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無知な小華
しおりを挟む「あら、恥ずかしがることありませんわ。許婚という名の婚約者ですもの。遅いか早いかの違いですわ」
「っつ・・・・・・誰があいつとなど!!婚約者ではないし、結婚など死んでもごめんだ!!」
恥じらいもなく平然と言ってのける美代子の言葉に、うずめていた顏を上げはっきりと結婚する意思がないことを告げる。
すると、おずおずといった様子で亜湖が心配そうに口を開く。
「・・・・・・でも、それだと桜子さんが傷物になってしまうでねえか」
「傷物!?私がいつ、あの男に傷をつけられたというのだ!!」
聞き捨てならない言葉に鋭い視線を亜湖に向ける。
桜子に言わせれば屈辱的な凌辱を受けはしたものの、かすり傷一つあの男にはつけられていないのだから傷物になどされていないと言うのが言い分である。
無論、亜湖が口にした傷物とは物理的な傷の意味ではないのだが、色恋に関しては全くと言っていいほど無知な桜子は傷物の意味を正確に理解していなかった。
「いつもなにも、しっかりとつけられてるでねえか。おらのお国では男女七歳にして同衾せずだでね。同じ屋根の下で一緒に住んで、そげな痕までつけて責任とらん男は切られても文句言えね。お国から廃刀令が出てなかったら切腹もんじゃど」
切腹とはこれまた勇ましい。流石は武士のお家柄とでもいうのだろうか。普通の令嬢の口からは出ることのない言葉に思わずたぢろぎそうになる。・・・・・・っが、肝心な事はそこではないと桜子必死に頭を働かせる。
亜湖は今、すでに桜子が傷物にされているとはっきりと口にしたのだ。
(ちょっとまて、・・・・・・あの男に接吻をされた私は傷をつけられたということか!?いや、だが、先日の出来事はこの二人の預かり知らぬこと・・・・・・まさか、痴態の痕をつけられたてしまったら傷物になるのか!?)
自分の知る傷物の意味とは違う含みのある傷物という言葉に桜子は一人心の中で慌てふためく。
そんな桜子の心情など知る由もない美代子と亜湖は優雅にカステーラを口に運びながら会話を続ける。
「まあ、亜湖さん切腹なんて怖いこと言わないで頂戴。それに桜子さんは天邪鬼さんだからそんな言い方したら、おこりん坊になってしまうわ」
「じゃども、大切なことだ。ややこが出来たらどうすんだ?桜子さんはまだ学生じゃけ。困るのは桜子さんだでね」
(ややこだと!?・・・・・・接吻でややこが出来るのか!?)
一人悶々としていた桜子は予想だにしていなかった言葉に思わず耳を疑う。
淑女たるもの年頃になれば嫁入り前に床の指南を受けるのが一般的である。身分のある令嬢ならば尚更。だが生憎、桜子にそういった師はいなかった。
本来、床の寝の指南とは母が子に教えることが多いのだ。貴族という立場になれば外部からその手のことに長けた師を招き入れることも珍しくはないのだが、その手筈は整えるのは家を守る婦人の役目である。幼い頃に母を亡くしている桜子の周りには、その変わりを担うものはいなかった。母が亡きいま、父である敏正が気をきかせ女中達にでも一言声をかけていたらまた違ったかもしれない。だが、生憎その手の配慮はからっきしだったのである。とは言っても、元々色恋沙汰に察して興味のなかった桜子察して気にも留めていなったのだが、
「ちょっと待て!!・・・・・・その、・・・・・・そういう事接吻をしたらややこが出来るのか?」
そんなことを言っている場合ではなかった。もし、それが本当だとしたら自分の腹の中にはややこがいるかも知れないのだ。そんなことになれば女学校はおろか、あのいけ好かない男との婚姻は避けられないものになる。冗談ではない。ましてや、許婚とはいえまだ顏を合わせて数日しかたっていない男のヤヤを生む覚悟など今の桜子にはなかった。
「やだわ桜子さんたら、当たり前ですわ」
「当たり前でねえか」
慌てて詰め寄る桜子に二人は顔を見合わせた後、さも当然といった様に肯定する。
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