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15 嬉しい手紙と迷惑な手紙
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婚約は成立したものの、やはり王都に暮らす私と辺境に暮らすコールドウェル様はそう簡単に会う事は出来ない。
西の辺境までは、王都から馬車で片道五~六日ほどかかってしまう距離なのだ。
先日の顔合わせの時には、コールドウェル様は最少人数のお供を連れて、馬車では無く騎乗していらっしゃったらしいが、それでも三日間、僅かな休憩以外は馬を走らせっぱなしだったと仰っていた。
それでは乗っている人間も大変だが、馬も可哀想な気がする。
『辺境の馬達は鍛えられかたが違うから大丈夫だ』とは言われたけど。
会えない代わりに手紙のやり取りは頻繁に行っているのだが、先日の顔合わせの時の表情が嘘の様に甘く優しい内容の文面が届き、本当に本人が書いているのだろうかと戸惑う事も多い。
毎回必ず私の体調を案ずる言葉が添えられているし、前回の手紙には『今夜は星が綺麗に見えたから、君にも見せたかった』とか、『早くもう一度会いたい』とか、『手紙だけでは寂しい』とか書かれており、自室のベッドで一人悶絶した。
あの強面の巨体の持ち主が、一体どんな顔をしてこんな手紙を書いているのだろうか。
そんな手紙のやり取りもなかなか楽しいのだが、やはり顔を見て声を聞きたいという気持ちもある。
心配してくれた友人や弟には大丈夫だと答えたけど、本当は私だって一度しか会わないままで嫁ぐ事になるのかと思うと、少々不安なのだ。
未だに政略結婚が多い貴族の婚姻は、両家の都合で一度も顔さえ合わせないまま、いきなり嫁がされる場合もあるそうなので、贅沢な悩みだとは分かっているのだが。
見知らぬ遠い地へ嫁に行くのだから、せめて夫となる人とはしっかりとした信頼関係を築いておきたいと思ってしまう。
実は、王宮と各辺境伯の間は魔道具での通信が可能で、リアルタイムで音声と映像を送る事が出来る。
隣国との開戦などの非常事態に備えて設置されている物だ。
王太子殿下はそれを使って通信すれば良いと言ってくれているのだが、緊急通信用の機器を個人的な用件で使わせて頂くわけにも行かず……。
そんな儘ならない日々を送る中、コールドウェル様とは別の人物から、私宛の手紙が届いた。
差出人は、ジェフリー。
なんの用件なのかと、一応開封して読んでみたのだが、そのまま送り返せば良かったと私は後悔する事になる。
『僕のせいで、君が冷酷で恐ろしいコールドウェル辺境伯に嫁がなければいけなくなってしまったなんて、本当に申し訳ない。
僕が必ず救ってあげるから、待っていて欲しい』
要約すれば、そんな感じの内容だった。
いや、率直に言って、気持ち悪い。
そして一つも事実が無い。
全てが間違っている。
確かにジェフリーと王女殿下の愚行が切っ掛けだったけれど、最終的に婚約解消を決めたのは私自身の意志だ。
そして、コールドウェル様との婚約をしたのだって、そうしなければいけなかった訳ではない。
更に、ジェフリーに救って欲しいなんて思っていない。
全く。全然。まるっきり。
寧ろ、二度と関わって欲しくないくらいだ。
「一体何を考えてるのかしら?」
ジェフリーって、以前からこんなに訳の分からない人だったかな?
ちょっと怖い。
今迄私は彼の何を見ていたのだろうか。
「あの男、今更何言ってるんですかね?
脳みそ腐ってるんじゃないですか?」
手紙を読んだマーヴィンが吐き捨てる様にそう言って、クシャリと便箋を丸めると暖炉に放り込んだ。
「姉上、念の為あまり外出しない様にした方が良いかもしれませんね。
やむを得ず出掛ける時には必ず護衛を二人以上つけて下さいね」
「ええ。気を付けるわ」
マーヴィンの心配は尤もなので、私は素直に頷いた。
数日後、ジェフリーからまた手紙とプレゼントが届いた。
プレゼントの中身は箱の大きさから推測すると、おそらくアクセサリーではないかと思われる。
益々怖いと感じる様になった私は、今回は手紙も開封せず、プレゼントと共に送り返した。
父からも「娘が迷惑しているので、今後手紙を含めた接触を遠慮して欲しい」とファーガソン侯爵家に抗議をしてもらったのだが……。
やはり数日後に、今度は手紙と花束が送られて来た。
もう完全にストーカーである。
「こうなって来ると、ちょっと異常だな。
コールドウェル様にも相談した方が良いかもしれない。
あちらにも何か迷惑を掛けるかもしれないから」
父が苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
出来ればコールドウェル様に心配を掛けたくなかったけれど、もしかしたらジェフリーが彼にも接触するかもしれないと考えると、やはり一応連絡をしておいた方が良いのだろう。
私は重い気持ちを抱えたまま、便箋にペンを走らせた。
数日後、コールドウェル様からの返信は早馬で届けられた。
西の辺境までは、王都から馬車で片道五~六日ほどかかってしまう距離なのだ。
先日の顔合わせの時には、コールドウェル様は最少人数のお供を連れて、馬車では無く騎乗していらっしゃったらしいが、それでも三日間、僅かな休憩以外は馬を走らせっぱなしだったと仰っていた。
それでは乗っている人間も大変だが、馬も可哀想な気がする。
『辺境の馬達は鍛えられかたが違うから大丈夫だ』とは言われたけど。
会えない代わりに手紙のやり取りは頻繁に行っているのだが、先日の顔合わせの時の表情が嘘の様に甘く優しい内容の文面が届き、本当に本人が書いているのだろうかと戸惑う事も多い。
毎回必ず私の体調を案ずる言葉が添えられているし、前回の手紙には『今夜は星が綺麗に見えたから、君にも見せたかった』とか、『早くもう一度会いたい』とか、『手紙だけでは寂しい』とか書かれており、自室のベッドで一人悶絶した。
あの強面の巨体の持ち主が、一体どんな顔をしてこんな手紙を書いているのだろうか。
そんな手紙のやり取りもなかなか楽しいのだが、やはり顔を見て声を聞きたいという気持ちもある。
心配してくれた友人や弟には大丈夫だと答えたけど、本当は私だって一度しか会わないままで嫁ぐ事になるのかと思うと、少々不安なのだ。
未だに政略結婚が多い貴族の婚姻は、両家の都合で一度も顔さえ合わせないまま、いきなり嫁がされる場合もあるそうなので、贅沢な悩みだとは分かっているのだが。
見知らぬ遠い地へ嫁に行くのだから、せめて夫となる人とはしっかりとした信頼関係を築いておきたいと思ってしまう。
実は、王宮と各辺境伯の間は魔道具での通信が可能で、リアルタイムで音声と映像を送る事が出来る。
隣国との開戦などの非常事態に備えて設置されている物だ。
王太子殿下はそれを使って通信すれば良いと言ってくれているのだが、緊急通信用の機器を個人的な用件で使わせて頂くわけにも行かず……。
そんな儘ならない日々を送る中、コールドウェル様とは別の人物から、私宛の手紙が届いた。
差出人は、ジェフリー。
なんの用件なのかと、一応開封して読んでみたのだが、そのまま送り返せば良かったと私は後悔する事になる。
『僕のせいで、君が冷酷で恐ろしいコールドウェル辺境伯に嫁がなければいけなくなってしまったなんて、本当に申し訳ない。
僕が必ず救ってあげるから、待っていて欲しい』
要約すれば、そんな感じの内容だった。
いや、率直に言って、気持ち悪い。
そして一つも事実が無い。
全てが間違っている。
確かにジェフリーと王女殿下の愚行が切っ掛けだったけれど、最終的に婚約解消を決めたのは私自身の意志だ。
そして、コールドウェル様との婚約をしたのだって、そうしなければいけなかった訳ではない。
更に、ジェフリーに救って欲しいなんて思っていない。
全く。全然。まるっきり。
寧ろ、二度と関わって欲しくないくらいだ。
「一体何を考えてるのかしら?」
ジェフリーって、以前からこんなに訳の分からない人だったかな?
ちょっと怖い。
今迄私は彼の何を見ていたのだろうか。
「あの男、今更何言ってるんですかね?
脳みそ腐ってるんじゃないですか?」
手紙を読んだマーヴィンが吐き捨てる様にそう言って、クシャリと便箋を丸めると暖炉に放り込んだ。
「姉上、念の為あまり外出しない様にした方が良いかもしれませんね。
やむを得ず出掛ける時には必ず護衛を二人以上つけて下さいね」
「ええ。気を付けるわ」
マーヴィンの心配は尤もなので、私は素直に頷いた。
数日後、ジェフリーからまた手紙とプレゼントが届いた。
プレゼントの中身は箱の大きさから推測すると、おそらくアクセサリーではないかと思われる。
益々怖いと感じる様になった私は、今回は手紙も開封せず、プレゼントと共に送り返した。
父からも「娘が迷惑しているので、今後手紙を含めた接触を遠慮して欲しい」とファーガソン侯爵家に抗議をしてもらったのだが……。
やはり数日後に、今度は手紙と花束が送られて来た。
もう完全にストーカーである。
「こうなって来ると、ちょっと異常だな。
コールドウェル様にも相談した方が良いかもしれない。
あちらにも何か迷惑を掛けるかもしれないから」
父が苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
出来ればコールドウェル様に心配を掛けたくなかったけれど、もしかしたらジェフリーが彼にも接触するかもしれないと考えると、やはり一応連絡をしておいた方が良いのだろう。
私は重い気持ちを抱えたまま、便箋にペンを走らせた。
数日後、コールドウェル様からの返信は早馬で届けられた。
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