【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko

文字の大きさ
15 / 56

15 嬉しい手紙と迷惑な手紙

しおりを挟む
 婚約は成立したものの、やはり王都に暮らす私と辺境に暮らすコールドウェル様はそう簡単に会う事は出来ない。
 西の辺境までは、王都から馬車で片道五~六日ほどかかってしまう距離なのだ。
 先日の顔合わせの時には、コールドウェル様は最少人数のお供を連れて、馬車では無く騎乗していらっしゃったらしいが、それでも三日間、僅かな休憩以外は馬を走らせっぱなしだったと仰っていた。
 それでは乗っている人間も大変だが、馬も可哀想な気がする。
『辺境の馬達は鍛えられかたが違うから大丈夫だ』とは言われたけど。

 会えない代わりに手紙のやり取りは頻繁に行っているのだが、先日の顔合わせの時の表情が嘘の様に甘く優しい内容の文面が届き、本当に本人が書いているのだろうかと戸惑う事も多い。
 毎回必ず私の体調を案ずる言葉が添えられているし、前回の手紙には『今夜は星が綺麗に見えたから、君にも見せたかった』とか、『早くもう一度会いたい』とか、『手紙だけでは寂しい』とか書かれており、自室のベッドで一人悶絶した。
 あの強面の巨体の持ち主が、一体どんな顔をしてこんな手紙を書いているのだろうか。

 そんな手紙のやり取りもなかなか楽しいのだが、やはり顔を見て声を聞きたいという気持ちもある。
 心配してくれた友人や弟には大丈夫だと答えたけど、本当は私だって一度しか会わないままで嫁ぐ事になるのかと思うと、少々不安なのだ。

 未だに政略結婚が多い貴族の婚姻は、両家の都合で一度も顔さえ合わせないまま、いきなり嫁がされる場合もあるそうなので、贅沢な悩みだとは分かっているのだが。
 見知らぬ遠い地へ嫁に行くのだから、せめて夫となる人とはしっかりとした信頼関係を築いておきたいと思ってしまう。

 実は、王宮と各辺境伯の間は魔道具での通信が可能で、リアルタイムで音声と映像を送る事が出来る。
 隣国との開戦などの非常事態に備えて設置されている物だ。
 王太子殿下はそれを使って通信すれば良いと言ってくれているのだが、緊急通信用の機器を個人的な用件で使わせて頂くわけにも行かず……。


 そんな儘ならない日々を送る中、コールドウェル様とは別の人物から、私宛の手紙が届いた。


 差出人は、ジェフリー。


 なんの用件なのかと、一応開封して読んでみたのだが、そのまま送り返せば良かったと私は後悔する事になる。


『僕のせいで、君が冷酷で恐ろしいコールドウェル辺境伯に嫁がなければいけなくなってしまったなんて、本当に申し訳ない。
 僕が必ず救ってあげるから、待っていて欲しい』

 要約すれば、そんな感じの内容だった。

 いや、率直に言って、気持ち悪い。

 そして一つも事実が無い。
 全てが間違っている。
 確かにジェフリーと王女殿下の愚行が切っ掛けだったけれど、最終的に婚約解消を決めたのは私自身の意志だ。
 そして、コールドウェル様との婚約をしたのだって、そうしなければいけなかった訳ではない。
 更に、ジェフリーに救って欲しいなんて思っていない。
 全く。全然。まるっきり。
 寧ろ、二度と関わって欲しくないくらいだ。

「一体何を考えてるのかしら?」

 ジェフリーって、以前からこんなに訳の分からない人だったかな?
 ちょっと怖い。
 今迄私は彼の何を見ていたのだろうか。

「あの男、今更何言ってるんですかね?
 脳みそ腐ってるんじゃないですか?」

 手紙を読んだマーヴィンが吐き捨てる様にそう言って、クシャリと便箋を丸めると暖炉に放り込んだ。

「姉上、念の為あまり外出しない様にした方が良いかもしれませんね。
 やむを得ず出掛ける時には必ず護衛を二人以上つけて下さいね」

「ええ。気を付けるわ」

 マーヴィンの心配は尤もなので、私は素直に頷いた。



 数日後、ジェフリーからまた手紙とプレゼントが届いた。
 プレゼントの中身は箱の大きさから推測すると、おそらくアクセサリーではないかと思われる。
 益々怖いと感じる様になった私は、今回は手紙も開封せず、プレゼントと共に送り返した。
 父からも「娘が迷惑しているので、今後手紙を含めた接触を遠慮して欲しい」とファーガソン侯爵家に抗議をしてもらったのだが……。


 やはり数日後に、今度は手紙と花束が送られて来た。
 もう完全にストーカーである。


「こうなって来ると、ちょっと異常だな。
 コールドウェル様にも相談した方が良いかもしれない。
 あちらにも何か迷惑を掛けるかもしれないから」

 父が苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。

 出来ればコールドウェル様に心配を掛けたくなかったけれど、もしかしたらジェフリーが彼にも接触するかもしれないと考えると、やはり一応連絡をしておいた方が良いのだろう。
 私は重い気持ちを抱えたまま、便箋にペンを走らせた。


 数日後、コールドウェル様からの返信は早馬で届けられた。
しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。 しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。 オリバーはエミリアを愛していない。 それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。 子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。 それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。 オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。 一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...