【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko

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9 王子様は愛を乞う

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殿下のエスコートで、帰りの馬車に乗り込んだ。
馬車の窓から差し込む西日が、ジュリアン殿下の金色の髪を眩しく輝かせている。
逆光で、彼の表情がよく見えない。

話とは、やはりヒロインとの事だろうか?


「あの・・・、殿下、もしも学園で好きな女性が出来たのでしたら・・・」

沈黙に耐えきれずに切り出すと、彼は不機嫌そうに目を細める。

「は?何で急にそんな話になるの?
僕はただ、入学式の途中から、リュシーの様子がおかしかったから、何かあったのかと心配になっただけだよ」

「あ・・・・・・」

まさか、壇上から私の事を見ていたなんて、思わなかった。

「リュシーは、すぐに僕から逃げようとするよね。
もしかして、さっきの幼馴染のせい?」

氷のように冷たい瞳に、思わず肩が震えた。

「・・・ドナルドは関係ありません」

「本当に?じゃあ、何故?
君は以前にも何度か、婚約解消の話をしていたよね。
僕の気持ちは態度で伝えて来たつもりなんだけど、ハッキリ言わないと分からない?」

殿下は苛立たし気に眉根を寄せる。

「僕はリュシーが好きなんだよ」



「・・・・・・あ、の、何故私なんかを」

「あのさ、僕の好きな人を〝なんか〟とか言わないでくれる?
自分でも何故かなんて分からないよ。
だけど、初めて会った時から、君の事が気になって仕方なかった」

「初めて・・・公爵邸にお見舞いに来てくださって、最初にお話しした時ですか?」

「いや、君が倒れた時だよ」


ーーーああ、そういう事か。
ならば、それはやはり愛ではない。


「殿下、それは吊り橋効果です」

「吊り橋?」

怪訝そうな顔をする殿下に、丁寧に説明する。

「例えば、男女が一緒に吊り橋を渡るとします。
高くて今にも落ちそうに揺れる吊り橋に、恐怖を感じて鼓動が高まると、そのドキドキを一緒にいる相手への恋愛感情だと、脳が錯覚する事があるのです。
言わば脳の勘違いです。
それと同じ様に、殿下は目の前で人が倒れるのを初めて見て、驚いて心拍が上がったのでは?」

この世界に『吊り橋効果』と言う言葉が存在するのか分からないが、これで意味は通じたと思う。

暫く沈黙した後、殿下は深く長い息を吐いた。

「・・・成る程ね。
君の言いたい事は分かったよ。
切っ掛けは、もしかしたら、そうなのかも知れない。
だけど、僕達はそれから7年間も、共に過ごして来た筈だ」

「・・・・・・」

「好きだよ、リュシー。
君が、優しい事も、努力家な事も、家族思いな事も、好奇心旺盛な事も、ちょっぴりドジな事も知ってる。
その全部が愛しいよ。
それでも、君は、この気持ちが勘違いだって言うの?」

彼の水色の瞳に真剣に見つめられ、鼓動が速くなるのを抑えられない。

「あの・・・・・・」

どう答えたら良いの?
言葉が見つからない。

「・・・・・・まあ良いや。
君が僕から逃げたがるのは、きっと何か理由があるのだろう?
だから今はまだ、好きな様にすれば良いよ。
逃がしてあげるつもりは無いけどね」

幼い子供を宥めるように、大きな手が、優しく私の髪を撫でた。



自室に戻った私は、ベッドに寝転び、無意味に天井を見つめる。

『全部が、愛しい』

彼の言葉を思い出し、頬に熱が集まって、一人で身悶える。


ーーー殿下の言葉を信じたい。

でも、この世界は乙女ゲームだ。
いつ強制力が働き始めるか、分からない。

しかも、王子妃になるならば、折角楽しくなって来た、魔道具の開発も諦めなければならないだろうし。


そもそも、ジュリアン殿下は私と結婚して、本当に幸せになれるのか?
ヒロインに支えられて、玉座を目指すべきなのではないか?
国王を目指さなかった事を、いつか後悔するかも知れない。

それは、嫌だな。
殿下には幸せになって貰いたい。



枕元に飾ってあった、木彫りのオルゴールを手に取る。
蓋を開けると、懐かしいメロディが奏でられる。
幼い頃から重ねた日々を思い出しながら、クルクル踊る可愛い小鳥を、いつまでもボンヤリと眺めていた。
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