【完結】理想の人に恋をするとは限らない

miniko

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5 僕の婚約者(ミゲル視点)

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「君みたいな幼い顔立ちの子は好みじゃない」

今思えば、何故あんな事を言ってしまったのか?
僕はあれからずっと後悔している。


「私も貴方のように線の細いタイプの男性は好みではありません。
そもそも、この縁談は政略であり、私達の異性の好みは関係ありません」

ツンと澄ました顔で、キッパリ言い切った彼女の言葉に、横っ面を引っ叩かれた様な感覚がした。

僕の容姿は、貴族令嬢達には概ね好まれる。ちやほやされて、良い気になっていたのかもしれない。
或いは、事前になんの説明もなく、婚約者と引き合わされた事に対する苛立ちを、何の非もない彼女にぶつけてしまったのか。

どちらにしても、彼女にとっては、暴言以外の何物でも無い。

僕に好みがある様に、彼女にだって好みはあるのだ。
それでも彼女は、政略結婚という自分の責務を全うしようと、僕に誠意を持って接してくれていたというのに・・・・・・
幼いのは、僕の方だ。

急に自分が恥ずかしくなり、小さく謝罪の言葉を吐き出した。

「分かって頂けたのなら、結構ですわ」

そう言って微笑んだ彼女は、幼い顔立ちの筈なのに、実年齢よりひどく大人びて見えて、美しかった。

僕の心臓がドクリと音を立てる。



「ねぇ、コレどうかしら?」

二人で街を歩いている途中。
ナディアが、露店で売られていた黄色いリボンを手に取り、自分の髪に当てた。

「コッチの方が、絶対に似合うよ」

クリーム色のレース編みのリボンを手渡すと、ナディアは満足気に頷く。

最初に濃い色を手に取ったとしても、彼女が最終的に選ぶのは、必ず淡い色なのだ。

色なら、パステルカラー。
花なら、ガーベラ。
舞台なら、恋愛物。
菓子なら、チーズケーキ。

他にも色々・・・・・・。
彼女を観察して、好きなものを探る。
少しでも喜ばせたくて必死だ。
最初から大きなマイナスポイントが付いてしまった僕の好感度は、それでもなかなか上がらない。

鍛錬に励んだりもしたが、剣の技術は良い線まで行っても、体型は変わらなかった。
どうやら、僕は筋肉が付きにくい体質の様だ。


彼女はその可愛らしい見た目に反して、とてもしっかりしている。
僕の好みだった「美人系」では無いけれど、芯の強い女性だった。
初めて会った時と同様に、僕が間違った事をしそうな時には、ハッキリと意見してくれる所も好ましい。

気が付けば、好みじゃなかったはずの彼女の容姿も含めて、全てが愛しいと感じる様になっていた。
いや、本当は最初から・・・僕の謝罪を受け入れてくれた、あの時から、僕の心は彼女に囚われていたのかもしれない。

しかし、今更どのツラ下げて、愛の言葉を伝えれば良いのか。
伝えた所で、義務感からだろうと言われるのがオチだ。
今迄どんなにプレゼントを贈ろうと、優しく接しようと〝婚約者の義務を果たしてくれている〟程度にしか思われていないのだから。

それに・・・・・・
もしも、僕の気持ちが伝わったとしても、きっと彼女を困らせるだけだ。
結局彼女が好きになるのは、サムディオ侯爵令息の様な容姿の男なのだから。
彼女の事をずっと観察してきたのだから、それくらいは解っている。


そのリカルド・サムディオが・・・、僕のナディアの白魚の様な指に、口付けを落とした。
ナディアの頬が、みるみる内に薔薇色に染まるのを見た時、心臓が握り潰されたかのように痛んだ。

ーーーやっぱり、そうなのか。

『貴方のように線の細いタイプの男性は好みではありません。
騎士様のように筋肉質で、頼れる殿方が好みです』

彼女の言葉が頭の中に蘇る。
背中に嫌な汗が伝って、眩暈がしそうだ。

「サムディオ様、この子は僕の婚約者です。
気軽に触れられては困ります!」

自分でも驚く程に、低い声が出た。
リカルド・サムディオの余裕の表情が癪に触る。



あの日の彼女の言葉は小さな棘となり、僕の心の深い所に刺さったまま。

今でも時折ズキズキと疼く。

僕が先に放ったあの言葉も、彼女の心を今もまだ、傷付け続けているのだろうか?
もしそうなら・・・彼女もこんなに苦しい思いをしているならと考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
しかし、同時に仄暗い悦びを感じてしまう自分がいるのだ。

ナディアが僕の言葉を全く気にしていないのなら、彼女にとっての僕の存在が、その程度の大きさだという事になってしまうのだから。


だったらいっそ、棘でも良いから、彼女の中に僕の一部が残っていれば良い。
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