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4 芽生えた想い(ジュリアン視点)
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「婚約・・・ですか?」
謁見の間に呼び出された僕は、意外な用件に驚いた。
「そうだ。そろそろお前にも婚約者を決めねばならない」
「しかし、僕はまだ9歳ですよ?
それに第4王子の婚約など、さほど重要とは思えません。
何もそんなに急いで決めなくても良いのではないですか?」
僕の発言に、陛下は渋面を作る。
「もう、9歳だ。
一年以内には、何とかしたい。
高くないとは言え、お前にも王位継承権はあるのだ。
いつまでも婚約者を決めずにいれば、変な思想を持った家が近寄り、お前を担ぎ上げようとする可能性だってあるのだぞ」
成る程。
継承権が低く幼い王子の方が、傀儡にするには適していると考える者もいるのかもしれない。
「・・・もう、候補者は選んであるのですか?」
「それだが、侯爵家以上で、お前と年齢が合うご令嬢は、1人しかおらぬのだ」
それを聞いて、僕は思わず眉根を寄せた。
「もしや、ベルジュロン公爵家のリュシエンヌ嬢ですか?
しかし、彼女の良い噂はあまり聞きません。
家族に溺愛され、少々我儘に育ったご令嬢で、容姿も平凡であると聞いています」
「確かに、私もその様な話は聞いた事がある。
だが、噂だけで判断するものでも無いだろう。
一度会ってみてはどうかな?
どうしても相性が悪い様なら、伯爵家のご令嬢も含めて検討しようではないか」
「・・・・・・わかりました」
陛下の手前、顔合わせには了承したが、正直言うと、僕はあまり気が進まなかった。
第4王子である僕には、強力な後ろ盾など必要ない。
ならば、伯爵令嬢でも構わないじゃないかと思っていたのだ。
だが、僕はこの顔合わせで、運命の女性に出会う事になる。
ーーーなんだ、可愛いじゃないか。
それが、彼女の第一印象だった。
確かに、派手な顔立ちでは無いが、それなりに整っている。
オレンジ色の髪は、日差しの元でキラキラと輝いて、ヘーゼルの瞳は複雑な光彩を放っていた。
しかし、その瞳と目が合った瞬間・・・・・・
苦悶の表情を浮かべた彼女の体がグラリと揺らぎ、地面に崩れ落ちそうになる。
僕は慌てて彼女を抱き止め、その顔を覗き込んだ。
美しいヘーゼルの瞳がゆっくりと閉じられ、そのまま彼女は意識を手放した。
人が倒れる所を初めて見た。
彼女は大丈夫だろうか?
翌日になっても、彼女が目覚めないと聞いた時、なぜか居ても立っても居られずに、公爵邸に見舞いに行った。
ベッドサイドに座り、苦し気な表情で眠り続ける彼女を見ていたら、思わずその手を握ってしまった。
意識のないご令嬢の手に勝手に触れるなんて・・・・・・。
我に返って放そうとすると、彼女がうっすら目を開けた。
「・・・・・・・行かな・・・で・・・、一人は・・・いや・・・」
「大丈夫。どこにも行かないよ」
ヘーゼルの瞳から、一筋の涙が溢れる。
片手で彼女の手を握りしめながら、ベッドサイドに用意されていた濡れた手拭いで、彼女の額の汗と涙を拭いた。
「あぁ、・・・ありが・・・とう。
・・・・・・大、好きよ・・・」
囁くように紡がれたその言葉に、目を見張った。
心臓が痛いくらいに拍動している。
王子である僕にその言葉を囁く女性など、うんざりする程居ると言うのに、何故こんなにも胸が騒ぐのだろうか?
彼女は力無く微笑むと、再び眠りについてしまった。
あの時、彼女の意識は朦朧として、瞳は遠くを見つめていた。
自分に向けた言葉で無い事は、明らかだ。
おそらく、彼女の家族か、信頼している使用人の誰かと勘違いでもしたのだろう。
その事が、酷く悔しかった。
『大好きよ』
いつか、その言葉を自分に向けて欲しいと思ったんだ。
謁見の間に呼び出された僕は、意外な用件に驚いた。
「そうだ。そろそろお前にも婚約者を決めねばならない」
「しかし、僕はまだ9歳ですよ?
それに第4王子の婚約など、さほど重要とは思えません。
何もそんなに急いで決めなくても良いのではないですか?」
僕の発言に、陛下は渋面を作る。
「もう、9歳だ。
一年以内には、何とかしたい。
高くないとは言え、お前にも王位継承権はあるのだ。
いつまでも婚約者を決めずにいれば、変な思想を持った家が近寄り、お前を担ぎ上げようとする可能性だってあるのだぞ」
成る程。
継承権が低く幼い王子の方が、傀儡にするには適していると考える者もいるのかもしれない。
「・・・もう、候補者は選んであるのですか?」
「それだが、侯爵家以上で、お前と年齢が合うご令嬢は、1人しかおらぬのだ」
それを聞いて、僕は思わず眉根を寄せた。
「もしや、ベルジュロン公爵家のリュシエンヌ嬢ですか?
しかし、彼女の良い噂はあまり聞きません。
家族に溺愛され、少々我儘に育ったご令嬢で、容姿も平凡であると聞いています」
「確かに、私もその様な話は聞いた事がある。
だが、噂だけで判断するものでも無いだろう。
一度会ってみてはどうかな?
どうしても相性が悪い様なら、伯爵家のご令嬢も含めて検討しようではないか」
「・・・・・・わかりました」
陛下の手前、顔合わせには了承したが、正直言うと、僕はあまり気が進まなかった。
第4王子である僕には、強力な後ろ盾など必要ない。
ならば、伯爵令嬢でも構わないじゃないかと思っていたのだ。
だが、僕はこの顔合わせで、運命の女性に出会う事になる。
ーーーなんだ、可愛いじゃないか。
それが、彼女の第一印象だった。
確かに、派手な顔立ちでは無いが、それなりに整っている。
オレンジ色の髪は、日差しの元でキラキラと輝いて、ヘーゼルの瞳は複雑な光彩を放っていた。
しかし、その瞳と目が合った瞬間・・・・・・
苦悶の表情を浮かべた彼女の体がグラリと揺らぎ、地面に崩れ落ちそうになる。
僕は慌てて彼女を抱き止め、その顔を覗き込んだ。
美しいヘーゼルの瞳がゆっくりと閉じられ、そのまま彼女は意識を手放した。
人が倒れる所を初めて見た。
彼女は大丈夫だろうか?
翌日になっても、彼女が目覚めないと聞いた時、なぜか居ても立っても居られずに、公爵邸に見舞いに行った。
ベッドサイドに座り、苦し気な表情で眠り続ける彼女を見ていたら、思わずその手を握ってしまった。
意識のないご令嬢の手に勝手に触れるなんて・・・・・・。
我に返って放そうとすると、彼女がうっすら目を開けた。
「・・・・・・・行かな・・・で・・・、一人は・・・いや・・・」
「大丈夫。どこにも行かないよ」
ヘーゼルの瞳から、一筋の涙が溢れる。
片手で彼女の手を握りしめながら、ベッドサイドに用意されていた濡れた手拭いで、彼女の額の汗と涙を拭いた。
「あぁ、・・・ありが・・・とう。
・・・・・・大、好きよ・・・」
囁くように紡がれたその言葉に、目を見張った。
心臓が痛いくらいに拍動している。
王子である僕にその言葉を囁く女性など、うんざりする程居ると言うのに、何故こんなにも胸が騒ぐのだろうか?
彼女は力無く微笑むと、再び眠りについてしまった。
あの時、彼女の意識は朦朧として、瞳は遠くを見つめていた。
自分に向けた言葉で無い事は、明らかだ。
おそらく、彼女の家族か、信頼している使用人の誰かと勘違いでもしたのだろう。
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いつか、その言葉を自分に向けて欲しいと思ったんだ。
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