【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko

文字の大きさ
4 / 18

4 芽生えた想い(ジュリアン視点)

しおりを挟む
「婚約・・・ですか?」

謁見の間に呼び出された僕は、意外な用件に驚いた。

「そうだ。そろそろお前にも婚約者を決めねばならない」

「しかし、僕はまだ9歳ですよ?
それに第4王子の婚約など、さほど重要とは思えません。
何もそんなに急いで決めなくても良いのではないですか?」

僕の発言に、陛下は渋面を作る。

「もう、9歳だ。
一年以内には、何とかしたい。
高くないとは言え、お前にも王位継承権はあるのだ。
いつまでも婚約者を決めずにいれば、変な思想を持った家が近寄り、お前を担ぎ上げようとする可能性だってあるのだぞ」

成る程。
継承権が低く幼い王子の方が、傀儡にするには適していると考える者もいるのかもしれない。

「・・・もう、候補者は選んであるのですか?」

「それだが、侯爵家以上で、お前と年齢が合うご令嬢は、1人しかおらぬのだ」

それを聞いて、僕は思わず眉根を寄せた。

「もしや、ベルジュロン公爵家のリュシエンヌ嬢ですか?
しかし、彼女の良い噂はあまり聞きません。
家族に溺愛され、少々我儘に育ったご令嬢で、容姿も平凡であると聞いています」

「確かに、私もその様な話は聞いた事がある。
だが、噂だけで判断するものでも無いだろう。
一度会ってみてはどうかな?
どうしても相性が悪い様なら、伯爵家のご令嬢も含めて検討しようではないか」

「・・・・・・わかりました」



陛下の手前、顔合わせには了承したが、正直言うと、僕はあまり気が進まなかった。
第4王子である僕には、強力な後ろ盾など必要ない。
ならば、伯爵令嬢でも構わないじゃないかと思っていたのだ。

だが、僕はこの顔合わせで、運命の女性に出会う事になる。



ーーーなんだ、可愛いじゃないか。

それが、彼女の第一印象だった。

確かに、派手な顔立ちでは無いが、それなりに整っている。
オレンジ色の髪は、日差しの元でキラキラと輝いて、ヘーゼルの瞳は複雑な光彩を放っていた。

しかし、その瞳と目が合った瞬間・・・・・・
苦悶の表情を浮かべた彼女の体がグラリと揺らぎ、地面に崩れ落ちそうになる。
僕は慌てて彼女を抱き止め、その顔を覗き込んだ。
美しいヘーゼルの瞳がゆっくりと閉じられ、そのまま彼女は意識を手放した。

人が倒れる所を初めて見た。
彼女は大丈夫だろうか?


翌日になっても、彼女が目覚めないと聞いた時、なぜか居ても立っても居られずに、公爵邸に見舞いに行った。

ベッドサイドに座り、苦し気な表情で眠り続ける彼女を見ていたら、思わずその手を握ってしまった。
意識のないご令嬢の手に勝手に触れるなんて・・・・・・。
我に返って放そうとすると、彼女がうっすら目を開けた。

「・・・・・・・行かな・・・で・・・、一人は・・・いや・・・」

「大丈夫。どこにも行かないよ」

ヘーゼルの瞳から、一筋の涙が溢れる。
片手で彼女の手を握りしめながら、ベッドサイドに用意されていた濡れた手拭いで、彼女の額の汗と涙を拭いた。

「あぁ、・・・ありが・・・とう。
・・・・・・大、好きよ・・・」

囁くように紡がれたその言葉に、目を見張った。
心臓が痛いくらいに拍動している。

王子である僕にその言葉を囁く女性など、うんざりする程居ると言うのに、何故こんなにも胸が騒ぐのだろうか?

彼女は力無く微笑むと、再び眠りについてしまった。


あの時、彼女の意識は朦朧として、瞳は遠くを見つめていた。
自分に向けた言葉で無い事は、明らかだ。
おそらく、彼女の家族か、信頼している使用人の誰かと勘違いでもしたのだろう。

その事が、酷く悔しかった。


『大好きよ』

いつか、その言葉を自分に向けて欲しいと思ったんだ。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【完結】前世の記憶があっても役に立たないんですが!

kana
恋愛
前世を思い出したのは階段からの落下中。 絶体絶命のピンチも自力で乗り切ったアリシア。 ここはゲームの世界なのか、ただの転生なのかも分からない。 前世を思い出したことで変わったのは性格だけ。 チートともないけど前向きな性格で我が道を行くアリシア。 そんな時ヒロイン?登場でピンチに・・・ ユルい設定になっています。 作者の力不足はお許しください。

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

悪役令嬢に転生したようですが、前世の記憶が戻り意識がはっきりしたのでセオリー通りに行こうと思います

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したのでとりあえずセオリー通り悪役ルートは回避する方向で。あとはなるようになれ、なお話。 ご都合主義の書きたいところだけ書き殴ったやつ。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...