魔法使いの「願い事6つだけ」

汐田 瀬羽音

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第1章

第17話:死者の使者①

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暑い日もピークは去り、夜が早く訪れるようになったと思う頃、
私とスミカは一通りの接客を終え、
ロッカと共に後かたずけと夕飯の支度をするところだった。

「リッカー!もう外閉めちゃっていいよー。」

「はーーい!」

ロッカがドームに来てから防犯の意味もこめて
扉に開店状況を表すOPENとCLOSEの壁掛け看板を作った。

ドアを半分だけ開き、身を乗り出しながら
その看板をCLOSEへと裏返そうとした時、
突如として私の目の前に初めてのお客が現れた。

「まだ、空いてますかな?」
深く、低く、そしてどこか紳士的な雰囲気を思わせる声が響いた。

「おわっと…失礼しました。いらっしゃいませ。」

スミカから閉店の指示があったものの、
もしかしたらガゼフさんのように特定の日にしか来れない常連の可能性もあったため
私はとりあえず、通すつもりで挨拶をした。

ペコリと挨拶を終えて顔をあげると、目の前には牛や馬、鹿といった人が乗れそうな4本足で歩く大きな生き物の顔をした黒スーツの客が立っていた。

こんな抽象的な表現になるのにも理由があり、
その顔は一切の表情が見えない頭蓋骨だったのだ。

一瞬驚きつつも丁寧な口調と身なりを見て、お客だということはわかったので
失礼のないよう平静を装った。

身の丈2メートルは優にあり、こちらへ一礼する様子は
どこか執事のような振る舞いをイメージさせるような美しいものだった。

私は扉を開き、中へと案内すると、
お客はゆっくりと足を進めた。

黒い革靴がコツコツと心地良い音を鳴らしながら
カウンターの前に着くと、先ほどの執事のようなイメージが吹き飛ぶほどの
ハイテンションで口を開いた。

「これはこれは新しい店員が増えているではあーりませんか!」

たぶんこの大げさなほど大きな声は私に向けてではなく
カウンターの奥で薬の仕込みをするスミカに向けてのものだろう。

こんなに目の前にいるのに私のことを大げさに驚くリアクションを前に
内心複雑であったが、仕切り直しの意味もこめて挨拶を交わす。

「はじめまして、スミカの弟子のリッカです。」

「うーーん!良いですねぇ~!美しくてキレイな皮!そして柔らかそうな肉!
 そう!肉、肉、肉、肉ううぅぅぅ~~~!私には無い輝きがあります。」

「は…はぁ…。」
思わずドン引きしていしまいそうだったが、目の前のお客がこのスミカとどのような関係にあるのか分からない以上、失礼にならないよう、こちらが困っている意思を示すことにした。

「うちのをそんなヤバい目で見ないでおくれ。」
そう言いながらめんどくさそうに頭を掻きながらスミカが奥から出てくるのを見て、
私は目の前のお客がめんどうな客であることを察した。

「ヤバイ目なんて滅相もない!むしろ私にはそんな麗しい眼球などとっくの昔に抜け落ちているのですからっ!」
初対面じゃとても笑えないような会話。
しかも身振り手振りがいちいち胡散臭い。

「…ロッカちょっと部屋にいってようか。私もすぐに行くから。」
何か関わらない方が良い気がプンプンしたので、
広間でポカンとこちらを見ているロッカだけでもとりあえず逃がすことにする。

「ちょーーっとお待ちなさい!私はこの店で近々お亡くなりになる方がいると聞いてやってきたのです。そう私にとって死者とはお客様同然!!!死者のための死者による使者!]

「!?」
今この人なんて言った…?と私はこのとき、何とも言えない表情になっていたに違いない。

「リッカ、耳を貸すんじゃないよ。」

「ふーん。いいですねー。その怖気づいた表情も美しい肉が少し強張るのも。歯ごたえがありそうで、ええまったく!どうです?私に一口味見させていただくということで査定いたしますがっ?」

「お、お断りします!!!!」
急に距離を縮めてきたそのお客を遠ざけようと、私は両手で相手の勢いを抑えるようなジェスチャーを送る。

「おおっとそれは残念だ。ふーん名簿、名簿、どこへやったのやら…あったあった。」

そういいながらスーツのポケットや懐をまさぐりながらお客は1冊の本を取り出した。

その名簿と呼ばれる本は分厚い皮のようなカバーのような表紙をしていた。

名簿をペラペラとめくりながら、お客はスミカのほうへチラッと目線をやりながら口を開く。
「ふーん。そういえばあなたは前回ここへきた時にお話ししましたもんねー。」

「客じゃないならさっさと帰っておくれ。」

「いーやいやいや。私はお客!お客様ですっ!私のような肉なしにどうか塗れる薬でもいただこうかっ!」

「そんなものはないよ。そのスカスカの顔に薬草でも貼って隙間を埋めるかい?」

スミカの淡々とした受け答えに引け目もなく、お客は続ける。

「なーーーんと素晴らしい考えだ。これで怖がられることも減るでしょうか…。だーーがっ!ご心配ご無用!この顔は私のトレードマーク!」
「じゃあ帰ってもらおうか。」

「おおっと。では関節痛に効く薬でも貰おうか。こうも全身骨だといろんなところが削れて仕方がない。」
さすがにこれ以上はマズイと思ったのか、お客は手や肘を擦りながら客の素振りをみせた。

「…準備するからそれを持ったらさっさと出ていくんだね。」
スミカもスミカで薬は無いといいつつも、具体的な症状を言われると
困っているお客として無下にはできないようだった。

「んまー愛想の無い店主だこと。まあ、表情筋もない私が言えたことではありませんが…時にお嬢ちゃん。」

「私、これでも義務教育は終えているんですが…」
「おーーっと失礼。ではお嬢様にご提案」

次の瞬間、お客の顔は一瞬にして私の耳元に距離を詰め、不気味にこう囁いたのだった。
「近々、あなた死にますよ♪」

「!?」
私は驚きながら後ろに2,3歩下がり、危うく転倒しかけるところだった。

「まあ、まあ、今すぐにというわけではありません、誰しも寿命があり、私のような永久を生きる…いや、永久に死に生き続ける存在からすればあなた方の寿命なんてほーーんの少しの時間。」

突然の言葉に動揺はするものの、流石にここまで言われるのも何か腑に落ちなかったので、
私は限度を弁えながらも反論を開始する。

「た、例えあなたの寿命の長さから見て私の生涯が短かったとしても、そんなこといきなり言われて良い気はしません。」

そんな私の答えや反応すらも折り込み済みだったかのように
お客は白い手袋を嵌めた手を私の目の前に人差し指を突き立てるような形で言葉と共に振り出した。

「のんのんのん、私はあなたに悪い思いさせるために来たのではありませーん。申し遅れました。私は死のデザイナー兼プランナーのゼリス・ゴールと申します。ここではなんですのでちょっと場所を移しましょう。場所といっても、こことそんなに変わりませんが…なあにお時間はとらせませんっ。止めておきますので♪」

陽気に語るゼリスは指をパチンと鳴らすとまるで照明を一段階落としたかのような景色へと変わったのだった。

「えっ!?」
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