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11話 遠出
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「葵ー。準備できたか?」
「もうちょっと待って。すぐ行くから。」
「時間考えろよー! 置いてくぞー。」
夏休みに入って一週間。今日は久々に旅行に行くことになった。
遡ること三日前。自室でペンを走らせていると、スマホに一件のラインが届いた。「今年も別荘来ないか? 今度は四人で遊ぼうぜー!」という、既視感のある連絡が届いた。
ちょうど一年前の夏休み。丁度今日くらいだった気がするが、巧から同じような連絡が届いていた。その時は、三人で色々遊びまくったが、今回は四人という事だった。
「葵。巧からこんなの来たけど、どうする?」
「勿論行くに決まってるよ! そんな楽しそうなイベントに参加しないなんて勿体ない!」
と少々乗り気だった。僕らにとっては嬉しい限りだった。
そして今、当日を迎えた訳だが、駅前集合で残りが三十分あまり。間に合うかギリギリのラインに差し掛かっていた。
「ごめん。遅くなった! いこう!」
「本当、ギリギリすぎるぞ……。」
僕は呆れながらも、二人で歩いて向かった。
まあ、葵がこんだけ準備に時間をかけるのも、やりたい事が沢山あるからなんだよな。事前に必要な物を買うために、買い物に行った時に目を輝かせながら、色々物色してたっけ……。嬉しい事だが、些かはしゃぎ過ぎやしないか心配になるな。
「遅いぞ、翔太!」
「遅いわよ、翔太!」
「何で言う内容が被るんだよお前らはいつも……。」
黒のワゴン車に二人は既に乗っていた。この二人仲の良さは常人の域を超えている気がする。隣に座り始終笑いながら、雑談を交わしていた。
「皆んな乗ったな! それじゃあ別荘までレッツゴー!!」
扉を閉めて、巧の掛け声と共に車は発進した。
「翔太、眠そうだね。」
「……ああ。昨日夜遅くまで勉強しててな。それで寝不足なんだ。」
「寝てたら? 無理して起きてる事ないんじゃない?」
「でも僕が寝たら、葵が寂しくなるだろ。」
「大丈夫だよ。巧くんと沙耶香ちゃんと話すから。安心して寝てなって。」
葵は諭すようにして僕に言った。
「そっか。じゃあお言葉に甘えて……。」
僕は意図せず、葵の肩に寄り添う形で眠ってしまった。
「……っ!」
「まったく、翔太ったら……。いつも頑張ってて偉いね。」
僕はすぐに意識が飛び、三人の話がいくら盛り上がっても起きることは無かった。
「なんだかんだ、翔太のやつ。結構無理してんだよな。」
「週五のバイトに、夜中まで勉強して、家事もやって。よく体もってるわよね。」
「だな。葵ちゃんが来てから楽になったって言ってたけど、それでも十分きついからな。頑張り過ぎてて、見てるこっちが不安になるぜ。」
「私も、家で翔太のこと見てるけど、いっつも血色悪くて。休んだらって声かけても休まないし。それでいて、どんな時も私の事気にかけてくれる。本当に助けられてばかりだよ、私はさ。」
この会話は勿論僕の耳には届いていない。気持ちの良さそうな寝息を立てる僕を横目に、三人は話を続ける。
「葵ちゃん、ぶっちゃけ翔太の事好きでしょ。」
沙耶香の冗談めいた話に、全く表情を変化させる事なく、葵は言った。
「どうなんだろうね。私にも分からない。」
「分からないって、何が分かんねんだよ。」
「確かに、翔太ほど信頼してる人はいない。でもさ、恋愛ってドキドキするとか、落ち着かなくなるとか、そんな事でしょ? 私にはさそれが全く無いんだよ。」
「何か、熟年夫婦みたいね……。」
「ああ。枯れてるな……。」
「うん。だからさ、私翔太の事よくわかってないのかもしれない。でも、私はこの関係のままが一番いい。丁度いい距離感で楽しく生活出来てるから。」
「こりゃ完全に脈なしね……。」
「だな。今後の展開とか全くなさそうだな……。」
「何でそんなさっきから二人は、そんなとこから私のことを見てる訳?」
二人はヘッドレストと座席との間から、目を覗かせていた。その様は不審者同然だった。
そんな冗談もあって別荘に向かって車を走らせていた。
「もうちょっと待って。すぐ行くから。」
「時間考えろよー! 置いてくぞー。」
夏休みに入って一週間。今日は久々に旅行に行くことになった。
遡ること三日前。自室でペンを走らせていると、スマホに一件のラインが届いた。「今年も別荘来ないか? 今度は四人で遊ぼうぜー!」という、既視感のある連絡が届いた。
ちょうど一年前の夏休み。丁度今日くらいだった気がするが、巧から同じような連絡が届いていた。その時は、三人で色々遊びまくったが、今回は四人という事だった。
「葵。巧からこんなの来たけど、どうする?」
「勿論行くに決まってるよ! そんな楽しそうなイベントに参加しないなんて勿体ない!」
と少々乗り気だった。僕らにとっては嬉しい限りだった。
そして今、当日を迎えた訳だが、駅前集合で残りが三十分あまり。間に合うかギリギリのラインに差し掛かっていた。
「ごめん。遅くなった! いこう!」
「本当、ギリギリすぎるぞ……。」
僕は呆れながらも、二人で歩いて向かった。
まあ、葵がこんだけ準備に時間をかけるのも、やりたい事が沢山あるからなんだよな。事前に必要な物を買うために、買い物に行った時に目を輝かせながら、色々物色してたっけ……。嬉しい事だが、些かはしゃぎ過ぎやしないか心配になるな。
「遅いぞ、翔太!」
「遅いわよ、翔太!」
「何で言う内容が被るんだよお前らはいつも……。」
黒のワゴン車に二人は既に乗っていた。この二人仲の良さは常人の域を超えている気がする。隣に座り始終笑いながら、雑談を交わしていた。
「皆んな乗ったな! それじゃあ別荘までレッツゴー!!」
扉を閉めて、巧の掛け声と共に車は発進した。
「翔太、眠そうだね。」
「……ああ。昨日夜遅くまで勉強しててな。それで寝不足なんだ。」
「寝てたら? 無理して起きてる事ないんじゃない?」
「でも僕が寝たら、葵が寂しくなるだろ。」
「大丈夫だよ。巧くんと沙耶香ちゃんと話すから。安心して寝てなって。」
葵は諭すようにして僕に言った。
「そっか。じゃあお言葉に甘えて……。」
僕は意図せず、葵の肩に寄り添う形で眠ってしまった。
「……っ!」
「まったく、翔太ったら……。いつも頑張ってて偉いね。」
僕はすぐに意識が飛び、三人の話がいくら盛り上がっても起きることは無かった。
「なんだかんだ、翔太のやつ。結構無理してんだよな。」
「週五のバイトに、夜中まで勉強して、家事もやって。よく体もってるわよね。」
「だな。葵ちゃんが来てから楽になったって言ってたけど、それでも十分きついからな。頑張り過ぎてて、見てるこっちが不安になるぜ。」
「私も、家で翔太のこと見てるけど、いっつも血色悪くて。休んだらって声かけても休まないし。それでいて、どんな時も私の事気にかけてくれる。本当に助けられてばかりだよ、私はさ。」
この会話は勿論僕の耳には届いていない。気持ちの良さそうな寝息を立てる僕を横目に、三人は話を続ける。
「葵ちゃん、ぶっちゃけ翔太の事好きでしょ。」
沙耶香の冗談めいた話に、全く表情を変化させる事なく、葵は言った。
「どうなんだろうね。私にも分からない。」
「分からないって、何が分かんねんだよ。」
「確かに、翔太ほど信頼してる人はいない。でもさ、恋愛ってドキドキするとか、落ち着かなくなるとか、そんな事でしょ? 私にはさそれが全く無いんだよ。」
「何か、熟年夫婦みたいね……。」
「ああ。枯れてるな……。」
「うん。だからさ、私翔太の事よくわかってないのかもしれない。でも、私はこの関係のままが一番いい。丁度いい距離感で楽しく生活出来てるから。」
「こりゃ完全に脈なしね……。」
「だな。今後の展開とか全くなさそうだな……。」
「何でそんなさっきから二人は、そんなとこから私のことを見てる訳?」
二人はヘッドレストと座席との間から、目を覗かせていた。その様は不審者同然だった。
そんな冗談もあって別荘に向かって車を走らせていた。
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