやハル様は俺が貴方に抱かれることを許可したのでしょう。何を迷えと言うんですか?」

「お前さ、思わないの? いくらあいつにそういう感情ないとしたって、今お前は俺に全部許しているんだぞ? 後ろめたいとか全く感じないわけ?」

「……別に。俺がハル様にすべて捧げるということだって、ノワール様に命じられたことです、俺の意思じゃありません」

「……っ」


 恐ろしく冷たい声だった。血の気が引いたのを感じたくらいだ。それなのに、彼の瞳は熱を求めている。

 その矛盾するものが織り成すのは……更なる色香。

 エリスがまずいと思ったときにはもう手遅れであった。本能に歯止めが効かない。背筋の凍るような不気味な情欲。今まで感じたことのないそれが、ひどく理性を煽る。


「エリス様。どうなさいましたか?」

「……いや……」

「それなら、続きを……。今の俺は貴方のものです。はやく、貴方の欲望を全部、この体に……」


 ラズワードがエリスのリボンタイの端を唇で噛む。

 そして、スル、とそれを解いていく。


「……ま、まて……」


 ここで止めなければ……このままこいつを抱いたら……俺が、こいつに囚われる……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...