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27 スキンシップ
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満足するまで星空を堪能させて貰った私は、コールドウェル様とミアと共に邸へと帰った。
美しい星を眺めていた時間は、私が思っていたよりもずっと長かったみたいで、私を連れて連絡もせずに遅くなった事で、コールドウェル様はロバートに少し叱られてしまった。
「救護室の仕事はどうだった?何か困った事とかは無かったか?」
「なにも問題ありません。
マリリンさんも優しくしてくれますし、楽しくお仕事させて頂きましたよ」
「なら良かった」
夕食の時間は私の初出勤の話題ばかりだった。
屋上での甘い雰囲気が嘘みたいだけど、今あんな空気を出されたら、きっと緊張してしまって食事の味も分からなかったに違いない。
食事が終わってから、少しだけ書庫を見せて貰い、寝る前に読む本を数冊お借りした。
「あっ……」
夜も深まり、本を抱えて自室へと戻ろうとした時に、ミアが何かを思い出した様に小さく声を上げた。
「そう言えば、フェリシア様が作られた軟膏、まだ旦那様に渡されていないのでは?」
「……あら嫌だ。忘れてたわ」
大失敗である。
明日の朝でも良いのだけど、折角なので早くお渡しして使って貰いたい。
少し遅い時間ではあるが、彼も部屋に戻ったばかりでまだ眠ってはいないだろう。
私はミアを連れて彼の部屋を訪ねる事にした。
───コンコン。
「こんな時間に誰だ?」
ノックをすると、扉を開けたコールドウェル様が、私の姿を見て固まった。
既に寛いでいたみたいで、初めて見るラフな部屋着の様な服装が妙に色っぽい。
「あの、お寛ぎの所お邪魔して申し訳ありません」
「……」
「……あの…?」
無言で動かなくなってしまった彼に、やはり夜間の訪問は失敗だったかもしれないと不安になって来た。
二人きりにならない様にミアを連れて来たけれど、それでもはしたない行いだったかな?
やっぱり明日の朝にしようか、と考え始めたのだが……
「えーと…、済まない、ちょっとビックリして。
何か話があるのかな?
とにかく廊下は冷えるから、中に入って」
本当はその場で手渡すだけでも良かったのだけど、折角そう言って下さったので部屋に入れて貰い、ソファーに向かい合って座った。
「ミア、フェリシアに温かいハーブティーを入れてあげて」
「かしこまりました」
コールドウェル様の指示を受けてミアが入れてくれたハーブティーは、偶然にも、実家で私が毎日寝る前に飲んでいたのとほぼ同じブレンドだった。
コールドウェル様も、寝る前に鎮静効果のあるハーブティーを飲む習慣があるのだろうか?
お茶よりもお酒を好んで飲みそうに見えるのに、なんだか意外だ。
お茶を一口だけ飲んで、私に向き直ったコールドウェル様のお顔はいつも通りの無表情だけど、彼の纏う空気は温かい。
なんとなくだけど、迷惑がられてはいない様な気がしてホッとする。
「それで?どうしたの?」
「あの、急ぎの用事では無いのですが、コレをお渡ししたくて……」
「コレは?」
「塗り薬です。私が調合しました。
古傷の痛みに効果があると思います。
鎮痛成分と共に、傷の奥のシコリや引き攣れを解す成分を配合してありますので、継続して使う事をお勧めします」
「俺の為に、わざわざ?」
そう呟いたコールドウェル様は微かに頬を緩ませた。
(あ、嬉しそう)
作って良かったかもしれない。
「はい。痛みが出る事があると聞いたので」
「そうか、ありがとう。
その…………出来れば…、毎日フェリシアが塗ってくれないだろうか?
なんとなく、その方が高い効果がありそうな気がする」
「いやいや、誰が塗っても薬効は変わりませんからっっ!!」
「そうかな?絶対よく効きそうな気がするけど……。
やっぱりダメか……」
無表情な彼の眉が微かに下がり、その声色はちょっと沈んでいる。
そんな寂しそうな声を出すなんて、反則だ。
「だ、ダメ、じゃ無いですけど……」
「ありがとう。
では、早速塗って貰おうかな」
今までで一番の笑顔を見せてくれたコールドウェル様の頬に、そっと手を伸ばす。
薬師の専門学校時代に研修を経験しているので、患者に薬を塗ってあげるのなんて慣れているはずなのに……。
至近距離で嬉しそうな微笑みを見ていると、落ち着かない。
心臓がドキドキして、頬が熱い。
壁際に控えたミアが、ニヨニヨしながら私達を見守っていた。
『クラリス王女殿下のトアール国への輿入れの日が、正式に決定した』
そんなニュースが辺境にまで聞こえ始めたのは、それから一週間ほど経った頃だった。
美しい星を眺めていた時間は、私が思っていたよりもずっと長かったみたいで、私を連れて連絡もせずに遅くなった事で、コールドウェル様はロバートに少し叱られてしまった。
「救護室の仕事はどうだった?何か困った事とかは無かったか?」
「なにも問題ありません。
マリリンさんも優しくしてくれますし、楽しくお仕事させて頂きましたよ」
「なら良かった」
夕食の時間は私の初出勤の話題ばかりだった。
屋上での甘い雰囲気が嘘みたいだけど、今あんな空気を出されたら、きっと緊張してしまって食事の味も分からなかったに違いない。
食事が終わってから、少しだけ書庫を見せて貰い、寝る前に読む本を数冊お借りした。
「あっ……」
夜も深まり、本を抱えて自室へと戻ろうとした時に、ミアが何かを思い出した様に小さく声を上げた。
「そう言えば、フェリシア様が作られた軟膏、まだ旦那様に渡されていないのでは?」
「……あら嫌だ。忘れてたわ」
大失敗である。
明日の朝でも良いのだけど、折角なので早くお渡しして使って貰いたい。
少し遅い時間ではあるが、彼も部屋に戻ったばかりでまだ眠ってはいないだろう。
私はミアを連れて彼の部屋を訪ねる事にした。
───コンコン。
「こんな時間に誰だ?」
ノックをすると、扉を開けたコールドウェル様が、私の姿を見て固まった。
既に寛いでいたみたいで、初めて見るラフな部屋着の様な服装が妙に色っぽい。
「あの、お寛ぎの所お邪魔して申し訳ありません」
「……」
「……あの…?」
無言で動かなくなってしまった彼に、やはり夜間の訪問は失敗だったかもしれないと不安になって来た。
二人きりにならない様にミアを連れて来たけれど、それでもはしたない行いだったかな?
やっぱり明日の朝にしようか、と考え始めたのだが……
「えーと…、済まない、ちょっとビックリして。
何か話があるのかな?
とにかく廊下は冷えるから、中に入って」
本当はその場で手渡すだけでも良かったのだけど、折角そう言って下さったので部屋に入れて貰い、ソファーに向かい合って座った。
「ミア、フェリシアに温かいハーブティーを入れてあげて」
「かしこまりました」
コールドウェル様の指示を受けてミアが入れてくれたハーブティーは、偶然にも、実家で私が毎日寝る前に飲んでいたのとほぼ同じブレンドだった。
コールドウェル様も、寝る前に鎮静効果のあるハーブティーを飲む習慣があるのだろうか?
お茶よりもお酒を好んで飲みそうに見えるのに、なんだか意外だ。
お茶を一口だけ飲んで、私に向き直ったコールドウェル様のお顔はいつも通りの無表情だけど、彼の纏う空気は温かい。
なんとなくだけど、迷惑がられてはいない様な気がしてホッとする。
「それで?どうしたの?」
「あの、急ぎの用事では無いのですが、コレをお渡ししたくて……」
「コレは?」
「塗り薬です。私が調合しました。
古傷の痛みに効果があると思います。
鎮痛成分と共に、傷の奥のシコリや引き攣れを解す成分を配合してありますので、継続して使う事をお勧めします」
「俺の為に、わざわざ?」
そう呟いたコールドウェル様は微かに頬を緩ませた。
(あ、嬉しそう)
作って良かったかもしれない。
「はい。痛みが出る事があると聞いたので」
「そうか、ありがとう。
その…………出来れば…、毎日フェリシアが塗ってくれないだろうか?
なんとなく、その方が高い効果がありそうな気がする」
「いやいや、誰が塗っても薬効は変わりませんからっっ!!」
「そうかな?絶対よく効きそうな気がするけど……。
やっぱりダメか……」
無表情な彼の眉が微かに下がり、その声色はちょっと沈んでいる。
そんな寂しそうな声を出すなんて、反則だ。
「だ、ダメ、じゃ無いですけど……」
「ありがとう。
では、早速塗って貰おうかな」
今までで一番の笑顔を見せてくれたコールドウェル様の頬に、そっと手を伸ばす。
薬師の専門学校時代に研修を経験しているので、患者に薬を塗ってあげるのなんて慣れているはずなのに……。
至近距離で嬉しそうな微笑みを見ていると、落ち着かない。
心臓がドキドキして、頬が熱い。
壁際に控えたミアが、ニヨニヨしながら私達を見守っていた。
『クラリス王女殿下のトアール国への輿入れの日が、正式に決定した』
そんなニュースが辺境にまで聞こえ始めたのは、それから一週間ほど経った頃だった。
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