【完結】二度目の人生に貴方は要らない

miniko

文字の大きさ
31 / 32

31 揺れ動く心

しおりを挟む
「この髪飾りは派手すぎませんか?」

「いや、でも今日のドレスはシンプルだから、このくらい華やかな方が・・・」

私の頭に髪飾りを次々に当てがって、ああでもない、こうでもないと、今日の私の髪型を仲良く相談しているリリーとスーザン。

今日は王宮で建国記念の大規模な夜会が催される。
その支度で、早い時間から邸内はバタバタと慌ただしい雰囲気なのだ。


事件後、バークレイ侯爵家の使用人達はどうなるのだろうかと心配していたが、新たに爵位を引き継いだ若き当主は、バークレイ家の縁者とは思えない程にまともな人物で、労働環境をきちんと改善した上で、希望する全ての使用人の雇用を継続する方針らしい。
だが、リリーは私の元で働きたいと言ってくれたので、彼女の母親と共に、我が家の使用人として引き抜いた。
二人は直ぐに子爵家の使用人達とも打ち解けて、リリーは私の侍女として、母親はキッチンメイドとして元気に働いてくれている。

マーティン様の動向を警戒していた日々が嘘の様に、平和な日常が続いていた。




夜になって、子爵邸に迎えに来てくれたフィルにエスコートされ、王宮のホールへ足を踏み入れる。
何度参加しても絢爛豪華な雰囲気には慣れず、毎回最初は足がすくんでしまいそうになる。
フィルはそんな私に苦笑しながら、背中を優しく撫でた。

「ディアは、たまにビックリする程大胆な行動に出るクセに、妙にプレッシャーに弱い部分もある。
豪気なのか小心なのか、よく分からないなぁ」

「面倒な奴って思ってます?」

「いや。そんなところも魅力的」

甘やかな微笑みを向けられて、私の心臓が早鐘を打ち始めた。

フィルがこんな表情を見せるのは、私だけ。
いくら鈍い私でも、流石にもう、その意味には気が付いていた。

彼はきっと、私を愛してくれている。


そして私も───。


ずっと、自分の気持ちを抑えて来た。
これは仮初の婚約だから、彼を好きになってはいけないのだと。
これ以上、迷惑にならない様に、時が来たらひっそりと身を引こうと。

だけど・・・
あんなに大切に護られたりしたら、私のちっぽけな決意や努力では、全然歯が立たなくて・・・。
彼を好きにならない様になんて、どんなに頑張っても、きっと初めから不可能だったのだ。


遠くに佇むブリトニー様と、視線が絡む。
彼女の悔しそうな瞳に、罪悪感が込み上げた。
この場所は・・・・・・、フィルの隣は、本来ならば彼女の場所だったのに。


心に渦巻く複雑な思いを隠して、フィルとファーストダンスを踊った。
上の空な私はステップを少し踏み間違えたが、フィルが上手くフォローしてくれて、事なきを得た。



「フィリップ様、ちょっとは私もディアナちゃんと話したいわ」

壁際へ戻ると、ローズ様に声を掛けられた。

「ディア、どうする?」

「あ、はい。
ローズ様とご一緒させて貰いますので、フィルも他の方とお話しなさって来て下さい」

フィルは社交の際に余り私から離れたがらないが、彼にも彼の交友関係がある。
きっと多少は別行動の時間が必要だろうから、丁度良い。

「前から気になっていたのですが、ローズ様は夜会の時には眼鏡をかけないのですね。
あれって伊達眼鏡ですか?」

「伊達じゃないわよ。
だから、今は殆ど見えていないの。
でも、ドレスに眼鏡ってあんまり合わないのよね」

「えっ?じゃあ、どうやって私とフィルが分かったのです?」

「う~ん・・・、なんとなく、匂いとか?」

「・・・・・・」

匂いで人を判断するの、やめて貰いたい。
犬かな?

「視力を上げる魔道具を、いつか開発しようとは思ってるんだけど」

「早急に開発して下さい」

罪人の首輪なんかより、そっちを先に開発なさいよ。

「でも、今は、美容魔道具作りに夢中なの。
そうだ、ディアナちゃん、今度試してみてくれない?」

「いや、それはちょっと・・・」

マッドサイエンティストの作った魔道具のモニターは、出来れば丁重にお断りしたい。
私だって、まだ命が惜しいのだ。

その後も『どんな美容魔道具があったら嬉しいか?』などを熱心に聞き取られた。

私がローズ様とお話ししている間に、フィルは少し離れた場所で、彼の友人達に挨拶をしているようだった。



ローズ様と別れ、フィルと合流しようと振り向くと───、
ブリトニー様が、フィルに話し掛けている所だった。

「何故彼女なのですか?
フィル様には私の方が相応しいのに・・・」

「それを決めるのは、君じゃ無い。
僕の愛称を呼んでも良いのは、ディアだけだ」

断片的に漏れ聞こえるブリトニー様の言葉に、胸が抉られる。
フィルの言葉さえも、素直に受け取る事が出来ずにいた。

だって、私は彼に相応しく無い。
彼の隣は、私なんかがしがみ付いて良い場所じゃ無い。



「ディア、疲れたんじゃ無い?」

いつの間にか私の側に戻って来たフィルに呼び掛けられて、さりげなくブリトニー様の姿を探すと、彼女は俯いて会場を後にする所だった。

「いえ、大丈夫ですよ。
少し風に当たりたいので、バルコニーに出ませんか?」

「良いけど・・・」

フィルにエスコートされてバルコニーへ出ると、冷たい夜風が心地良く頬を撫でる。

静まり返ったバルコニーに、他に人影が無いのを確認し、私は徐に口を開いた。

「・・・・・・・・・あの、婚約の件なんですが」
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】婚約解消後に婚約者が訪ねてくるのですが

ゆらゆらぎ
恋愛
ミティルニアとディアルガの婚約は解消された。 父とのある取引のために動くミティルニアの予想とは裏腹に、ディアルガは何度もミティルニアの元を訪れる…

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月るるな
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

処理中です...