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22話 本当の笑顔
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「少しだけ、話をさせてもらってもいいですか?」
僕はタイミングを見計らってそう言った。
「どうしたんじゃ?」
「少しだけやってもらいたい事があります。」
「ほう。なんじゃ?」
「それは…………」
そして翌日、僕は一階の大広間で葵と話をしていた。
「あんたか、晴山って奴は。」
「はい。そうですけど。」
「どうしてくれるんだ!! 俺が何をしたって言うんだよ。」
近づいてきた旅館の従業員らしき男性は、いきなり僕の胸ぐらを掴むとそう凄んできた。
「落ち着いてください。どうしたんですか?」
「お前のせいで、俺はクビになったんだよ。どうしてくれるんだ!! 俺は明日からどうやって生きていけばいいんだよ!」
凄い勢いだな。僕が何を言っても逆ギレして無意味に終わるだけだし、どうしたものだ。
「君、その男の子から手を離すんじゃ。」
「雨森さん…………何で俺が解雇にならなきゃいけないんですか。」
クビになった従業員は、そう葵のお父さんに泣きついていた。
「自分の心に聞いてみるといい。本当に心当たりは無いのかのう?」
「無いですよ。俺は何もしていません。」
葵のお父さんは、クビになった従業員の言葉を聞いて深く溜息をついた。
「それじゃよ。君は何もしていなかったんじゃろ?」
「…………っ!!」
「部下に自分の仕事を押しつけて、君自身は遊んでいるだけ。」
「証拠はどこにあるんですか。」
「沢山の従業員が報告してくれたんじゃ。他にも、女性問題を抱えた者や、横領していた者、選民思想でお客さまを選んでいた者。そんな幹部が何人もおったわ! 安心するんるじゃ。その者たちも全員が今日付で解雇になっとるからのう。」
葵のお父さんは誇らしげに、そしてどこか悲しげに言った。これが売上が減少していた主な理由。『従業員にクズが多い』だった。
昨日の話し合いの場で、僕は葵のお父さんにある提案をしていた。
「それは、従業員にクズが多いんです。」
「翔太くん、流石に君でもクズという言葉は看過できないのう。」
「でもお父さん、翔太の話はね事実なの。私も働いてた時に、どれだけ役職の低い人が苦労していたか。それは酷いものだったよ。」
お父さんは事務作業や面接、企画会議などでほとんど現場には足を運んでいなかった。だから仕事場が、幹部達の独壇場と化していたのだ。
いくら旅館の売上に貢献しても、全て幹部に取られてしまい、ミスは全て部下に押し付ける。だから昇進もしないし、幹部は仕事をしなくても現状の地位を維持できるのだ。
「そんな悲惨な状況に陥っていたのか……。」
「ネットの書き込みにも、『従業員の接客態度が悪い』とか、『時々スタッフオンリーの部屋から怒号が聞こえて来る』とか。サイトの評価も星2.3だし。」
「そりゃ、売り上げも減るわけじゃな……。」
「そこで一日、お客さんの中に信頼できる人物を紛れ込ませてください。」
「ほう。それで内部調査をする訳じゃな。」
「ええ。そうすれば、この旅館が抱える問題が明らかになるはずです。」
僕には確信があった。この地に来る前に、秘密兵器として色々と調べていた。葵から話も聞いていたし、ネットで調べたら悪い噂が出るわ出るわで、ネタが尽きることはなかった。
この地に降りてあのおばさん達と話したことで、疑いの余地は無くなった。ひっくり返る未来しか僕には見えていなかったのだ。
「しかし、これで従業員が一気に減ってしもうたわい。ここからまた立て直すしかないのう。」
葵のお父さんの顔には影が掛かっていた。真っ黒なそれは、太陽で照らしても決して明るくなりそうもなかった。
「葵。」
「なに、お父さん。」
「お前は今、何をしておるんじゃ?」
「翔太の家で二人暮らししてる。自殺しようとしたところを、翔太が止めてくれて、あてのない私を住まわせてくれてる。」
「ど、同居してるのか君たちは……。お母さんから話は聞いとったが、まさか本当だとは思わなかったのう。」
「それで、葵はこれからどうしたいんじゃ。勘当されたままだから、高校にも行けて無いんじゃろ?」
「うん。でも、別に行かなくてもいいかなって思ってる。」
「いいや、行っておくんじゃ。高校は一生に一度しかやってこないんじゃからのう。今のうちに作れる思い出を作っておくといい。」
「お父さん……。」
「翔太くんの通ってる学校の校長先生が、丁度私の知り合いでのう。」
何て都合のいい。そんな事があって良いのか? まあ、いいのか。たまにはそんなことごあっても。
「わしが転校の手続きをしてもらうように頼んどくから、夏休み明けから、楽しんで来なさい。」
「翔太くん。娘のこと、末永くよろしくお願いします。」
「お、お父さん!? 何言ってるの!」
「はい。こちらこそ不束者ですがよろしくお願いします。葵のことを幸せにする準備が整いましたら、今度はご挨拶させて下さい。」
「うむ。楽しみにまっておるからのう。今度来る時は旅館でゆっくりしていくといい。」
「うん。ありがとう、お父さん。」
葵の返答を聞いた後、葵のお父さんは部屋に戻って行った。そして、僕らも笑いながら宿泊部屋に戻っていった。
僕はタイミングを見計らってそう言った。
「どうしたんじゃ?」
「少しだけやってもらいたい事があります。」
「ほう。なんじゃ?」
「それは…………」
そして翌日、僕は一階の大広間で葵と話をしていた。
「あんたか、晴山って奴は。」
「はい。そうですけど。」
「どうしてくれるんだ!! 俺が何をしたって言うんだよ。」
近づいてきた旅館の従業員らしき男性は、いきなり僕の胸ぐらを掴むとそう凄んできた。
「落ち着いてください。どうしたんですか?」
「お前のせいで、俺はクビになったんだよ。どうしてくれるんだ!! 俺は明日からどうやって生きていけばいいんだよ!」
凄い勢いだな。僕が何を言っても逆ギレして無意味に終わるだけだし、どうしたものだ。
「君、その男の子から手を離すんじゃ。」
「雨森さん…………何で俺が解雇にならなきゃいけないんですか。」
クビになった従業員は、そう葵のお父さんに泣きついていた。
「自分の心に聞いてみるといい。本当に心当たりは無いのかのう?」
「無いですよ。俺は何もしていません。」
葵のお父さんは、クビになった従業員の言葉を聞いて深く溜息をついた。
「それじゃよ。君は何もしていなかったんじゃろ?」
「…………っ!!」
「部下に自分の仕事を押しつけて、君自身は遊んでいるだけ。」
「証拠はどこにあるんですか。」
「沢山の従業員が報告してくれたんじゃ。他にも、女性問題を抱えた者や、横領していた者、選民思想でお客さまを選んでいた者。そんな幹部が何人もおったわ! 安心するんるじゃ。その者たちも全員が今日付で解雇になっとるからのう。」
葵のお父さんは誇らしげに、そしてどこか悲しげに言った。これが売上が減少していた主な理由。『従業員にクズが多い』だった。
昨日の話し合いの場で、僕は葵のお父さんにある提案をしていた。
「それは、従業員にクズが多いんです。」
「翔太くん、流石に君でもクズという言葉は看過できないのう。」
「でもお父さん、翔太の話はね事実なの。私も働いてた時に、どれだけ役職の低い人が苦労していたか。それは酷いものだったよ。」
お父さんは事務作業や面接、企画会議などでほとんど現場には足を運んでいなかった。だから仕事場が、幹部達の独壇場と化していたのだ。
いくら旅館の売上に貢献しても、全て幹部に取られてしまい、ミスは全て部下に押し付ける。だから昇進もしないし、幹部は仕事をしなくても現状の地位を維持できるのだ。
「そんな悲惨な状況に陥っていたのか……。」
「ネットの書き込みにも、『従業員の接客態度が悪い』とか、『時々スタッフオンリーの部屋から怒号が聞こえて来る』とか。サイトの評価も星2.3だし。」
「そりゃ、売り上げも減るわけじゃな……。」
「そこで一日、お客さんの中に信頼できる人物を紛れ込ませてください。」
「ほう。それで内部調査をする訳じゃな。」
「ええ。そうすれば、この旅館が抱える問題が明らかになるはずです。」
僕には確信があった。この地に来る前に、秘密兵器として色々と調べていた。葵から話も聞いていたし、ネットで調べたら悪い噂が出るわ出るわで、ネタが尽きることはなかった。
この地に降りてあのおばさん達と話したことで、疑いの余地は無くなった。ひっくり返る未来しか僕には見えていなかったのだ。
「しかし、これで従業員が一気に減ってしもうたわい。ここからまた立て直すしかないのう。」
葵のお父さんの顔には影が掛かっていた。真っ黒なそれは、太陽で照らしても決して明るくなりそうもなかった。
「葵。」
「なに、お父さん。」
「お前は今、何をしておるんじゃ?」
「翔太の家で二人暮らししてる。自殺しようとしたところを、翔太が止めてくれて、あてのない私を住まわせてくれてる。」
「ど、同居してるのか君たちは……。お母さんから話は聞いとったが、まさか本当だとは思わなかったのう。」
「それで、葵はこれからどうしたいんじゃ。勘当されたままだから、高校にも行けて無いんじゃろ?」
「うん。でも、別に行かなくてもいいかなって思ってる。」
「いいや、行っておくんじゃ。高校は一生に一度しかやってこないんじゃからのう。今のうちに作れる思い出を作っておくといい。」
「お父さん……。」
「翔太くんの通ってる学校の校長先生が、丁度私の知り合いでのう。」
何て都合のいい。そんな事があって良いのか? まあ、いいのか。たまにはそんなことごあっても。
「わしが転校の手続きをしてもらうように頼んどくから、夏休み明けから、楽しんで来なさい。」
「翔太くん。娘のこと、末永くよろしくお願いします。」
「お、お父さん!? 何言ってるの!」
「はい。こちらこそ不束者ですがよろしくお願いします。葵のことを幸せにする準備が整いましたら、今度はご挨拶させて下さい。」
「うむ。楽しみにまっておるからのう。今度来る時は旅館でゆっくりしていくといい。」
「うん。ありがとう、お父さん。」
葵の返答を聞いた後、葵のお父さんは部屋に戻って行った。そして、僕らも笑いながら宿泊部屋に戻っていった。
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