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23話 ジモティー
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「とりあえず、明日帰るで良いよね。」
「私は全然大丈夫だけど、翔太平気なの?」
「まあ……何とかなると思う。」
この旅行に来るにあたって、一切の勉強道具を持ってこなかった。だから、三日も参考書に手をつけないという不安感をすごく感じていた。
「翔太にさ、私の故郷を紹介したい。」
「してくれるのか? 是非ともお願いしたい。葵の故郷に興味あったんだよね。」
「本当? 嬉しいな。翔太が住んでる所みたいに、若者が好きそうな所は少ないけど、自然の豊富さには自信があるよ!」
この風景を見て、どう考えても僕の家の周りの自然に負ける訳がない。空気は綺麗だし、蝉の鳴き声は何倍も大きいし、何より涼しい。
「でもさ、大丈夫なのか?」
「まあ、その時はその時で。」
確かに、お父さんとは和解できたし、これから旅館の経営も以前の盛り上がりを見せるだろう。しかし、葵の誤解が解けたのは今さっき。まだ誤解したままの地域住民が葵を傷つけかねない。
「そっか。じゃあお願いするよ。」
それでも、言われた時には胸を張って否定すれば良い。私はそんな事してないと、大きな声で堂々としていれば、相手も引き下がるだろう。
僕らは外行きの格好に着替えて、旅館を後にした。流石に葵の中にも不安が残っているよえだった。
建物から出て、駐車場の出入り口に何やら人だかりが出来ていた。僕にはそれが何を指しているのか、見当もつかなかった。
「おーい! 葵と白馬の王子様の登場だぞー!」
白馬の王子様? 僕のことか?
「君たちは一体何者?」
僕らは、謎の集団の前に立った。背格好や洋服などを総合的にみると同い年ぐらいに見える。そんな人達が僕らに何のようだろう。
「先に言わせてくれ、葵。」
僕はその男子の声に驚いてしまった。そして、咄嗟に一歩下がった。
「葵、あの時は本当にごめんなさい!!」
「えっ、何々? 何これ?」
葵は突然の謝罪に混乱の表情を隠せないでいた。
「約半年前、俺らは葵のことを勝手な決めつけで傷付けてしまっただろ。それを皆んなで謝りに来たんだ。」
いつかに葵が話してくれた。高校の友達について、あの出来事の後から強い疎外感を味わったと。恐らく、ここにいる皆んなは葵の友達で、嘘の情報に踊らされてしまった、一種の被害者達だ。
到底悪気があったようには思えない。それは、葵の口調からも汲み取れたことだった。葵を傷つけないよつに、上手く嫌悪感を出さずに接していたそうだ。葵には気づかれてしまっていたが、そこからは、皆んなの優しさを感じた。
「……ありがとう……本当にありがとう。」
葵の口からそれ以上の言葉は出てこなかった。涙で顔を濡らし、同級生達はその涙を拭いてあげていた。僕はまた一歩距離を取った。
その美しい画角に僕はいらない。ここにいる全員で作り上げた絆が今、こうして花開いていた。
「本当に苦しい思いをさせてごめんね……。」
感極まる同級生達。その輪の中心には葵がいた。中心にいる女子達は葵の親友達だろう。声が出せないほどに嗚咽を発していた。それほどに、あの出来事は葵だけでなく、ここにいる皆んなまでもを苦しめたのだ。
「……もういいよ。」
「良くないよ……。私は聞いたよ、葵が自殺しようとしたって……。それを止めてくれたのは、私たちの誰でもなくて、見ず知らずのその男子だったって……。」
僕はふと、あの頃を回想していた。曇り空の下、冷たい北風が僕の顔を殴るように吹いていた。その中で、フェンスに登る一人の少女。それが雨森葵だった。
「私たちは、取り返しのつかないことをしたの……。自殺しようが未遂で終わろうが関係ない……。そういう気持ちにさせた時点で友達失格よ……。」
僕はその女子の発言を傍観する事しか出来なかった。
「ううん……。もういいよ……。それは全て過去の話だから……。これからまた、楽しい思い出を作っていこう……。」
葵は一言それを言って口を閉じた。みんなに対して、葵自身を苦しめた事について一切の非難をしなかった。それは葵の人間性の素晴らしさが現れた部分だったのだろう。
それから僕は皆んなが落ち着くまで、気長に待っていた。みんなの談笑に時々笑いながら、眺めていた。
「翔太くんだっけ。同じ学年だから敬語は無しでいこう。」
「うん。分かったよ。」
「葵の自殺を止めてくれて本当にありがとう。」
「僕は当然のことをしただけだから。そんなに感謝されることでもないよ。」
僕はいつかに同じような返答をした覚えがあるが、もうその記憶は無かった。
「うわっ。カッコ良すぎるでしょ、葵の彼氏。こりゃ女子もイチコロだわ~。」
「まって、翔太は私の彼氏じゃ……。」
「いいよそんな照れ隠し。二人の顔見てれば分かるよ。」
葵の親友はそうやって冗談ぽく言った。
「私たちの葵をどうか末永くよろしく。」
「まって、お前誰目線だよ!?」
後ろから、今度は男子がツッコミに入った。そしてそれが起爆剤となって、大きな笑いが起こった。こんな平和な集団に葵がいたと考えると、僕は羨ましく思った。
「これから二人はどこ行くの?」
「私が、ここら辺を案内しようと思ってさ。皆んなも一緒に来てよ。」
「それはできないよ。二人の時間を邪魔するわけにはいかないしさ。」
「来てくれよ。みんなで行った方が楽しそうだしさ。」
「いいの、本当に。私たちも同行して。」
「いいよ。また、みんなとも話したいし、」
「僕もみんなと仲良くなりたいしさ。」
僕は、笑顔でそう言った。
「嬉しいこと言ってくれるね、葵の彼氏は。」
「だから違うって……。」
「はいはい。じゃあ行こっか。」
その女子を先頭に、僕らは歩き出した。
「私は全然大丈夫だけど、翔太平気なの?」
「まあ……何とかなると思う。」
この旅行に来るにあたって、一切の勉強道具を持ってこなかった。だから、三日も参考書に手をつけないという不安感をすごく感じていた。
「翔太にさ、私の故郷を紹介したい。」
「してくれるのか? 是非ともお願いしたい。葵の故郷に興味あったんだよね。」
「本当? 嬉しいな。翔太が住んでる所みたいに、若者が好きそうな所は少ないけど、自然の豊富さには自信があるよ!」
この風景を見て、どう考えても僕の家の周りの自然に負ける訳がない。空気は綺麗だし、蝉の鳴き声は何倍も大きいし、何より涼しい。
「でもさ、大丈夫なのか?」
「まあ、その時はその時で。」
確かに、お父さんとは和解できたし、これから旅館の経営も以前の盛り上がりを見せるだろう。しかし、葵の誤解が解けたのは今さっき。まだ誤解したままの地域住民が葵を傷つけかねない。
「そっか。じゃあお願いするよ。」
それでも、言われた時には胸を張って否定すれば良い。私はそんな事してないと、大きな声で堂々としていれば、相手も引き下がるだろう。
僕らは外行きの格好に着替えて、旅館を後にした。流石に葵の中にも不安が残っているよえだった。
建物から出て、駐車場の出入り口に何やら人だかりが出来ていた。僕にはそれが何を指しているのか、見当もつかなかった。
「おーい! 葵と白馬の王子様の登場だぞー!」
白馬の王子様? 僕のことか?
「君たちは一体何者?」
僕らは、謎の集団の前に立った。背格好や洋服などを総合的にみると同い年ぐらいに見える。そんな人達が僕らに何のようだろう。
「先に言わせてくれ、葵。」
僕はその男子の声に驚いてしまった。そして、咄嗟に一歩下がった。
「葵、あの時は本当にごめんなさい!!」
「えっ、何々? 何これ?」
葵は突然の謝罪に混乱の表情を隠せないでいた。
「約半年前、俺らは葵のことを勝手な決めつけで傷付けてしまっただろ。それを皆んなで謝りに来たんだ。」
いつかに葵が話してくれた。高校の友達について、あの出来事の後から強い疎外感を味わったと。恐らく、ここにいる皆んなは葵の友達で、嘘の情報に踊らされてしまった、一種の被害者達だ。
到底悪気があったようには思えない。それは、葵の口調からも汲み取れたことだった。葵を傷つけないよつに、上手く嫌悪感を出さずに接していたそうだ。葵には気づかれてしまっていたが、そこからは、皆んなの優しさを感じた。
「……ありがとう……本当にありがとう。」
葵の口からそれ以上の言葉は出てこなかった。涙で顔を濡らし、同級生達はその涙を拭いてあげていた。僕はまた一歩距離を取った。
その美しい画角に僕はいらない。ここにいる全員で作り上げた絆が今、こうして花開いていた。
「本当に苦しい思いをさせてごめんね……。」
感極まる同級生達。その輪の中心には葵がいた。中心にいる女子達は葵の親友達だろう。声が出せないほどに嗚咽を発していた。それほどに、あの出来事は葵だけでなく、ここにいる皆んなまでもを苦しめたのだ。
「……もういいよ。」
「良くないよ……。私は聞いたよ、葵が自殺しようとしたって……。それを止めてくれたのは、私たちの誰でもなくて、見ず知らずのその男子だったって……。」
僕はふと、あの頃を回想していた。曇り空の下、冷たい北風が僕の顔を殴るように吹いていた。その中で、フェンスに登る一人の少女。それが雨森葵だった。
「私たちは、取り返しのつかないことをしたの……。自殺しようが未遂で終わろうが関係ない……。そういう気持ちにさせた時点で友達失格よ……。」
僕はその女子の発言を傍観する事しか出来なかった。
「ううん……。もういいよ……。それは全て過去の話だから……。これからまた、楽しい思い出を作っていこう……。」
葵は一言それを言って口を閉じた。みんなに対して、葵自身を苦しめた事について一切の非難をしなかった。それは葵の人間性の素晴らしさが現れた部分だったのだろう。
それから僕は皆んなが落ち着くまで、気長に待っていた。みんなの談笑に時々笑いながら、眺めていた。
「翔太くんだっけ。同じ学年だから敬語は無しでいこう。」
「うん。分かったよ。」
「葵の自殺を止めてくれて本当にありがとう。」
「僕は当然のことをしただけだから。そんなに感謝されることでもないよ。」
僕はいつかに同じような返答をした覚えがあるが、もうその記憶は無かった。
「うわっ。カッコ良すぎるでしょ、葵の彼氏。こりゃ女子もイチコロだわ~。」
「まって、翔太は私の彼氏じゃ……。」
「いいよそんな照れ隠し。二人の顔見てれば分かるよ。」
葵の親友はそうやって冗談ぽく言った。
「私たちの葵をどうか末永くよろしく。」
「まって、お前誰目線だよ!?」
後ろから、今度は男子がツッコミに入った。そしてそれが起爆剤となって、大きな笑いが起こった。こんな平和な集団に葵がいたと考えると、僕は羨ましく思った。
「これから二人はどこ行くの?」
「私が、ここら辺を案内しようと思ってさ。皆んなも一緒に来てよ。」
「それはできないよ。二人の時間を邪魔するわけにはいかないしさ。」
「来てくれよ。みんなで行った方が楽しそうだしさ。」
「いいの、本当に。私たちも同行して。」
「いいよ。また、みんなとも話したいし、」
「僕もみんなと仲良くなりたいしさ。」
僕は、笑顔でそう言った。
「嬉しいこと言ってくれるね、葵の彼氏は。」
「だから違うって……。」
「はいはい。じゃあ行こっか。」
その女子を先頭に、僕らは歩き出した。
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