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15 図書館デート?
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簡素な机を挟んで私の向かいに座っているレイモンドが、眉間を揉みながら深い溜息をついた。
「ちょっと、目が疲れて来ましたね」
「そうね。
少し休憩しましょうか?」
積み上げられた図鑑の山に埋もれながら、私は「う~ん」と大きく伸びをした。
その日、私とレイモンドは、王立図書館の奥にある鍵の掛かった部屋を訪れていた。
一般公開するには向いていない書物が収められているこの部屋は、普段は上級司書や許可を得た研究者などの人物以外は立ち入り禁止である。
この部屋の更に奥には、もっと厳重に鍵を掛けられた部屋があり、其方には禁書が保管されているらしい。
なぜ私達がこの様な場所にいるのかと言うと、毒物に関する国外の書物を調べる為である。
お父様のコネを駆使して、内密に入室させて貰った。
お金と権力さえあれば、大抵の不可能は可能になってしまう物だと改めて実感する。
だからこそ、使い方を間違えない様にしないとね。
「はあぁ~~・・・
今日は姉上と図書館デート気分で来たのに、思った以上にハードだ」
「デートなら、もっと可愛くて若い子を誘いなさいよ。
ってゆーか、私相手にデートの予行練習って・・・・・・」
義姉でデートのリハをする、奥手なレイに呆れた視線を向ける。
意外とヘタレなのだろうか?
「僕は本番のつもりなんですけどねぇ・・・」
「ん?なんて言った?」
「ナンデモナイデス」
ヘタレ&シスコンだなんて詰んでる。
絶対モテない。
レイになかなか婚約者が決まらない理由を垣間見た気がした。
折角こんなにキラキラの容姿に生まれて来たのに、残念な子ね。
イケメンの持ち腐れだよ。
勿体ない。
「思ったよりも毒物の図鑑って多いのね」
毒物に関する本を片っ端から開いて、条件に合いそうな毒をノートにメモする。
二時間も続けたら、かなりノートが埋まって来た。
問題は、どうやってこの中から探している毒物を特定するか・・・。
「今まで見た事がありませんでしたが、考えてみれば一般開放されているスペースには、毒物の本なんて気軽に置けないですからね。
見掛けなかったのも必然でしょう」
「それもそうね」
「疲れたままで続けても効率が悪そうだし、喉も渇いたので、ちょっとカフェスペースにでも行って休みませんか?」
「いいわね」
この部屋に所蔵されている国外の本の多くは翻訳されていない。
私もレイも、多数の言語を習得しているので問題は無いが、流石に長時間外国語ばかりを読んでいると目と脳が疲れて来る。
図書館内は書物を守る為に飲食禁止なのだが、その代わり館内にカフェが併設されているのだ。
カフェに入店し、中庭の花壇が眺められる窓際の席を陣取った。
メニューを開くと『イチゴスイーツフェア』の文字に、思わず心を奪われそうになる。
何を隠そう、イチゴは私の大好物だ。
最近ちょっと間食が多かったから、飲み物だけで我慢しようと思っていたのに・・・・・・。
見事な罠だわ。
「ふっ」
レイが笑いを堪えている。
「何よぉ」
「だって、すっごいキラキラした目でイチゴを見てるから。
スイーツ、食べましょうよ。
脳を使った後は甘い物が良いらしいですよ」
「そうよね!」
ミルフィーユ、クレープ、ゼリー、パンケーキ・・・・・・。
どれも魅力的だわ。
選ぶのが難しい。
私は、ショートケーキとタルトで散々迷った結果、イチゴタルトと紅茶を注文した。
レイモンドは、私が諦めたショートケーキとコーヒー。
「お待たせしましたぁ」
フリルに縁取られた白いエプロン姿の可愛らしい店員さんが、給仕をしてくれる。
提供されたお皿の上には、艶々と宝石の様に輝く真っ赤なイチゴがたっぷりと乗ったタルト。
至福・・・・・・!!
甘酸っぱいイチゴと、バターの香りが香ばしいサクサクのタルト生地。
滑らかなカスタードクリームにはバニラビーンズが惜しげもなく使用されている。
全部を合わせて口に運べば、絶妙なハーモニーが広がって・・・。
控えめに言って、最高に美味しい。
ありがとう、イチゴスイーツフェア!
生きてて良かった!
「姉上」
呼ばれてタルトのお皿から視線を上げると、レイがニコニコしながら、フォークに乗せた一口分のショートケーキを差し出していた。
「ほら、あーんして」
「いや、だって・・・・・・」
周囲の目が気になって、キョロキョロしてしまう。
「こっちも食べたかったんでしょ?
早く!落ちちゃうから」
急かされて仕方なく口を開けると、嬉しそうに微笑んだレイが、私にケーキを食べさせる。
「あ、クリーム付いちゃいましたね」
彼は私の唇の端を親指で拭うと、それをペロッと舐めて艶っぽい笑みを浮かべた。
『あーん』は、寝込んでいた時もやられたけど、あの時は私の部屋だったし他に人が居なかったから、まだマシだった。
こんな公衆の面前で・・・しかも口に付いてたクリームを舐めるとか・・・・・・。
まるで馬鹿ップルみたいじゃないか。
なんだ?この羞恥プレイは。
「姉上、顔真っ赤ですよ。可愛い」
蕩ける様な笑顔で私を見るレイモンドに、ちょっとドキドキしてしまったのは、私だけの秘密だ。
因みにショートケーキの味は、緊張してよく分からなかった。
前言撤回。
レイはめちゃくちゃモテるだろうし、奥手でも無い。
どちらかと言えば、グイグイ来るタイプ。
・・・・・・多分。
糖分と水分を補給して、図書館の奥の部屋へと戻る。
「あれっ?
カフェに行く時、鍵かけ忘れちゃったみたいですね。
後で怒られるかな?」
「大丈夫じゃない?」
そう言って、図鑑を山積みにした机に戻ったのだが・・・。
「ちょっと、目が疲れて来ましたね」
「そうね。
少し休憩しましょうか?」
積み上げられた図鑑の山に埋もれながら、私は「う~ん」と大きく伸びをした。
その日、私とレイモンドは、王立図書館の奥にある鍵の掛かった部屋を訪れていた。
一般公開するには向いていない書物が収められているこの部屋は、普段は上級司書や許可を得た研究者などの人物以外は立ち入り禁止である。
この部屋の更に奥には、もっと厳重に鍵を掛けられた部屋があり、其方には禁書が保管されているらしい。
なぜ私達がこの様な場所にいるのかと言うと、毒物に関する国外の書物を調べる為である。
お父様のコネを駆使して、内密に入室させて貰った。
お金と権力さえあれば、大抵の不可能は可能になってしまう物だと改めて実感する。
だからこそ、使い方を間違えない様にしないとね。
「はあぁ~~・・・
今日は姉上と図書館デート気分で来たのに、思った以上にハードだ」
「デートなら、もっと可愛くて若い子を誘いなさいよ。
ってゆーか、私相手にデートの予行練習って・・・・・・」
義姉でデートのリハをする、奥手なレイに呆れた視線を向ける。
意外とヘタレなのだろうか?
「僕は本番のつもりなんですけどねぇ・・・」
「ん?なんて言った?」
「ナンデモナイデス」
ヘタレ&シスコンだなんて詰んでる。
絶対モテない。
レイになかなか婚約者が決まらない理由を垣間見た気がした。
折角こんなにキラキラの容姿に生まれて来たのに、残念な子ね。
イケメンの持ち腐れだよ。
勿体ない。
「思ったよりも毒物の図鑑って多いのね」
毒物に関する本を片っ端から開いて、条件に合いそうな毒をノートにメモする。
二時間も続けたら、かなりノートが埋まって来た。
問題は、どうやってこの中から探している毒物を特定するか・・・。
「今まで見た事がありませんでしたが、考えてみれば一般開放されているスペースには、毒物の本なんて気軽に置けないですからね。
見掛けなかったのも必然でしょう」
「それもそうね」
「疲れたままで続けても効率が悪そうだし、喉も渇いたので、ちょっとカフェスペースにでも行って休みませんか?」
「いいわね」
この部屋に所蔵されている国外の本の多くは翻訳されていない。
私もレイも、多数の言語を習得しているので問題は無いが、流石に長時間外国語ばかりを読んでいると目と脳が疲れて来る。
図書館内は書物を守る為に飲食禁止なのだが、その代わり館内にカフェが併設されているのだ。
カフェに入店し、中庭の花壇が眺められる窓際の席を陣取った。
メニューを開くと『イチゴスイーツフェア』の文字に、思わず心を奪われそうになる。
何を隠そう、イチゴは私の大好物だ。
最近ちょっと間食が多かったから、飲み物だけで我慢しようと思っていたのに・・・・・・。
見事な罠だわ。
「ふっ」
レイが笑いを堪えている。
「何よぉ」
「だって、すっごいキラキラした目でイチゴを見てるから。
スイーツ、食べましょうよ。
脳を使った後は甘い物が良いらしいですよ」
「そうよね!」
ミルフィーユ、クレープ、ゼリー、パンケーキ・・・・・・。
どれも魅力的だわ。
選ぶのが難しい。
私は、ショートケーキとタルトで散々迷った結果、イチゴタルトと紅茶を注文した。
レイモンドは、私が諦めたショートケーキとコーヒー。
「お待たせしましたぁ」
フリルに縁取られた白いエプロン姿の可愛らしい店員さんが、給仕をしてくれる。
提供されたお皿の上には、艶々と宝石の様に輝く真っ赤なイチゴがたっぷりと乗ったタルト。
至福・・・・・・!!
甘酸っぱいイチゴと、バターの香りが香ばしいサクサクのタルト生地。
滑らかなカスタードクリームにはバニラビーンズが惜しげもなく使用されている。
全部を合わせて口に運べば、絶妙なハーモニーが広がって・・・。
控えめに言って、最高に美味しい。
ありがとう、イチゴスイーツフェア!
生きてて良かった!
「姉上」
呼ばれてタルトのお皿から視線を上げると、レイがニコニコしながら、フォークに乗せた一口分のショートケーキを差し出していた。
「ほら、あーんして」
「いや、だって・・・・・・」
周囲の目が気になって、キョロキョロしてしまう。
「こっちも食べたかったんでしょ?
早く!落ちちゃうから」
急かされて仕方なく口を開けると、嬉しそうに微笑んだレイが、私にケーキを食べさせる。
「あ、クリーム付いちゃいましたね」
彼は私の唇の端を親指で拭うと、それをペロッと舐めて艶っぽい笑みを浮かべた。
『あーん』は、寝込んでいた時もやられたけど、あの時は私の部屋だったし他に人が居なかったから、まだマシだった。
こんな公衆の面前で・・・しかも口に付いてたクリームを舐めるとか・・・・・・。
まるで馬鹿ップルみたいじゃないか。
なんだ?この羞恥プレイは。
「姉上、顔真っ赤ですよ。可愛い」
蕩ける様な笑顔で私を見るレイモンドに、ちょっとドキドキしてしまったのは、私だけの秘密だ。
因みにショートケーキの味は、緊張してよく分からなかった。
前言撤回。
レイはめちゃくちゃモテるだろうし、奥手でも無い。
どちらかと言えば、グイグイ来るタイプ。
・・・・・・多分。
糖分と水分を補給して、図書館の奥の部屋へと戻る。
「あれっ?
カフェに行く時、鍵かけ忘れちゃったみたいですね。
後で怒られるかな?」
「大丈夫じゃない?」
そう言って、図鑑を山積みにした机に戻ったのだが・・・。
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