14 / 59
14話 わがままな買い物
しおりを挟む
「葵、怪我してたのか? 何で言わないんだよ。怪我してるなら、別荘で手当してなきゃダメじゃないか。」
「まあ、歩けるかなと思って乗ったんだけど、気が抜けたのかな。歩けないや。」
葵の右足の外側のくるぶしの周りが、赤く大きく腫れていた。気が張っていた程度で済む話ではないほどに重傷に見えた。
「いつ怪我したんだ?」
「分かんない。部屋に戻ったらこうなってた。」
まったく、どうしたものだこれは。
「とりあえず、買い物が終わるまで車の中で待ってて。メイドさんを一人いてもらうから。」
僕はそう提案したが、葵は受け入れてくれなかった。
「嫌だ。」
「何でだよ。」
「私、翔太の側を離れたくないから。」
あー、やっぱり可愛いな。こんなこと言ってくれる女子いないよ。
「それでも怪我してんだから、無理するなって。」
「嫌だよ。だって遊園地の時、それでさああなったじゃん。だからもう嫌だよ、翔太の側を離れるのさ。」
僕はそれを言われると、何も言い返せない。その出来事が、葵を恐怖のどん底に落としたのだから。
「あの後、本当は外に出たくなかった。また、ああやって絡まれるかもしれないから。でも、翔太がいたらさ、変な人が来てもすぐに倒してくれる。だから、安心して外に出られたんだ。」
「葵……。」
今では楽しそうに外出している葵だが、やはりあの頃には恐怖心しかなかったのだと。でも、僕が戦っている姿を見て何があっても守ってくれると、確信したそうだ。
「でもな、歩けないんじゃ買い物なんてできないだろ?」
「翔太がおぶればいいよ。」
「は?」
「だから翔太が私のことをおぶるの。そうすれば私は歩かなくて良いじゃん。」
なんて利己的な考えなんだ。僕の見られ方を考えたことあるか? 変な目で見られて、腕の力も保つかわからないし。
それでも、葵が傷つくよりかはマシか。もう泣き顔なんて見たくないからな。
「……分かったよ。その代わり、おぶった時にお尻とか触っちゃっても、許してよ。」
「それは、状況次第かな。」
「……やっぱ、やめよっかな。」
「ああ、良いです。どんどん触って良いですから。お願いします。」
「おいおい、それはそれで問題だぞ……。」
「……プッ」
僕らは吹き出して笑った。この会話が可笑しくて、面白くて。ボケもツッコミも何もないのに、どこか笑えてくるのだ。
あー、なんて平和なんだろうな。メイドさん達が呆れたような微笑みを浮かべて僕らを見てるよ。そりゃそうだよ、会話が可笑しいんだもん。平和すぎて、会話がフワフワしてる。
そうして、僕らを乗せた車は近くのスーパーに到着した。
「行けるか?」
「あ、うん。のるよ?」
「いつでもいいぞ。」
僕は、車の降り口に腰をかがめて葵が乗っかりやすいような体勢をとった。
「よっこらせっと。」
うわ軽っ。同じご飯食べてるよね。なのに何でこんなにも軽いんだ?
「重くない?」
「軽すぎ。」
「それなら良かった。」
そして、女子を背中におんぶしながらスーパーの中に入っていった。やはり視線が痛い。クスクス笑う人や、陰口を言う者までいた。でも僕にはどうでもよかった。
「翔太って、やっぱり優しいね。」
「僕がか? 優しさなんかあるのかな?」
「これだって君の優しさだよ。それ以外には何もないよ。」
「僕は当然のことをしてるだけなんだけどな。」
「それがね、客観的に見たら優しさだったってこともけっこうあるんだよ。逆も然りね。」
葵の体の熱が伝わる。やはり体を預けているせいか、葵の胸部が背中にモロに当たる。僕は複雑な気分だった。
僕らはメイドさんの後を追うだけ。そんな大した仕事はなかった。時々何が食べたいか聞かれたぐらい。その時はほとんど葵が答えていた。
昨日の晩御飯は皆でカレーを作るという、なんともキャンプ的な運びとなった。
「ありがとう。お陰で寂しくなかったよ。」
葵はそう笑顔で言った。
「ならよかった。」
僕は葵に続いて車に乗り込んだ。僕らが乗る車は再び別荘を目指す。到着し、再び僕らはおんぶして、彼女を部屋まで運ぶのだった。
「まあ、歩けるかなと思って乗ったんだけど、気が抜けたのかな。歩けないや。」
葵の右足の外側のくるぶしの周りが、赤く大きく腫れていた。気が張っていた程度で済む話ではないほどに重傷に見えた。
「いつ怪我したんだ?」
「分かんない。部屋に戻ったらこうなってた。」
まったく、どうしたものだこれは。
「とりあえず、買い物が終わるまで車の中で待ってて。メイドさんを一人いてもらうから。」
僕はそう提案したが、葵は受け入れてくれなかった。
「嫌だ。」
「何でだよ。」
「私、翔太の側を離れたくないから。」
あー、やっぱり可愛いな。こんなこと言ってくれる女子いないよ。
「それでも怪我してんだから、無理するなって。」
「嫌だよ。だって遊園地の時、それでさああなったじゃん。だからもう嫌だよ、翔太の側を離れるのさ。」
僕はそれを言われると、何も言い返せない。その出来事が、葵を恐怖のどん底に落としたのだから。
「あの後、本当は外に出たくなかった。また、ああやって絡まれるかもしれないから。でも、翔太がいたらさ、変な人が来てもすぐに倒してくれる。だから、安心して外に出られたんだ。」
「葵……。」
今では楽しそうに外出している葵だが、やはりあの頃には恐怖心しかなかったのだと。でも、僕が戦っている姿を見て何があっても守ってくれると、確信したそうだ。
「でもな、歩けないんじゃ買い物なんてできないだろ?」
「翔太がおぶればいいよ。」
「は?」
「だから翔太が私のことをおぶるの。そうすれば私は歩かなくて良いじゃん。」
なんて利己的な考えなんだ。僕の見られ方を考えたことあるか? 変な目で見られて、腕の力も保つかわからないし。
それでも、葵が傷つくよりかはマシか。もう泣き顔なんて見たくないからな。
「……分かったよ。その代わり、おぶった時にお尻とか触っちゃっても、許してよ。」
「それは、状況次第かな。」
「……やっぱ、やめよっかな。」
「ああ、良いです。どんどん触って良いですから。お願いします。」
「おいおい、それはそれで問題だぞ……。」
「……プッ」
僕らは吹き出して笑った。この会話が可笑しくて、面白くて。ボケもツッコミも何もないのに、どこか笑えてくるのだ。
あー、なんて平和なんだろうな。メイドさん達が呆れたような微笑みを浮かべて僕らを見てるよ。そりゃそうだよ、会話が可笑しいんだもん。平和すぎて、会話がフワフワしてる。
そうして、僕らを乗せた車は近くのスーパーに到着した。
「行けるか?」
「あ、うん。のるよ?」
「いつでもいいぞ。」
僕は、車の降り口に腰をかがめて葵が乗っかりやすいような体勢をとった。
「よっこらせっと。」
うわ軽っ。同じご飯食べてるよね。なのに何でこんなにも軽いんだ?
「重くない?」
「軽すぎ。」
「それなら良かった。」
そして、女子を背中におんぶしながらスーパーの中に入っていった。やはり視線が痛い。クスクス笑う人や、陰口を言う者までいた。でも僕にはどうでもよかった。
「翔太って、やっぱり優しいね。」
「僕がか? 優しさなんかあるのかな?」
「これだって君の優しさだよ。それ以外には何もないよ。」
「僕は当然のことをしてるだけなんだけどな。」
「それがね、客観的に見たら優しさだったってこともけっこうあるんだよ。逆も然りね。」
葵の体の熱が伝わる。やはり体を預けているせいか、葵の胸部が背中にモロに当たる。僕は複雑な気分だった。
僕らはメイドさんの後を追うだけ。そんな大した仕事はなかった。時々何が食べたいか聞かれたぐらい。その時はほとんど葵が答えていた。
昨日の晩御飯は皆でカレーを作るという、なんともキャンプ的な運びとなった。
「ありがとう。お陰で寂しくなかったよ。」
葵はそう笑顔で言った。
「ならよかった。」
僕は葵に続いて車に乗り込んだ。僕らが乗る車は再び別荘を目指す。到着し、再び僕らはおんぶして、彼女を部屋まで運ぶのだった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
『まて』をやめました【完結】
かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。
朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。
時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの?
超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌!
恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。
貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。
だから、もう縋って来ないでね。
本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます
※小説になろうさんにも、別名で載せています
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる