雨と晴

やすを。

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14話 わがままな買い物

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 「葵、怪我してたのか? 何で言わないんだよ。怪我してるなら、別荘で手当してなきゃダメじゃないか。」

 「まあ、歩けるかなと思って乗ったんだけど、気が抜けたのかな。歩けないや。」

 葵の右足の外側のくるぶしの周りが、赤く大きく腫れていた。気が張っていた程度で済む話ではないほどに重傷に見えた。

 「いつ怪我したんだ?」

 「分かんない。部屋に戻ったらこうなってた。」

 まったく、どうしたものだこれは。

 「とりあえず、買い物が終わるまで車の中で待ってて。メイドさんを一人いてもらうから。」
 
 僕はそう提案したが、葵は受け入れてくれなかった。
 
 「嫌だ。」

 「何でだよ。」

 「私、翔太の側を離れたくないから。」

 あー、やっぱり可愛いな。こんなこと言ってくれる女子いないよ。

 「それでも怪我してんだから、無理するなって。」

 「嫌だよ。だって遊園地の時、それでさああなったじゃん。だからもう嫌だよ、翔太の側を離れるのさ。」

 僕はそれを言われると、何も言い返せない。その出来事が、葵を恐怖のどん底に落としたのだから。

 「あの後、本当は外に出たくなかった。また、ああやって絡まれるかもしれないから。でも、翔太がいたらさ、変な人が来てもすぐに倒してくれる。だから、安心して外に出られたんだ。」

 「葵……。」

 今では楽しそうに外出している葵だが、やはりあの頃には恐怖心しかなかったのだと。でも、僕が戦っている姿を見て何があっても守ってくれると、確信したそうだ。

 「でもな、歩けないんじゃ買い物なんてできないだろ?」

 「翔太がおぶればいいよ。」

 「は?」

 「だから翔太が私のことをおぶるの。そうすれば私は歩かなくて良いじゃん。」

 なんて利己的な考えなんだ。僕の見られ方を考えたことあるか? 変な目で見られて、腕の力も保つかわからないし。

 それでも、葵が傷つくよりかはマシか。もう泣き顔なんて見たくないからな。

 「……分かったよ。その代わり、おぶった時にお尻とか触っちゃっても、許してよ。」

 「それは、状況次第かな。」

 「……やっぱ、やめよっかな。」

 「ああ、良いです。どんどん触って良いですから。お願いします。」

 「おいおい、それはそれで問題だぞ……。」

 「……プッ」

 僕らは吹き出して笑った。この会話が可笑しくて、面白くて。ボケもツッコミも何もないのに、どこか笑えてくるのだ。

 あー、なんて平和なんだろうな。メイドさん達が呆れたような微笑みを浮かべて僕らを見てるよ。そりゃそうだよ、会話が可笑しいんだもん。平和すぎて、会話がフワフワしてる。

 そうして、僕らを乗せた車は近くのスーパーに到着した。

 「行けるか?」

 「あ、うん。のるよ?」

 「いつでもいいぞ。」

 僕は、車の降り口に腰をかがめて葵が乗っかりやすいような体勢をとった。

 「よっこらせっと。」

 うわ軽っ。同じご飯食べてるよね。なのに何でこんなにも軽いんだ?

 「重くない?」

 「軽すぎ。」

 「それなら良かった。」

 そして、女子を背中におんぶしながらスーパーの中に入っていった。やはり視線が痛い。クスクス笑う人や、陰口を言う者までいた。でも僕にはどうでもよかった。

 「翔太って、やっぱり優しいね。」

 「僕がか? 優しさなんかあるのかな?」

 「これだって君の優しさだよ。それ以外には何もないよ。」

 「僕は当然のことをしてるだけなんだけどな。」

 「それがね、客観的に見たら優しさだったってこともけっこうあるんだよ。逆も然りね。」

 葵の体の熱が伝わる。やはり体を預けているせいか、葵の胸部が背中にモロに当たる。僕は複雑な気分だった。

 僕らはメイドさんの後を追うだけ。そんな大した仕事はなかった。時々何が食べたいか聞かれたぐらい。その時はほとんど葵が答えていた。

 昨日の晩御飯は皆でカレーを作るという、なんともキャンプ的な運びとなった。

 「ありがとう。お陰で寂しくなかったよ。」

 葵はそう笑顔で言った。

 「ならよかった。」

 僕は葵に続いて車に乗り込んだ。僕らが乗る車は再び別荘を目指す。到着し、再び僕らはおんぶして、彼女を部屋まで運ぶのだった。

 

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