雨と晴

やすを。

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47話 裏切り

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 「どういう状況だ?」

 「ちゃんとは分からないっすけど、どうやら廃工場に監禁してるらしいっす。」

 ふーん……なるほどね。僕を馬鹿にするとどうなるか、お前らに地獄を見せてやるからな。

 「分かった、ありがとう。とりあえず別行動しよう。」

 「一緒じゃダメなんすか?」

 「2人より1人の方が、敵に見つかりにくくなるからな。」

 「了解です。じゃあ、先向かってますんで、来てくださいね!」

 「ああ、よろしくね。」

 僕がそう言うと、その男子は廃工場に向かって歩き出した。あいつ名は友也。苗字はうろ覚えで、はっきりしたことは言えないが、中学の時から友也とはずっと行動をともにした。

 そんなあいつが、ね…………伊達に総長やってた訳じゃないんだよ。

 僕は友也が立ち去ったのを確認すると、2人の女子に言った。

 「ここからは、僕だけで行く。2人は渚の家で待っていてくれ。」

 「何で? 私も行くよ。」

 「それはできない。」

 僕はキッパリと同行を拒否した。

 「何でよ! お母さんのピンチなのに、娘の私が行かなくてどうするの?」

 「言ったところで、渚には何もできないんだよ。」

 僕は言葉を選ばなかった。

 「そんな言い方ないじゃない…………」

 「ないものは無いんだ。葵、絶対に止めておいてよ。」

 そう言って僕は走って目的地に向かった。

 「渚ちゃん。ごめんね、翔太って不器用なんだ。」

 「それでも、あんな言い方あんまりだよ……」

 「確かに、翔太の言い方に棘があったには間違い無いよ。でも、そこまでしてでも、私たちをここに留まらせたかったんじゃないのかな。翔太、強いから心配ないしね。」

 葵は僕の意図を完全に汲んでいるようだった。渚は葵の言葉を聞いて、少し納得できたのか、落ち着きを取り戻し始めた。

 「まあ、私たちが行っても足手まといにしかならないからね。行かなくて正解かも。」

 「うん。ここで待ってよ。帰ってくるのをさ。」

 葵と渚が方向性を固めた時、僕はがむしゃらに走っていた。

 やっぱり別行動をとって正解だったな。さっきマンションの周りにチンピラ達が結構いたから、そういうことだったんだろうけど。ここまで予想通りとは、あいつらの計画って穴だらけだな。

 「来たぞー! 早く紗南さんを返せー!」

 「これはこれは。よくぞ足を運んでくれました、総長さん。」

 「愛斗、お前だったのか……」

 愛斗。こいつも僕が中学時代に、僕の取り巻きの1人だったやつだ。

 「ええ。久しぶりですね、総長。」

 「そんな戯言はいい。早く紗南さんを出せ。」

 「いいでしょう……お前達、あの女を連れてきなさい!」

 配下のチンピラ達は、愛斗の命令に従い紗南さんをこの場に連れてきた。彼女の様子は怯えているようだった。

 「翔太くんなの? お願い助けて!」

 「はい、もちろんですよ。」

 とは言ってもな……紗南さんの支配権は相手が握っているしな。どうしたものだ、これは。

 「おいおい。勝手な真似をしないで頂きたい。」

 余裕の笑みを浮かべる愛斗に、流石に腹が立ってきた。

 「何が目的なんだ。」

 「そんなの決まってるでしょう。総長という地位ですよ!」

 その男はそう言い放った。そして僕は思い切り吹き出してしまった。

 「何を言い出すかと思えば、総長になりたいだって? お前が? 何の冗談だよ。」

 「馬鹿にするのも大概にしておきなさいよ! こっちにはこの女がいるんです! 俺の匙加減ひとつで、どうにでもできるんですよ。」

 あーあ、呆れたもんだよ。

 「そんな事を言う奴に総長が務まると思ってんのか? というか喧嘩弱いくせに何が総長だよ。」

 「ふん。別に喧嘩が強くなくたって、総長にはなれるんですよ。取り巻き達に戦って貰えばいいんですからね。」

 「なるほどね。だからあいつを味方につけたわけか…………おい! どっかに隠れてんだろ! 早く出でこいよ!」

 僕は声を張り上げた。その声に反応するように奥からその人物は出てきた。

 「分かってたんすね。流石総長っすよ。」

 「お前ら、僕を舐めすぎだ。」

 「別にいいんすよ。ここにおびき出せれば、俺らの勝ちっすから。この数を相手にして勝てますかね?」

 僕は友也の挑発めいた言葉に再び、面白さを見出してしまった。

 「何が面白いんすか!」

 「この量を勝てるかって? 誰に言ってるか分かってんのかよ、てめえらはよ! お前ら如き、余裕に決まってんだろうが!」

 「この状況を前にしてその威勢、流石っすね。んじゃ、さっさと喧嘩始めましょうよ。」

 そして、元取り巻き達との殴り合いが始まった。正直相手にすらならなかった。

 「数でくりゃ勝てるとで思ったのか? 馬鹿かお前らは!?」

 「……クッソ。更に強くなってますね!」

 そして友也は気を失った。僕は倒れている元同志達を避けながら、紗南さんの元に向かった。

 「翔太くんて、何であんなに強いの?」

 「キックボクシングやってたからですよ。そんな事より、早く帰りましょ。こんなとこいたくないので。」

 僕はそう言って、紗南さんを解放し、廃工場を後にしようとした時。

 「ま、待て下さい! まだ俺は残ってるじゃありませんか!」

 「やる気か? お前、殴ったら骨折れるぞ? 今まで喧嘩に参加したことすらないお前が、今更イキがってんじゃねえよ。」

 「は、はい…………」

 僕はそう言って、こいつらと決別する覚悟を決めると、すぐにスマホを開くとラインにある全連絡先と電話帳を消去した。

 「いいの? そんな事しても。」

 「いいんです。こういうのが大切何ですよ。一度でも裏切った奴らを絶対に許さないんです。じゃないと、総長として示しがつきませんから。」

 「しっかりしてるのね。見違えたわ。あの頃はまだ小さくて、ずっと泣いてたのに。」

 「その話はいいですよしなくて! あと、一箇所寄りたいところがあるので、先に帰っていてください。」

 「うん分かったわ。気をつけるのよ。」

 「分かってますよ、先生。」

 「ふふ。じゃあまた後で。」

 僕らはそう言い合うと、別の方向に歩みを進めた。僕はショックを隠しきれないでいた。傷ついたし、泣きたい気持ちをグッと堪えていた。だからこそ、これから行くところには、大きな意味があるのだと、僕は思っているのだった。
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