1 / 1
拝啓
しおりを挟む
あれから何年経っただろうか。滅茶苦茶に破壊された町は少しずつだが以前の姿を取り戻しつつある。
そして、娘もあの時から立派に成長し私と肩を並べるくらい大きくなっている。
大きくなった娘を見ていると小さかった頃を思い出す。あの時は幸せだった。
本人に話せば、「小さかった頃の話でしょ」と少し照れながら返すだろう。
いつか、そんな会話をする日が来るだろうか。
――――――――
真っ白な雪が降り積もり、雪かきに追われる日々。雪原と化した庭を楽しそうに駆け回る娘。
見ているだけで微笑ましくなる。大変な雪かきを娘を見ていると元気をもらえた。
雪かきの一区切りがついた頃、暖かい風が肌に当たった。季節外れの風だった。
でも、春の訪れを感じた瞬間でもあった。
懐かしい記憶だ。
冬が過ぎ、春になった。春風が娘と私を優しく包み込むように吹いている。
近くの公園に行き、娘の遊びに付き合った。蟻を見て、「頑張れ」とエールを送っている娘の姿。
自分も昔はしたなと懐かしい気持ちになった。
娘がどこかからか持ってきた植物の種を植えた。
いつか花が咲いたらいいねと笑いあった。
これも懐かしい記憶だ。
気が付けばあの時の情景は消え去り、復興中の町を歩く成長した娘の姿が見える。
手元には花束が握られている。大切そうに抱えている。
昔、よく行った公園を通りかかった。娘は公園をちらっと見るだけだった。
私は歩みを止め、公園のほうを向いた。
公園には一輪の花が咲いていた。この花を見る人がどれだけいるだろうか。
――――――――
迫りくるうねりから必死に逃げている。
娘を抱え、高台まで全力で走っている自分の姿が見える。
私にとっての宝をこんなところで失うわけにはいかなかった。
妻を早くに亡くし、傍にいたのは私だけだった。
娘には幸せになってもらいたかった。
私の願いは叶っているだろうか。
娘はその後、親戚の家に預けられた。
ずっと傍にいてやれなかったこと、それだけが後悔だ。
でも、娘は慣れない環境の中で必死に頑張っていた。
私は娘を見届けることしか出来なかった。
――――――――
「お父さん、私17歳になったよ」
娘が向かっていたのは私の墓だった。墓標には私と妻の名前が書かれている。抱えていた花束をそっと供え、手を合わせた。
あの時から10年が経ち、娘は見違えるほど大きくなった。
父として誇らしくもあるが、私の知っていた娘では無くなっていくような気がして寂しかった。
「色々大変なこともあるけど、私は頑張ってるよ」
「お父さんはあの世でお母さんと仲良く暮らしてる?」
「私もいつかはそっちに行くことにはなるけど、まだ行く気は無いから。いつか会ったら楽しく話そうね」
そう言った娘の顔は穏やかだった。私も今こっちに来られたら困る。
娘がどんな人生を歩むのか、しっかりと見届けたい。
「じゃあね。また来るから」
娘はそう言うと同じ制服を着た男子の元へ向かっていった。
二人の頭上には大きな桜が咲き誇っていた。
いつかは幸せになる君へ。
敬具
そして、娘もあの時から立派に成長し私と肩を並べるくらい大きくなっている。
大きくなった娘を見ていると小さかった頃を思い出す。あの時は幸せだった。
本人に話せば、「小さかった頃の話でしょ」と少し照れながら返すだろう。
いつか、そんな会話をする日が来るだろうか。
――――――――
真っ白な雪が降り積もり、雪かきに追われる日々。雪原と化した庭を楽しそうに駆け回る娘。
見ているだけで微笑ましくなる。大変な雪かきを娘を見ていると元気をもらえた。
雪かきの一区切りがついた頃、暖かい風が肌に当たった。季節外れの風だった。
でも、春の訪れを感じた瞬間でもあった。
懐かしい記憶だ。
冬が過ぎ、春になった。春風が娘と私を優しく包み込むように吹いている。
近くの公園に行き、娘の遊びに付き合った。蟻を見て、「頑張れ」とエールを送っている娘の姿。
自分も昔はしたなと懐かしい気持ちになった。
娘がどこかからか持ってきた植物の種を植えた。
いつか花が咲いたらいいねと笑いあった。
これも懐かしい記憶だ。
気が付けばあの時の情景は消え去り、復興中の町を歩く成長した娘の姿が見える。
手元には花束が握られている。大切そうに抱えている。
昔、よく行った公園を通りかかった。娘は公園をちらっと見るだけだった。
私は歩みを止め、公園のほうを向いた。
公園には一輪の花が咲いていた。この花を見る人がどれだけいるだろうか。
――――――――
迫りくるうねりから必死に逃げている。
娘を抱え、高台まで全力で走っている自分の姿が見える。
私にとっての宝をこんなところで失うわけにはいかなかった。
妻を早くに亡くし、傍にいたのは私だけだった。
娘には幸せになってもらいたかった。
私の願いは叶っているだろうか。
娘はその後、親戚の家に預けられた。
ずっと傍にいてやれなかったこと、それだけが後悔だ。
でも、娘は慣れない環境の中で必死に頑張っていた。
私は娘を見届けることしか出来なかった。
――――――――
「お父さん、私17歳になったよ」
娘が向かっていたのは私の墓だった。墓標には私と妻の名前が書かれている。抱えていた花束をそっと供え、手を合わせた。
あの時から10年が経ち、娘は見違えるほど大きくなった。
父として誇らしくもあるが、私の知っていた娘では無くなっていくような気がして寂しかった。
「色々大変なこともあるけど、私は頑張ってるよ」
「お父さんはあの世でお母さんと仲良く暮らしてる?」
「私もいつかはそっちに行くことにはなるけど、まだ行く気は無いから。いつか会ったら楽しく話そうね」
そう言った娘の顔は穏やかだった。私も今こっちに来られたら困る。
娘がどんな人生を歩むのか、しっかりと見届けたい。
「じゃあね。また来るから」
娘はそう言うと同じ制服を着た男子の元へ向かっていった。
二人の頭上には大きな桜が咲き誇っていた。
いつかは幸せになる君へ。
敬具
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
ネタバレ含む
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。