魔法使いの「願い事6つだけ」

汐田 瀬羽音

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第1章

第17話:死者の使者②

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「ここは…?」

「ここは私たちがプランを提供する空間、さっきまであなたがいた店と何ら変わりはありません。ただ、時間を止めてます故、外部からの干渉は一切ございません。
私共はプランニングルームと呼んでいます。」

この類はマズイ。こういった別空間に連れていかれて良い思いをしたことがない。
雨が降っている場所と異空間は私にとってアンラッキープレイス。
急いでこの場から逃げないと…。

「ちょっと、私部屋に人を待たせてますので…!」

「いたっ!」
駆け足でロッカを待たせている部屋まで向かおうとしたが、何か見えない壁のようなものが行く手を阻んで私はぶつかる形で強制停止させられた。

「おおっと、すいません、言い忘れていました。私から半径5メートルほどまでしかこの空間は作られていないので、今あなたがぶつかったのは空間の境界、プランニングルームの壁ということになります。」

「私に何をどうしろって言うんですか…?」
さっきから振り回されっぱなしだったので、流石の私も胸がムカムカするような苛立ちを感じ始めた。

「今日来たのはあくまでもご提案です。あなたはこの先若くして亡くなることになっています。幸いあなたには美しい肉…いや、肌をお持ちだ。死んで朽ちて骨となる前にその肉…いやその美肌を提供していただくことはできませんか?なあにあなた方の世界ではドナー登録のようなものです。」

どうしてこんなにも肉に執着しているのかはわからないけれど
そんな理解できない話の中にも聞き捨てならない言葉があるので確認しておくことにする。
もしかしたらこういった災難、未来の災難を回避できるかもしれないと思ったからだ。

「私…早死にすることになってるんですか?」

「うーーん!いつとは言えませんが、まあそうですね。あ、さっきのドナー登録ですがもちろん特典はあります!死後の世界を快適に過ごしていただけます。優先的に魂の処理も行ってもらえるよう都合もつけますし、あなたが望むなら私共のように永久に死に生き続けることも可能です。ただまあその場合、死因は皮・肉を失ったことによる出血死に切り替わってしまいますが…」

前言撤回、このゼリスという男は私の身を案じて話を進めているわけでなく、
むしろ私が死ぬことを望んでいる。そんな人の話に耳を貸す必要は無い!

「帰してください!元の世界に帰してください!」

「うーーん。ご提案プランがお気に召さないようで非常に残念です…ええまったく非常に非情に…。」

「ですが、あなた一度死なれてますよね?」

「…えっ?」
思わず聞き返してしまった。耳を貸さないと決めたはずなのに。

「『え?』も何もあなたは一度死んでこの世界にいますよ。ええ確かに!いやー最初はわかりませんでしたが、よく見るとあなた、死の使いの名刺すらお持ちじゃないですか」

ゼリスはそう言いながら、私の六花を指さした。

「その紫色(ししょく)に輝くそれですっ。まさしく死の色。死色の輝きです。」

「これは…」

「うんうん、わかります。わかります。誰しも死は突然に訪れるもの、だからこそ準備が必要なのです!あなたは本来死んでいる存在、いや一度は死してなお、あなたは生き続けている。そのまま死後の世界へと行かずに生の道へと無理やり通り抜けてきた形跡がありますね~。」

「…!」
まさかと考えたが直近の出来事を今一度思い出そうとする。

「うーんどれでしょう。溺死、内臓破裂の出血性ショック死…頭蓋骨骨折による脳死…いっそのこと全部振り返ってみます?体・験・で!何か思い出すかもしれませんし」

「お断りです!!!!いったい…なんなんですか!」

明らかに私の過去を知った上で話を進めている。
最初からのこゼリスの手のひらの上で事を進められているような気持ちになった。

「おおっとすいません。私は事実を述べているまでで、あなたは今素晴らしい財産をお持ちです。それを一度は知らずして失っていたのです。ですから次死ぬ際には、命尽きる前に活用できるよう準備することで死後の世界を快適に過ごせるというご提案をですね。」

「そんなのどうだっていいです!死んでしまったら同じです!」

「おやおや、本当にそうでしょうか…?」
その言葉に冷たい何かを感じた。感覚的なものの他に肉体的に何か…。

気づいた頃には、ゼリスは硬い骨の指を私の首筋から上にスルリと滑らせ、
顎を持ち上げる形で私の視線を強制的に自分の顔へ向けた。

私の視線の先、そこにはぽっかりと穴が開いた、
本来目があったであろうその場所から赤い光がこちらを向いていた。

何をされてもおかしくないこの状況に思わず息をのんだ。

「少なくともあなたのお師匠様は、あなたの年頃よりもっと前に
 命という財産の使い道を選び、必死に燃やしているようですが…。
 まあ、彼女の場合は燃やすというより殆ど燃やし終わったような感じですが。」

「どういうことですか…!」

「まあ、今この場で即断即決してもらおうとは考えておりません、
 あなたは一度死の道を通っている。そして近々死ぬことになりますので
 その前にまた最終確認に伺います。」


ゼリスはパチンと指を鳴らすとその場で止まっていた時は流れ出した。

その瞬間、私は何をするところだったのか
何をしていたのか、記憶と時間がバッサリ切り取られた感覚に襲われた。

確かにこのゼリスと何かやりとりをしていたような気がするのだが、
スミカは今から薬を用意しようとしているところだ。

少なくとも時間は進んでいないことに気づく。
けれども、私は目の前のゼリスに激しい不快感と沸々と湧きあがるような怒りを抱いている。
この感情はいったい何なのだろう…。

どうして私は握り拳を震わせているのだろう…。

感情の矛先を見失ったまま俯いていると
いつのまにかスミカがゼリスへ薬を手渡すやり取りが行われていた。

「ずいぶんと早いね。私はもう少し彼女とお話していたかったのだけど。」

「そういえば必要な薬の量を聞いていなかったからね。元の薬草を入れておいたから足りなかったら自分で擂っておくれ。」

「これはこれは冷たい対応だ…。」
「あんたの体ほどじゃあないさ。さあリッカ、お客さんを見送ってやんな」

急に名前を呼ばれたものだから体が少しビクッとなった。
私は玄関の扉を開け、どうぞとばかりに退店を促す。

ゼリスは肩を少しあげて「やれやれ」といったような仕草をみせながらも
扉をくぐった。

「では、また時がきたら来ますので…」

私は何も言わず、ペコリと一礼だけして彼を見送った。

ーーーカチ

私は玄関の灯りをつけようとしたが、外灯に反応はない。
「あれ…つかない。」

ーーーカチカチ

どうやらスイッチではなく、灯りの元がおかしくなっているようだ。

「スミカ―外の灯りがつかなくなっちゃったー!」

私は外灯の故障をスミカに知らせ、ドームの中へと戻った。

かすかに夜風が笑っているように、窓を小刻みに揺らしていた。
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