3 / 16
3 カフェでの騒動
婚約破棄についての話は、すぐにセルヴィッチ侯爵家に伝えられた。
不貞による慰謝料の支払いや、支援金の返済、オズワルドに支給した支度金の返済など、合わせると莫大な額になる。
セルヴィッチ侯爵家の財政難を考えると、全てを回収するのは難しいかもしれない。
今も返済方法や期限についての折衝が続けられている。
因みに支度金の用途として、婚約者である私へのプレゼントの購入費も含まれているのだが、一度も、花一輪さえも、贈られたことがない。
多分それもライラに流用されていたのだろう。
厚かましいにも程がある。
邸に閉じ籠っているのにも飽きた私は、専属侍女のドナを呼んだ。
「外出するので同行して欲しいの。王都に新しいカフェが出来たのですって」
そのカフェは隣国の珍しい菓子やお茶を提供しているらしく、最近社交界で話題の中心になっていた。
「では、馬車と護衛をご用意いたしますので、少々お待ち下さい」
思い立った時に直ぐに行動できるのは、独り身の気楽な所だ。
こんな時、今までならば礼儀として婚約者を誘わなければならなかった。
まあ殆どの場合はオズワルドに断られるのだけれど、気紛れで誘いを受けられた場合は地獄だ。
何が悲しくて嫌いな相手と出掛けなければならないのか。
無駄に精神が鍛えられた。
そう考えると、今の状況を手放すのが惜しい気さえしてくる。
もうしばらく婚約が決まらなくても良いかもしれない。
「セシリア!」
私がカフェでお茶をしていると、不機嫌そうな声に名を呼ばれた。
ズンズンとこちらに向かってくる無礼な男に、私の護衛が警戒の色を強める。
それを視線で宥めて、男の名を口にした。
「オズワルド様、婚約は破棄されるのですから、呼び捨てになさるのはご遠慮くださいませ」
途端にオズワルドの眉が吊り上がる。
「婚約破棄などしない!お前は他に貰い手など無いのだから、俺と結婚するしかないだろう」
呆れた。
少し意地悪をしたい気分になってくる。
元々言われっぱなしは性に合わないのだ。
「まあ。私をあんなに蔑ろにしておいて、婚約破棄を予測すらしていなかったのですか?
いえ、優秀なオズワルド様の事ですもの。
きっと予測した上で、平凡な私などには想像もつかない壮大な目的がお有りでしたのよね。
是非、その目的とやらをお聞かせ願いたいですわぁ」
「・・・・・・」
オズワルドが目を泳がせている。
「あら、何も仰らないのですね。
買い被り過ぎだったのかしら?」
軽く口角を上げて挑むように見つめると、オズワルドも流石に馬鹿にされた事がわかったのか、怒りに震え始める。
「貴様っっ・・・!」
私に掴みかかろうとしたが、護衛に取り押さえられた。
カフェの店内で、こんなに衆目を集めながらトラブルを起こすなんて浅慮が過ぎる。
今に始まった事ではないが。
立ち去る際に振り返って最後の言葉を贈る。
「無能は要りません」
後でお店には何かお詫びをしなければならないわね。
全く迷惑な。
不貞による慰謝料の支払いや、支援金の返済、オズワルドに支給した支度金の返済など、合わせると莫大な額になる。
セルヴィッチ侯爵家の財政難を考えると、全てを回収するのは難しいかもしれない。
今も返済方法や期限についての折衝が続けられている。
因みに支度金の用途として、婚約者である私へのプレゼントの購入費も含まれているのだが、一度も、花一輪さえも、贈られたことがない。
多分それもライラに流用されていたのだろう。
厚かましいにも程がある。
邸に閉じ籠っているのにも飽きた私は、専属侍女のドナを呼んだ。
「外出するので同行して欲しいの。王都に新しいカフェが出来たのですって」
そのカフェは隣国の珍しい菓子やお茶を提供しているらしく、最近社交界で話題の中心になっていた。
「では、馬車と護衛をご用意いたしますので、少々お待ち下さい」
思い立った時に直ぐに行動できるのは、独り身の気楽な所だ。
こんな時、今までならば礼儀として婚約者を誘わなければならなかった。
まあ殆どの場合はオズワルドに断られるのだけれど、気紛れで誘いを受けられた場合は地獄だ。
何が悲しくて嫌いな相手と出掛けなければならないのか。
無駄に精神が鍛えられた。
そう考えると、今の状況を手放すのが惜しい気さえしてくる。
もうしばらく婚約が決まらなくても良いかもしれない。
「セシリア!」
私がカフェでお茶をしていると、不機嫌そうな声に名を呼ばれた。
ズンズンとこちらに向かってくる無礼な男に、私の護衛が警戒の色を強める。
それを視線で宥めて、男の名を口にした。
「オズワルド様、婚約は破棄されるのですから、呼び捨てになさるのはご遠慮くださいませ」
途端にオズワルドの眉が吊り上がる。
「婚約破棄などしない!お前は他に貰い手など無いのだから、俺と結婚するしかないだろう」
呆れた。
少し意地悪をしたい気分になってくる。
元々言われっぱなしは性に合わないのだ。
「まあ。私をあんなに蔑ろにしておいて、婚約破棄を予測すらしていなかったのですか?
いえ、優秀なオズワルド様の事ですもの。
きっと予測した上で、平凡な私などには想像もつかない壮大な目的がお有りでしたのよね。
是非、その目的とやらをお聞かせ願いたいですわぁ」
「・・・・・・」
オズワルドが目を泳がせている。
「あら、何も仰らないのですね。
買い被り過ぎだったのかしら?」
軽く口角を上げて挑むように見つめると、オズワルドも流石に馬鹿にされた事がわかったのか、怒りに震え始める。
「貴様っっ・・・!」
私に掴みかかろうとしたが、護衛に取り押さえられた。
カフェの店内で、こんなに衆目を集めながらトラブルを起こすなんて浅慮が過ぎる。
今に始まった事ではないが。
立ち去る際に振り返って最後の言葉を贈る。
「無能は要りません」
後でお店には何かお詫びをしなければならないわね。
全く迷惑な。
あなたにおすすめの小説
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
悔しいでしょう?
藍田ひびき
恋愛
「済まないが、君を愛することはできない」
結婚式の夜、セリーヌは夫であるシルヴァン・ロージェル伯爵令息からそう告げられた。
メロディ・ダルトワ元男爵令嬢――王太子を篭絡し、婚約破棄騒動を引き起こした美貌の令嬢を、シルヴァンは未だに想っていたのだ。
セリーヌは夫の身勝手な言い分を認める代わりに、とある願い事をするが…?
婚約破棄騒動に巻き込まれた女性が、ちょっとした仕返しをする話。
※ なろうにも投稿しています。
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
貴方の子ではありません
藍田ひびき
恋愛
国で唯一の聖樹の護り手「盟樹者」であるアーサー・レッツェル子爵は、妻のいる身でありながら平民の女性セリーヌへ手を出していた。しかし妻が身籠るとあっさりセリーヌを捨ててしまう。
数年後、次代の盟樹者を見定める儀式が行われることになり、アーサーは意気揚々と息子エリアスを連れて儀式に挑む。しかしエリアスに全く反応しない聖樹にアーサーは焦る。そこへセリーヌが現れて…?
サクッと読める短編です。
※ 他サイトにも投稿しています。
ごきげんよう、元婚約者様
藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」
ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。
手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。
※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。
※ 3/25 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
せめて、淑女らしく~お飾りの妻だと思っていました
藍田ひびき
恋愛
「最初に言っておく。俺の愛を求めるようなことはしないで欲しい」
リュシエンヌは婚約者のオーバン・ルヴェリエ伯爵からそう告げられる。不本意であっても傷物令嬢であるリュシエンヌには、もう後はない。
「お飾りの妻でも構わないわ。淑女らしく務めてみせましょう」
そうしてオーバンへ嫁いだリュシエンヌは正妻としての務めを精力的にこなし、徐々に夫の態度も軟化していく。しかしそこにオーバンと第三王女が恋仲であるという噂を聞かされて……?
※ なろうにも投稿しています。
貴方が要らないと言ったのです
藍田ひびき
恋愛
「アイリス、お前はもう必要ない」
ケヴィン・サージェント伯爵から一方的に離縁を告げられたアイリス。
彼女の実家の資金援助を目当てにした結婚だったため、財政が立て直された今では結婚を続ける意味がなくなったとケヴィンは語る。
屈辱に怒りを覚えながらも、アイリスは離縁に同意した。
しかしアイリスが去った後、伯爵家は次々と困難に見舞われていく――。
※ 他サイトにも投稿しています。
「代わりはいくらでもいる」とクビにされた事務官令嬢ですが、全書類に私の「指紋認証魔術」をかけていたのを忘れましたか?
クラム
恋愛
「君の代わりなど、掃いて捨てるほどいる」――。婚約者である第二王子にそう告げられ、事務官シルフィアは王宮を追放された。だが、傲慢な王子は知らなかった。王宮の全文書、宝物庫、果ては防衛結界に至るまで、彼女の「魔紋認証」で封印されていることを。彼女が隣国の冷徹な大公に熱烈に溺愛される中、王宮は物理的に「開かない」絶望の牢獄と化していく。