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第1章
第10話:ヒステリックマダム
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まさかこのタイミングでお客が来るとは思ってもいなかったので
私は広間から入口のほうへ上体だけ乗り出すかのように来訪者を確認した。
お客は二人
一人は真っ黒なドレスに白髪の女性。
もう一人は女性の腰くらいの身長で黒いフードを被っているため
髪や顔といった特徴はつかめないが、おそらく子供にみえた。
「いらっしゃい、今日もいつもの薬でいいのかい?」
「ええ。すぐ使うことになるだろうから多めにいただけるかしら?」
お客の声はとても落ち着いており、口調はどこか上品な気配が漂っている。
「やれやれ、こっちとしては繁盛して嬉しいけど、事情を知っていると…この薬が必要とならないことを願うよ。」
「なにか?」
「いいや、今詰めるから少し待ってておくれ。」
二人のやりとりを遠目で見ながら、もう少しお客を観察してみることにした。
スミカと喋っている白髪の女性は20代後半といったところだろうか…
ここのところ魔女と続けて出会っているため、見た目ほど若くない気もする。
それにだんだん暖かくなってきた季節に見合わず、
黒いドレスの上からケープを羽織っている。
最初は不思議に思ったが、その理由はわりと早くに気付くことができた。
彼女には左腕がなく、恐らく接合部を隠すためなのだろう。
そして、彼女の側で大人しくしている子供は…恐らく召し使いに違いない。
ドレスで彩られた彼女と比べれば、子供の身なりはボロボロのフード付ローブ。
とても質素に見えた。
「お待ちどうさま。とりあえず、このくらいで足りるかな?」
「ええ、十分よ。さあ、サナお支払いを。」
品物確認を済ませた女性はサナと呼ぶ召し使いらしき子供に支払いを命じた。
「はい…」
サナの返事はとてもか細く、ドーム型でよく音が響くカシオペイアですら
膨らます事ができないほど小さな声だった。
サナはチョコチョコとカウンターに歩いていくも、机はもちろん、椅子にすら届かないため、カウンターに入るときに通る通路からスミカに代金を支払に向かう
道中小さな段差があり、私は心配そうに見ているとサナはその段差に躓き、盛大にコインを床にぶちまけた。
さすがに私もこうしちゃいれないと広間から飛び出し、サナと一緒にコインを拾い始める。
サナは私に何か言ったような気がした。
私が聞き取ろうとしたその時だった。
ものすごい怒号がカシオペイアに響いた
「あんたってやつは!またなの!?」
さっきまでの気品あった女性の顔は般若の面のような表情に成り果て、右手を振り上げた。
ーーゴツン
鈍い音が短時間に数回鳴り響いた。振り上げられた手は平手ではなく、握り拳の状態で
まるで鞭を振るうかのようにサナを襲った。
突然の出来事で私が女性の迫力に気圧されているとそこにスミカの声が割って入ってきた。
「悪いけどそういうのは外でやってくれないかね。子供が見てる前だ。」
その声によって女性は静止し、乱れた息を整え始めた。
サナはよろよろしながら立ち上がり、スミカにコインを手渡すと
そそくさと女性のもとへと戻っていく。
私を横切る瞬間にサナのフードの隙間からキラりと光るものが見えた気がした。
私はとっさに「だいじょうぶ?」と言葉をかけようとしたが、声になる前に言葉が引っ込んでしまった。
きっと大丈夫じゃない。今かけるべき言葉はこれじゃない。
そんな風に感じた。
「お邪魔したわね。またよろしく頼みますわ。」
女性はスミカに別れの言葉を残すと、その言葉にあわせてサナが扉を開き
女性が扉を通った後にこちらに向かって一礼し、
ちょこちょこと女性の後を追うように退店した。
それから私はしばらく考えた後にスミカに言葉をかけた。
「スミカ…」
その言葉が最後まで響くか響かないかくらいに
スミカは私が何か言いたそうな気配を察して答えた。
「びっくりさせたね。いつものことだよ。」
そういいながら、いつか淹れてくれた紅茶をカップに注ぎだし、
私のほうへカップを進めた。
私は勧められたカップに口を軽く浸してから話を続ける。
「いつもって…。スミカは止めないの?」
「最初はね。でも、私には止められなかったね。」
その言葉を聞いて最初は『どうして!』という
少し腹立たしい気持ちと言葉が湧きあがったが
スミカの悲しそうな顔を見ると、やはり事情があるのだろうと
私の口は紅茶にうずめる形となった。
「彼女…ケープで隠れていたけれど左腕がなかったことには気づいたかい?」
私は紅茶に口をうずめたまま小さく頷く。
「彼女はね。自分の弱い部分を左腕に集めて切り離したんだ。」
私は一瞬何を言っているのかよくわからなかった。
そして念のため確認する
「自分の腕を切り落としたってこと…?」
スミカは静かに首をふり続ける。
「ただ単に腕を失ったわけではなく、自分の気に入らない部分を精神と体ごと
別の存在として分離させたんだ。」
「な、」「なんのためだって?」
私の言葉を先読みしてスミカは言葉を続ける。
「なんのためだろうねぇ。精神を分離させたときにたまたま左腕が持っていかれただけかもしれないし、また別の理由があったのかもしれない。」
「そんなことって魔法でできるの?」
「できないことはない。ただ、自分を犠牲にする魔法は力の使い方を誤ったとしか言いようがないね。」
どこか遠くを見つめるようなスミカの目に、私は何も言葉をかけることができなかった。
「最初止めた時に彼女は私にこう言ったんだ『こいつは私の左腕から生まれた存在だ、私が自分の過ちに対して自らの手で罰を与えようが文句はないだろう』と」
衝撃的だった。
例えるなら、自分が筆で字を書いている時にうっかり書き間違えてしまった際、
筆を持っている指を自ら折るような事だった。
傍から見れば他人を傷つけている行為が、実は自分自身を傷つけているなんて
誰が考えるだろうか…。
「程度の差はどうあれ、世の中には自傷行為であふれている。
過労、夜更かし、暴飲暴食、我慢。
それらを他人がどうこう言って簡単に解決できる問題でもなかったりするのさ」
確かにスミカの言うことも最もだと思ったけれど、どこか腑に落ちない点もあった。
でも「他人」という言葉、立場のせいで、喉から出かかった言葉が形にならないでいた。
私は広間から入口のほうへ上体だけ乗り出すかのように来訪者を確認した。
お客は二人
一人は真っ黒なドレスに白髪の女性。
もう一人は女性の腰くらいの身長で黒いフードを被っているため
髪や顔といった特徴はつかめないが、おそらく子供にみえた。
「いらっしゃい、今日もいつもの薬でいいのかい?」
「ええ。すぐ使うことになるだろうから多めにいただけるかしら?」
お客の声はとても落ち着いており、口調はどこか上品な気配が漂っている。
「やれやれ、こっちとしては繁盛して嬉しいけど、事情を知っていると…この薬が必要とならないことを願うよ。」
「なにか?」
「いいや、今詰めるから少し待ってておくれ。」
二人のやりとりを遠目で見ながら、もう少しお客を観察してみることにした。
スミカと喋っている白髪の女性は20代後半といったところだろうか…
ここのところ魔女と続けて出会っているため、見た目ほど若くない気もする。
それにだんだん暖かくなってきた季節に見合わず、
黒いドレスの上からケープを羽織っている。
最初は不思議に思ったが、その理由はわりと早くに気付くことができた。
彼女には左腕がなく、恐らく接合部を隠すためなのだろう。
そして、彼女の側で大人しくしている子供は…恐らく召し使いに違いない。
ドレスで彩られた彼女と比べれば、子供の身なりはボロボロのフード付ローブ。
とても質素に見えた。
「お待ちどうさま。とりあえず、このくらいで足りるかな?」
「ええ、十分よ。さあ、サナお支払いを。」
品物確認を済ませた女性はサナと呼ぶ召し使いらしき子供に支払いを命じた。
「はい…」
サナの返事はとてもか細く、ドーム型でよく音が響くカシオペイアですら
膨らます事ができないほど小さな声だった。
サナはチョコチョコとカウンターに歩いていくも、机はもちろん、椅子にすら届かないため、カウンターに入るときに通る通路からスミカに代金を支払に向かう
道中小さな段差があり、私は心配そうに見ているとサナはその段差に躓き、盛大にコインを床にぶちまけた。
さすがに私もこうしちゃいれないと広間から飛び出し、サナと一緒にコインを拾い始める。
サナは私に何か言ったような気がした。
私が聞き取ろうとしたその時だった。
ものすごい怒号がカシオペイアに響いた
「あんたってやつは!またなの!?」
さっきまでの気品あった女性の顔は般若の面のような表情に成り果て、右手を振り上げた。
ーーゴツン
鈍い音が短時間に数回鳴り響いた。振り上げられた手は平手ではなく、握り拳の状態で
まるで鞭を振るうかのようにサナを襲った。
突然の出来事で私が女性の迫力に気圧されているとそこにスミカの声が割って入ってきた。
「悪いけどそういうのは外でやってくれないかね。子供が見てる前だ。」
その声によって女性は静止し、乱れた息を整え始めた。
サナはよろよろしながら立ち上がり、スミカにコインを手渡すと
そそくさと女性のもとへと戻っていく。
私を横切る瞬間にサナのフードの隙間からキラりと光るものが見えた気がした。
私はとっさに「だいじょうぶ?」と言葉をかけようとしたが、声になる前に言葉が引っ込んでしまった。
きっと大丈夫じゃない。今かけるべき言葉はこれじゃない。
そんな風に感じた。
「お邪魔したわね。またよろしく頼みますわ。」
女性はスミカに別れの言葉を残すと、その言葉にあわせてサナが扉を開き
女性が扉を通った後にこちらに向かって一礼し、
ちょこちょこと女性の後を追うように退店した。
それから私はしばらく考えた後にスミカに言葉をかけた。
「スミカ…」
その言葉が最後まで響くか響かないかくらいに
スミカは私が何か言いたそうな気配を察して答えた。
「びっくりさせたね。いつものことだよ。」
そういいながら、いつか淹れてくれた紅茶をカップに注ぎだし、
私のほうへカップを進めた。
私は勧められたカップに口を軽く浸してから話を続ける。
「いつもって…。スミカは止めないの?」
「最初はね。でも、私には止められなかったね。」
その言葉を聞いて最初は『どうして!』という
少し腹立たしい気持ちと言葉が湧きあがったが
スミカの悲しそうな顔を見ると、やはり事情があるのだろうと
私の口は紅茶にうずめる形となった。
「彼女…ケープで隠れていたけれど左腕がなかったことには気づいたかい?」
私は紅茶に口をうずめたまま小さく頷く。
「彼女はね。自分の弱い部分を左腕に集めて切り離したんだ。」
私は一瞬何を言っているのかよくわからなかった。
そして念のため確認する
「自分の腕を切り落としたってこと…?」
スミカは静かに首をふり続ける。
「ただ単に腕を失ったわけではなく、自分の気に入らない部分を精神と体ごと
別の存在として分離させたんだ。」
「な、」「なんのためだって?」
私の言葉を先読みしてスミカは言葉を続ける。
「なんのためだろうねぇ。精神を分離させたときにたまたま左腕が持っていかれただけかもしれないし、また別の理由があったのかもしれない。」
「そんなことって魔法でできるの?」
「できないことはない。ただ、自分を犠牲にする魔法は力の使い方を誤ったとしか言いようがないね。」
どこか遠くを見つめるようなスミカの目に、私は何も言葉をかけることができなかった。
「最初止めた時に彼女は私にこう言ったんだ『こいつは私の左腕から生まれた存在だ、私が自分の過ちに対して自らの手で罰を与えようが文句はないだろう』と」
衝撃的だった。
例えるなら、自分が筆で字を書いている時にうっかり書き間違えてしまった際、
筆を持っている指を自ら折るような事だった。
傍から見れば他人を傷つけている行為が、実は自分自身を傷つけているなんて
誰が考えるだろうか…。
「程度の差はどうあれ、世の中には自傷行為であふれている。
過労、夜更かし、暴飲暴食、我慢。
それらを他人がどうこう言って簡単に解決できる問題でもなかったりするのさ」
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