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16話 一年振りの来訪
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久々だな。約1年ぶりにここにやってきた。よっこらせ。
僕は眠ったままの葵を岩を背もたれにして、そっと座らせた。僕はその隣に座った。
この森の先には一箇所だけ抜けた場所がある。隕石ほどの大きさの岩があって、それを背もたれにすると丁度ひらけたところから夜空を眺めることができる。
僕は毎日ここに足を運び、一・二時間は風景に飲まれていた。僕は例に漏れず、今日もここに来た。やはり気分が上がる。この雄大な景色を独り占めできるかと思うと胸が高鳴った。
天然プラネタリウムと胸を張って言える。ちょっとウザいことを言うと、天然プラネタリウムは、人口的に満点の星空を映し出す機械。だからその言葉に首を傾げる時があるのだ。
まあ、そんなことはさておき、葵が起きる気配がないな。どうしたもんだ……。それは彼女が起きるのを待つしかないか。それまではボーとしてよう。
「んっ、おはよう。」
「えっ? 起きてたの?」
「今起きた。あれ、ここは?」
「僕のお気に入りの場所。どう、この景色。」
葵はおもむろに顔を上げた。そして、無意識に「綺麗だね。」と言ったのを聞き逃さなかった。
「良かったの? そんなお気に入りの場所に私を連れてきて。」
「逆になんでダメなんだよ。こういう景色は共有するのが楽しいんだよ。」
「ふーん。そういうものなんだ。」
葵はそう言った。そして今度は葵が話を振った。
「あのさ、翔太。」
「ん? どうした?」
「何でそんなに勉強してるの?」
そういえば葵に話してなかったっけ。まあ別に隠すような話でもないし、言ってもいいか。
「僕ね、先生になりたいんだ。」
「先生に?」
「うん。僕にはね、憧れの先生がいたんだ。名前はね、星川紗南先生。みんなに平等に接しててね、みんな先生のこと好きだった。僕はいじめられてたんだ、小学生の頃にね。」
僕は昔話をしていた。もう語り出すことは無いと思っていた、その古傷を再び開いて、葵に伝えた。
「お父さんが病気で入院しててね。お金がなくて貧しかったんだ。今でこそ、お父さんも治って働いているけど、その当時はお母さん一人で家計を支えていた。だから服も買えないし、お風呂にだって三日に一回とか。周りからは、貧乏だの臭いだの、暴言の嵐だったよ。」
葵は僕の昔話を黙って聞いていた。時々、心地の良い相槌を打ちながら、真剣に聞いていた。
「でもね、星川先生だけは、ずっと見捨てずに励ましてくれたんだ。その時に僕は思ったよ。こんな先生になりたいって。だから、勉強しているんだ。大学に行くために。星川先生のような立派な先生になるために。」
「凄いね翔太は。そうやって夢を語れるだけの努力をしているんだもの。一つ気になったんだけど、星川先生は今どうなったの?」
「分からない。僕が5年生の時に他の学校に行っちゃったから。今、どこで何をしてるか知らないんだ。」
「そっか。」
葵は最後まで、僕の話を真剣に聞いてきた。僕も彼女に乗せられたのか、全てを話してしまった。もしかしたら、誰かに話したかったのかもしれない。自分が勉強という苦痛を毎日続ける理由を誰かに聞いて欲しかったのだと思う。
お父さんの病気が完治したのが、僕が四年生の頃。その頃から、生活水準も安定してきて、三日に一回のお風呂が毎日入れるようになり、三パターンだった服の種類も、数倍まで増やせるようになった。
その辺りから、イジメもガクッとなくなり、友達も反比例するように増えていった。
星川先生か。今どうしてるんだろうな。僕が小学生の頃はまだ新任の先生で、年も若く独身だった筈だ。あの先生のことだから結婚して、子供もいるんだろう。「先生と結婚するー!」と言っていた自分が懐かしい。
「じゃあ、私も秘密を言わないと不公平だよね。」
僕は眠ったままの葵を岩を背もたれにして、そっと座らせた。僕はその隣に座った。
この森の先には一箇所だけ抜けた場所がある。隕石ほどの大きさの岩があって、それを背もたれにすると丁度ひらけたところから夜空を眺めることができる。
僕は毎日ここに足を運び、一・二時間は風景に飲まれていた。僕は例に漏れず、今日もここに来た。やはり気分が上がる。この雄大な景色を独り占めできるかと思うと胸が高鳴った。
天然プラネタリウムと胸を張って言える。ちょっとウザいことを言うと、天然プラネタリウムは、人口的に満点の星空を映し出す機械。だからその言葉に首を傾げる時があるのだ。
まあ、そんなことはさておき、葵が起きる気配がないな。どうしたもんだ……。それは彼女が起きるのを待つしかないか。それまではボーとしてよう。
「んっ、おはよう。」
「えっ? 起きてたの?」
「今起きた。あれ、ここは?」
「僕のお気に入りの場所。どう、この景色。」
葵はおもむろに顔を上げた。そして、無意識に「綺麗だね。」と言ったのを聞き逃さなかった。
「良かったの? そんなお気に入りの場所に私を連れてきて。」
「逆になんでダメなんだよ。こういう景色は共有するのが楽しいんだよ。」
「ふーん。そういうものなんだ。」
葵はそう言った。そして今度は葵が話を振った。
「あのさ、翔太。」
「ん? どうした?」
「何でそんなに勉強してるの?」
そういえば葵に話してなかったっけ。まあ別に隠すような話でもないし、言ってもいいか。
「僕ね、先生になりたいんだ。」
「先生に?」
「うん。僕にはね、憧れの先生がいたんだ。名前はね、星川紗南先生。みんなに平等に接しててね、みんな先生のこと好きだった。僕はいじめられてたんだ、小学生の頃にね。」
僕は昔話をしていた。もう語り出すことは無いと思っていた、その古傷を再び開いて、葵に伝えた。
「お父さんが病気で入院しててね。お金がなくて貧しかったんだ。今でこそ、お父さんも治って働いているけど、その当時はお母さん一人で家計を支えていた。だから服も買えないし、お風呂にだって三日に一回とか。周りからは、貧乏だの臭いだの、暴言の嵐だったよ。」
葵は僕の昔話を黙って聞いていた。時々、心地の良い相槌を打ちながら、真剣に聞いていた。
「でもね、星川先生だけは、ずっと見捨てずに励ましてくれたんだ。その時に僕は思ったよ。こんな先生になりたいって。だから、勉強しているんだ。大学に行くために。星川先生のような立派な先生になるために。」
「凄いね翔太は。そうやって夢を語れるだけの努力をしているんだもの。一つ気になったんだけど、星川先生は今どうなったの?」
「分からない。僕が5年生の時に他の学校に行っちゃったから。今、どこで何をしてるか知らないんだ。」
「そっか。」
葵は最後まで、僕の話を真剣に聞いてきた。僕も彼女に乗せられたのか、全てを話してしまった。もしかしたら、誰かに話したかったのかもしれない。自分が勉強という苦痛を毎日続ける理由を誰かに聞いて欲しかったのだと思う。
お父さんの病気が完治したのが、僕が四年生の頃。その頃から、生活水準も安定してきて、三日に一回のお風呂が毎日入れるようになり、三パターンだった服の種類も、数倍まで増やせるようになった。
その辺りから、イジメもガクッとなくなり、友達も反比例するように増えていった。
星川先生か。今どうしてるんだろうな。僕が小学生の頃はまだ新任の先生で、年も若く独身だった筈だ。あの先生のことだから結婚して、子供もいるんだろう。「先生と結婚するー!」と言っていた自分が懐かしい。
「じゃあ、私も秘密を言わないと不公平だよね。」
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