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第二章 Redemption -レデンプション-
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機械のうなる音が、午前の空気を震わせていた。
鉄を切る匂い。
油の焦げたような臭気。
廃材処理場の片隅で、綾辻は黙々と作業を続けていた。
ヘルメットの内側にこもる呼気が息苦しい。
夏が近いせいで、空気がやけに重い。
スイッチを押すたび、機械がうなる。
金属が噛み合い、粉塵が光を散らして舞う。
――昨日、真木がいちごみるくを飲んで笑っていた顔を、ふと、思い出した。
あれは確かに、幸せな時間だった。
何も考えず、ただ隣にいることが心地よかった。
けれど今、こうして鉄屑を前にしていると、あの時間がまるで他人の記憶みたいに遠い。
綾辻は額の汗を拭い、ため息をついた。
手袋の上からでも、手の震えがわかる。
疲れのせいではない。
――どうして、あんなに穏やかな人間が、自分の隣にいてくれるんだろう。
真木の笑顔を思い浮かべる。
白い指。柔らかい声。
それを見ているだけで、胸が痛む。
“あの人は、もっとまともな誰かといるべきだ。”
綾辻は、いつの間にかそう思うようになっていた。
自分のような人間ではなく、清潔で、まっすぐで、何かを壊したことのない人間と。
――でも、そう思えば思うほど、真木の存在を手放すことが怖くなる。
作業の手を止め、綾辻は空を仰いだ。
処理場の金網越しに見える空は、どこまでも白い。
雲ひとつないのに、光が刺すようにまぶしかった。
そのまぶしさが、まるで真木の笑顔と重なって見えた。
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