BLUE~性奴隷になった没落貴族の青年は、愛の果てを知る~

うめこ

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第三章:愚者は見て見ないフリ

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 エリスがなんとか絞り出した声も、届いているのかラズワードは上目遣いに笑っただけであった。今度は見せつけるようにシャツのボタンを外していく。

 ラズワードを抱いてみようと思ったのは気まぐれだった。軽くその具合を確かめたら、すぐにハルに返すつもりだったのである。それなのに、このまま進めば本格的に彼を欲しいと思ってしまう。そんな予感がする。

 流石にそれはだめだ。ラズワードはハルのもの。どんなにラズワードがハルに忠誠を誓っていようが、エリスがラズワードを欲するというのは、完全なるハルへの裏切りだ。


「……やめろ、ラズワード……!」

「……なぜ?」


 エリスがなんとか叫べば、ラズワードは不思議そうにエリスを見上げる。 


「……やっぱり、やめにしよう、……ハルに悪いだろ?」

「……元々そのつもりだったのでは?」

「……うるさい、気が変わったんだよ!」


 激しく音を鳴らす心臓と、湧き上がる劣情。それになんとか逆らって、理性を奮い立たせ、エリスは叫ぶ。

 ラズワードはそれを聞いて、ふう、と小さく息を吐いたかと思うとエリスから離れ壁に寄りかかる。その指にはエリスのリボンタイが絡めてあった。


「……そんなにおっしゃるのならやめましょうか?」

「ああ、そうしよう……どうしてもヤリたいってんなら奴隷かしてやる、それで解消しろ」

「奴隷が奴隷で性欲を処理しろっていうのもおかしな話ですね」


 くるくると指でリボンを弄ぶ。エリスはなぜかその動きに目が釘付けになっていた。


「でも、エリス様」

「ああ?」

「今、貴方の目の前には、その快楽がある……それをなぜ捨てることができるんです?」

「なんでって、理由はいっただろ、ハルに悪いからって……」

「……わかりません」


 声が冷たさを増してゆく。空気は重苦しくなっていき、エリスは呼吸をすることすらも、ラズワードの言動に左右されるようであった。 


「そもそも、裏切りの意味がわかりません。……それは信頼し合っている人の心を欺く行動のことです」

「そうだよ、そう言っているだろ」

「貴方はハル様と信頼関係にあるということですか?」

「はあ? 何年あいつと一緒に生活してると思っているんだよ……! 兄弟だぞ」

「兄弟だからといって信頼しあっているとは限らない。相手が自分を愛しているなんて、そんなことどうしてわかるのでしょうか」

「な……おまえ何言っているんだよ……」


 氷のような眼差し、その言葉。ラズワードはエリスのはだけた首元に手を伸ばす。するりと鎖骨を撫でられ、エリスは抵抗もできなかった。


「貴方が俺をどうしようと、ハル様への裏切りにはなりません。貴方とハル様の関係なんて家族だと言うつながりそれだけ。そのほかに貴方たちを結ぶものはありません」

「……おまえに何がわかるっていうんだよ」

「俺は人と人を結ぶ繋がりが、わかりません。俺にも兄弟がいましたが……そこに愛はなかった。見たことがないのです。愛というものを。……誰かの心にも、俺自身の心にも」


 口から発した言葉は、すべて壊されていく。冷たく、重く、悲しい言葉に。エリスはあまりにもはっきりとそんな言葉を断言されて、なにも言い返せなくなってしまった。真実がわからなくなっていく。


「エリス様。大丈夫です。貴方は裏切りなんてしません。貴方が俺をどうしようと、ハル様はショックもなにも受けませんよ。元々貴方のことなんて兄としか思っていない、血のつながりそれ以上の感情なんてないのですから」

「……いや……違、う……」

「そんなことより、本能に忠実に行動しましょう? 本能を裏切ることこそ……貴方を苦しめるんですよ」


 ラズワードがエリスの鎖骨に唇を這わす。いつの間にかエリスの手は、ラズワードの背に回っていた。手が、勝手にラズワードの体を這っていく。ラズワードの唾液が体を伝っていくのを感じて、また、熱が蘇る。
 
 鼓動がうるさい。ラズワードの言葉になにも言い返せない。だって、今、頭に浮かぶのはハルのことよりも、目の前にいるラズワードの体を貪りたいという欲だけなのだから。

 欲しい。こいつが、欲しい。


「エリス様……さあ、俺を使って、貴方の本能を確かめて……」


 そう、真実など――どうでもいい。


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