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6 近づく二人の距離
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降ろされたのは、王都の中心にある、緑豊かな大きな公園。
この公園を境に、城とは反対側の区域が、平民が多く居住する街だ。
街並みは、ヨーロッパ風であるが、売られている物や店内の雰囲気などは、日本のそれと良く似ていた。
日本人が作ったゲームの世界の中なのだから、それも必然なのかもしれない。
「昼食はどうする?
平民街でも、ちょっと上品な食堂とかもあるけど・・・」
「公園の周りに、食べ物の屋台が沢山出ているって聞きました。
折角なので、そういった物の方が良いのですが・・・。
殿下はそういうのは召し上がれませんかね?」
「いや、君が良いならそうしよう。
それより〝殿下〟はマズい。
ジュリアンと呼んでくれ。
〝様〟も無しだ」
「ああ、そうでした!
すみません、ジュリアン」
素直にそう呼ぶと、殿下は満足そうな笑顔になる。
裕福な商家の設定ならば、敬称くらい付けても良いのでは?とも思ったが、殿下も嬉しそうだし、ここは言う通りにしておこう。
「僕も、君をリュシーと呼んでも?」
「ええ。勿論です」
私達は手を繋いで、屋台を見て回った。
やはり、日本でも売られていた物が多い。
醤油やソースの焼ける香ばしい香りが、あちこちから漂ってくる。
私は、パニーニっぽいサンドイッチとイチゴのスムージーを注文した。
殿下は、かなり大きめな、焼き鳥っぽい串焼きを買った。
「いただきます」
ベンチに座って、齧り付く。
美味しい!蕩けたチーズとトマトとハムの相性は間違い無いね。
モグモグ食べて、スムージーを飲んでいると、殿下が私をジッと見詰めていた。
「なんですか?ジュリアン。
口の周りに何か付いてます?」
「いや、美味しそうに飲むなって思って」
「あ、一口飲みますか?」
スムージーを差し出すと、殿下が真っ赤になった。
「それ、は・・・、君が使ったストローを、僕も使うって事だよね?
君は、嫌じゃ無いの?」
「・・・ん?
別に嫌では・・・」
と、言いかけて、やっと気付く。
ここは日本じゃ無いし、私は平民では無いのだと。
前世で、女友達や彼氏と普通にやってた事が、自然に出てしまった。
いくら私がまだ子供でも、流石にコレは無い。
途端に私も赤くなる。
「やっぱ、り・・・」
引っ込めようとした手を、殿下に掴まれ、スムージーを奪われた。
殿下は赤い顔のまま、私の飲みかけのスムージーを飲む。
「うん。美味しいね」
「~~~っっ!!」
手に戻されたスムージーを、私が再び飲み始めるのを、殿下はニコニコしながら嬉しそうに待っていた。
今は姿が見えないけど、王子の護衛達も何処かに隠れて見守っているんだよね?
なんなんだ、この羞恥プレイは?
自分のせいだけど。
食後の運動がてら、露店を眺めながら、街を歩く。
殿下がお土産のオルゴールを買ったお店が、今日も出店していた。
小鳥の代わりにリスや、ウサギが出てくるバージョンもあった。
「色々種類が有りますが、ジュリアンがくれた小鳥が、一番素敵ですね」
「だろ?
絶対リュシーが気に入りそうだと思ったんだ」
得意気に胸を張る殿下が、いつもより少し幼く見えて、可愛らしい。
再び歩き出す。
多種多様な店の中で、気になる物を見つけて、ふと足を止めた。
「ん?リュシーが気になるのは、コレかな?」
殿下が手に取ったのは、蝶を象った金の髪飾りだ。
まさに、私が見ていた物だった。
視線の先には他にも沢山の品があったのに、なぜ分かるのか?
超能力者なのか?
殿下はその髪飾りを購入すると、私の髪に着けた。
「うん。似合うね」
「ありがとうございます」
あちこち見て回り、気が付けば、かなりの時間散策していたらしい。
日が傾きかけている。
「名残惜しいけど、そろそろ送って行かないとね」
手を繋いで、もと来た道を戻り、馬車に乗り込む。
「前から思ってたけど、リュシーは、あんまり公爵令嬢らしくないよね」
「そうでしょうか?」
「うん。普通の令嬢は、屋台の物を食べるなんて嫌がるかと思ってた」
それは前世が庶民だからだ。
「そうかもしれませんが、私は機会があるのならば、生きている内に様々な経験がしてみたいのです。
その方が、人生が豊かになるでしょう?」
前世では、若くして死んじゃったしね。
「そうか・・・また行きたいね。街歩き」
「はい」
私を見つめる殿下が、眩しそうに目を細める。
彼の美しい瞳に見つめられるのは、まだ慣れない。
彼の顔が少し赤いのは、窓から差し込む夕陽のせいだろうか?
私の顔が赤くなっていたとしても、夕陽のせいだと思って欲しい。
私達は、婚約者として上手く行っている様に思えるんだけど・・・・・・
それはヒロインが、まだ登場していないからなのかな?
ヒロインが現れたら、全てが変わってしまうのかも。
だから、彼を好きになってはいけない。
この公園を境に、城とは反対側の区域が、平民が多く居住する街だ。
街並みは、ヨーロッパ風であるが、売られている物や店内の雰囲気などは、日本のそれと良く似ていた。
日本人が作ったゲームの世界の中なのだから、それも必然なのかもしれない。
「昼食はどうする?
平民街でも、ちょっと上品な食堂とかもあるけど・・・」
「公園の周りに、食べ物の屋台が沢山出ているって聞きました。
折角なので、そういった物の方が良いのですが・・・。
殿下はそういうのは召し上がれませんかね?」
「いや、君が良いならそうしよう。
それより〝殿下〟はマズい。
ジュリアンと呼んでくれ。
〝様〟も無しだ」
「ああ、そうでした!
すみません、ジュリアン」
素直にそう呼ぶと、殿下は満足そうな笑顔になる。
裕福な商家の設定ならば、敬称くらい付けても良いのでは?とも思ったが、殿下も嬉しそうだし、ここは言う通りにしておこう。
「僕も、君をリュシーと呼んでも?」
「ええ。勿論です」
私達は手を繋いで、屋台を見て回った。
やはり、日本でも売られていた物が多い。
醤油やソースの焼ける香ばしい香りが、あちこちから漂ってくる。
私は、パニーニっぽいサンドイッチとイチゴのスムージーを注文した。
殿下は、かなり大きめな、焼き鳥っぽい串焼きを買った。
「いただきます」
ベンチに座って、齧り付く。
美味しい!蕩けたチーズとトマトとハムの相性は間違い無いね。
モグモグ食べて、スムージーを飲んでいると、殿下が私をジッと見詰めていた。
「なんですか?ジュリアン。
口の周りに何か付いてます?」
「いや、美味しそうに飲むなって思って」
「あ、一口飲みますか?」
スムージーを差し出すと、殿下が真っ赤になった。
「それ、は・・・、君が使ったストローを、僕も使うって事だよね?
君は、嫌じゃ無いの?」
「・・・ん?
別に嫌では・・・」
と、言いかけて、やっと気付く。
ここは日本じゃ無いし、私は平民では無いのだと。
前世で、女友達や彼氏と普通にやってた事が、自然に出てしまった。
いくら私がまだ子供でも、流石にコレは無い。
途端に私も赤くなる。
「やっぱ、り・・・」
引っ込めようとした手を、殿下に掴まれ、スムージーを奪われた。
殿下は赤い顔のまま、私の飲みかけのスムージーを飲む。
「うん。美味しいね」
「~~~っっ!!」
手に戻されたスムージーを、私が再び飲み始めるのを、殿下はニコニコしながら嬉しそうに待っていた。
今は姿が見えないけど、王子の護衛達も何処かに隠れて見守っているんだよね?
なんなんだ、この羞恥プレイは?
自分のせいだけど。
食後の運動がてら、露店を眺めながら、街を歩く。
殿下がお土産のオルゴールを買ったお店が、今日も出店していた。
小鳥の代わりにリスや、ウサギが出てくるバージョンもあった。
「色々種類が有りますが、ジュリアンがくれた小鳥が、一番素敵ですね」
「だろ?
絶対リュシーが気に入りそうだと思ったんだ」
得意気に胸を張る殿下が、いつもより少し幼く見えて、可愛らしい。
再び歩き出す。
多種多様な店の中で、気になる物を見つけて、ふと足を止めた。
「ん?リュシーが気になるのは、コレかな?」
殿下が手に取ったのは、蝶を象った金の髪飾りだ。
まさに、私が見ていた物だった。
視線の先には他にも沢山の品があったのに、なぜ分かるのか?
超能力者なのか?
殿下はその髪飾りを購入すると、私の髪に着けた。
「うん。似合うね」
「ありがとうございます」
あちこち見て回り、気が付けば、かなりの時間散策していたらしい。
日が傾きかけている。
「名残惜しいけど、そろそろ送って行かないとね」
手を繋いで、もと来た道を戻り、馬車に乗り込む。
「前から思ってたけど、リュシーは、あんまり公爵令嬢らしくないよね」
「そうでしょうか?」
「うん。普通の令嬢は、屋台の物を食べるなんて嫌がるかと思ってた」
それは前世が庶民だからだ。
「そうかもしれませんが、私は機会があるのならば、生きている内に様々な経験がしてみたいのです。
その方が、人生が豊かになるでしょう?」
前世では、若くして死んじゃったしね。
「そうか・・・また行きたいね。街歩き」
「はい」
私を見つめる殿下が、眩しそうに目を細める。
彼の美しい瞳に見つめられるのは、まだ慣れない。
彼の顔が少し赤いのは、窓から差し込む夕陽のせいだろうか?
私の顔が赤くなっていたとしても、夕陽のせいだと思って欲しい。
私達は、婚約者として上手く行っている様に思えるんだけど・・・・・・
それはヒロインが、まだ登場していないからなのかな?
ヒロインが現れたら、全てが変わってしまうのかも。
だから、彼を好きになってはいけない。
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