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一章
17.椿 2
猩猩の出没が止まらない。
陰陽領が頑張っているそうだが、結界の隙間から侵入してきている。そう教えてくれたのは帝様だ。
一日も早く、斎宮に……その一歩となる側仕えの試験を受けたい。
だけど試験は年に何回もあるわけではなく、なんと一年に一回だけ。それなのに今期の試験は東宮立太で流れたそうだ。
私が受けられるのは来年以降。
叔母様や蘇芳様からの推薦があっても、こればかりは変えられない。だからそれまでの間は殿上童として働くしかないのだ。
正直、猩猩のことをなんとか……! と、身構えていたが、帝様が住まう八葉宮があるのに猩猩が現れるわけがない。
ここが一番守りが堅いのだから、当然といえば当然だ。
本音をいえば、蘇芳様に騙された気分でもある。
でも殿上童をしていくうちに、宮中の行事に詳しくなった。文字の上だけでは理解しがたいことも、実際に見ることで理解が深まる。
それに宮中の行事には、神祇官が関わる仕事も多い。本来なら斎宮が取り仕切る水晶府が主導すべきことも、神祇官が担っていた。
ただ祭事にばかり人手を割けない事情もある。
最初のうちこそどうして? と思っていたけれど、今の状態を水府で働いている人たちが理解しない限り難しいだろう。
なにせ斎宮がいなくても平和である。そう思われているのだから。
形骸化された儀式では、国は守れないのに……
「難しいですね……」
ぽつりと呟くと、帝様は仕方ないと苦笑いを浮かべた。
「人というのは、自分が危機に瀕して初めて気がつく」
「でもそれって遅くないですか……? その前に、国が大変なことになります」
「なるだろうなあ」
パチン、と帝様は持っていた扇を閉じる。
そのいい方に、内心で首をかしげた。
まるでなってほしいというようないい方だ。国の大事に気がついてほしいとでも。
私は帝様を見上げる。
その瞳は赤みのある、淡紫。たしか蘇芳様がいっていた。
龍は感情が高ぶると淡紫の瞳が赤くなる。逆鱗に、触れた証拠なのだと。
赤みのある、淡紫。赤は、怒りの色?
「――――帝様は、ずっと怒っているんですか?」
「守らねばならん民だ。しかし、権力欲にばかり取り憑かれ本分を疎かにするのはいただけんな」
「でも、そんなことしたら……」
「僕は何もしていない。斎宮は必要ない、そういいだしたのはこの国の者たちだ」
「それは、母の作った結界のせいで……」
「青羽の君が作った結界は確かに見事だった。僕が帝になるときも、一緒にこの国の結界を練り上げてくれた。だがな、彼女はそのせいで斎宮の地位を追われた」
「え?」
その言葉に私は首をかしげた。母が、斎宮の地位を追われた? そんな話聞いたことない。
帝様は深いため息を吐いた。
「仕事をしていないように見えたんだろうさ」
「仕事をしていないって……」
「水晶府で働く者や神祇官たちは、結界がきちんと作用しているからこそ国が守られていると理解している。だが、儀来府《にらいふ》の――――陰陽寮で働く者たちはそれに嫉妬したのさ」
「嫉妬、ですか?」
「今まではほどほどに妖が出た。おかげで自分たちの存在感を知らしめることができたが、青羽の君の結界はそれをなくした。男の嫉妬は怖いのさ」
「そんな……」
斎宮として母は最高の仕事をしたのだろう。
だけどそれは、万人に受けいられるものではなかった、ということか?
「青羽の君が斎宮を退いて、二十年は経っている。その当時、斎宮を無駄扱いした者たちの大半はもういない」
「では今の陰陽寮は、重要性を知らないのでしょうか?」
「本来斎宮が取り仕切るべき祭事をアイツらが持って行ってるのもある。徐々に形骸化させ、斎宮がいなくてもなんとかなる。この二十年でそう仕上げてしまった」
止めようと思ったが、難しかったと帝様はいう。
斎宮を辞す最後の日、次の斎宮が軽んじられることを恐れた母が自らの力を最大限注ぎ込んで結界を作ってしまったからだ。
その結果、次代の斎宮に結界を張らせることを拒否させた。
完璧な、完璧すぎる結界に恐れをなしたのだ。今の自分がその結界を弄れば、妖が湟国を蹂躙するかもしれない。
自分のせいで、大事が起こっては……と。
母の前は度々、妖が湟国に侵入することはあった話。ただ平和な時間が続けば続くほど、人の感覚は麻痺してしまう。それが当然であると。
「意識を変えるには、現実を知ること――――ですか?」
帝様は静かに頷いた。
それは、……あまりにも厳しいのではなかろうか?
***
蘇芳様と一緒に牛車に揺られながら帰る。蘇芳様は、帝様の考えをご存じなのだろうか?
「考えごとかい。紫」
「……蘇芳様は、帝様の考えをご存じなのですか?」
「まあ、ね……僕自身は青羽の君に会ったことはないけど、あの方の結界がとても見事なものだというのはわかるよ。小さい頃から見てるからね」
「でもそのせいで母は、斎宮を追われたと」
「青羽の君と同じだけの結界を作ることは難しい。でも一人で無理なら、みんなでやってみたら良かったんじゃないかなぁってね」
「斎宮を複数立てるということですか?」
「うちの斎宮候補、西郷満月《さいごうみつき》だけでは足りないからね。それに今さらほどほどの結界なんて、民は望まない」
結界を張り直すことは急務。斎宮候補の筆頭は西郷家の姫だけど――――
ガタン! と激しい揺れと共に牛車が止まる。
牛車の中で転がりそうになったが、蘇芳様が支えてくれたおかげでなんとかなった。
「どうした!」
蘇芳様が外に声をかける。一体なにがあったのだろう? この時間だと夜盗とか? いや、最近は猩猩が現れるせいで、夜盗も出ないと聞く。
それならなぜ、牛車は止まった?
「……外からの返事がない。蘇芳様、動いちゃダメです」
「一応ね、僕でも刀は扱えるんだ」
「夜盗だったらきっと声かけてくれますよ」
私は牛車の御簾をそっと開ける。牛車の前では車副の二人が刀を抜いていた。しかし体がガタガタと震えているのがわかる。
彼らの視線の先、月明かりの下に大きな影が複数。
明らかに人ではない。
「猩猩……?」
「夜盗ではなさそうだね」
私たちのつぶやきが聞こえたのか、車副が振り返る。
「み、宮様……お逃げください。我々が……我々がお守りいたします!!」
「生憎と、君らを見捨てて逃げる主ではないんだよ」
「そうです。それに、私だっていますよ。お手伝いします」
「宮様あああぁぁ」
この行動は正しくないのだろう。本来なら蘇芳様を無事にお屋敷まで送り届けるのが正しい行為だ。でも二人を見捨てて逃げることも、私にはできない。
私にできることがある。私にしか、できないこと。
『タスケテ……ダレか タスケテ』
『アッチだ アッチニイルゾ』
『イタい イタい イタい』
複数の影が様子をうかがいながらこちらに近づいてくる。
その影が口々に話をしているが、意味をなしていない。
いや、違う。奴らが話しているのは、最後の言葉なのでは?
その言葉から察するに、人を喰らっている?
「さて、紫。君はどうする?」
「もちろん、みんな守ります」
私は懐から札を取りだした。その札に息を吹きかける。
札は青白い鳥の姿になり、猩猩に襲いかかった。鳥の群れは猩猩に対して火を吐く。
古来より、妖は炎に弱いモノが多い。
猩猩も火が弱いと教えてくれたのは揚羽たちだった。
『ギャッ ギャッ ギャ』
『ダレカー ダレカー』
『オイシイ コワい ダレか』
まだ、まだ弱い。火力が足りない。
揚羽たちの炎なら、いや、でも揚羽たちを呼んでもすぐには来れない。まだ屋敷まで距離がある。
「……そうだ。蘇芳様、刀! 刀貸してください!!」
「え、でも太刀だよ? 紫には扱えないんじゃ……」
「大丈夫です。雷を呼ぶだけです」
「雷……!?」
「はやく!」
私は蘇芳様を急かし、刀を受け取ると外に出た。
そして呪を唱える。
この距離なら、いけるはず!!
「怨敵退散――――召雷!」
ドンッ! と空から明るい光が地面に刺さる。
そのギリギリで私は懐に隠していたもう一枚の札を発動させた。
陰陽領が頑張っているそうだが、結界の隙間から侵入してきている。そう教えてくれたのは帝様だ。
一日も早く、斎宮に……その一歩となる側仕えの試験を受けたい。
だけど試験は年に何回もあるわけではなく、なんと一年に一回だけ。それなのに今期の試験は東宮立太で流れたそうだ。
私が受けられるのは来年以降。
叔母様や蘇芳様からの推薦があっても、こればかりは変えられない。だからそれまでの間は殿上童として働くしかないのだ。
正直、猩猩のことをなんとか……! と、身構えていたが、帝様が住まう八葉宮があるのに猩猩が現れるわけがない。
ここが一番守りが堅いのだから、当然といえば当然だ。
本音をいえば、蘇芳様に騙された気分でもある。
でも殿上童をしていくうちに、宮中の行事に詳しくなった。文字の上だけでは理解しがたいことも、実際に見ることで理解が深まる。
それに宮中の行事には、神祇官が関わる仕事も多い。本来なら斎宮が取り仕切る水晶府が主導すべきことも、神祇官が担っていた。
ただ祭事にばかり人手を割けない事情もある。
最初のうちこそどうして? と思っていたけれど、今の状態を水府で働いている人たちが理解しない限り難しいだろう。
なにせ斎宮がいなくても平和である。そう思われているのだから。
形骸化された儀式では、国は守れないのに……
「難しいですね……」
ぽつりと呟くと、帝様は仕方ないと苦笑いを浮かべた。
「人というのは、自分が危機に瀕して初めて気がつく」
「でもそれって遅くないですか……? その前に、国が大変なことになります」
「なるだろうなあ」
パチン、と帝様は持っていた扇を閉じる。
そのいい方に、内心で首をかしげた。
まるでなってほしいというようないい方だ。国の大事に気がついてほしいとでも。
私は帝様を見上げる。
その瞳は赤みのある、淡紫。たしか蘇芳様がいっていた。
龍は感情が高ぶると淡紫の瞳が赤くなる。逆鱗に、触れた証拠なのだと。
赤みのある、淡紫。赤は、怒りの色?
「――――帝様は、ずっと怒っているんですか?」
「守らねばならん民だ。しかし、権力欲にばかり取り憑かれ本分を疎かにするのはいただけんな」
「でも、そんなことしたら……」
「僕は何もしていない。斎宮は必要ない、そういいだしたのはこの国の者たちだ」
「それは、母の作った結界のせいで……」
「青羽の君が作った結界は確かに見事だった。僕が帝になるときも、一緒にこの国の結界を練り上げてくれた。だがな、彼女はそのせいで斎宮の地位を追われた」
「え?」
その言葉に私は首をかしげた。母が、斎宮の地位を追われた? そんな話聞いたことない。
帝様は深いため息を吐いた。
「仕事をしていないように見えたんだろうさ」
「仕事をしていないって……」
「水晶府で働く者や神祇官たちは、結界がきちんと作用しているからこそ国が守られていると理解している。だが、儀来府《にらいふ》の――――陰陽寮で働く者たちはそれに嫉妬したのさ」
「嫉妬、ですか?」
「今まではほどほどに妖が出た。おかげで自分たちの存在感を知らしめることができたが、青羽の君の結界はそれをなくした。男の嫉妬は怖いのさ」
「そんな……」
斎宮として母は最高の仕事をしたのだろう。
だけどそれは、万人に受けいられるものではなかった、ということか?
「青羽の君が斎宮を退いて、二十年は経っている。その当時、斎宮を無駄扱いした者たちの大半はもういない」
「では今の陰陽寮は、重要性を知らないのでしょうか?」
「本来斎宮が取り仕切るべき祭事をアイツらが持って行ってるのもある。徐々に形骸化させ、斎宮がいなくてもなんとかなる。この二十年でそう仕上げてしまった」
止めようと思ったが、難しかったと帝様はいう。
斎宮を辞す最後の日、次の斎宮が軽んじられることを恐れた母が自らの力を最大限注ぎ込んで結界を作ってしまったからだ。
その結果、次代の斎宮に結界を張らせることを拒否させた。
完璧な、完璧すぎる結界に恐れをなしたのだ。今の自分がその結界を弄れば、妖が湟国を蹂躙するかもしれない。
自分のせいで、大事が起こっては……と。
母の前は度々、妖が湟国に侵入することはあった話。ただ平和な時間が続けば続くほど、人の感覚は麻痺してしまう。それが当然であると。
「意識を変えるには、現実を知ること――――ですか?」
帝様は静かに頷いた。
それは、……あまりにも厳しいのではなかろうか?
***
蘇芳様と一緒に牛車に揺られながら帰る。蘇芳様は、帝様の考えをご存じなのだろうか?
「考えごとかい。紫」
「……蘇芳様は、帝様の考えをご存じなのですか?」
「まあ、ね……僕自身は青羽の君に会ったことはないけど、あの方の結界がとても見事なものだというのはわかるよ。小さい頃から見てるからね」
「でもそのせいで母は、斎宮を追われたと」
「青羽の君と同じだけの結界を作ることは難しい。でも一人で無理なら、みんなでやってみたら良かったんじゃないかなぁってね」
「斎宮を複数立てるということですか?」
「うちの斎宮候補、西郷満月《さいごうみつき》だけでは足りないからね。それに今さらほどほどの結界なんて、民は望まない」
結界を張り直すことは急務。斎宮候補の筆頭は西郷家の姫だけど――――
ガタン! と激しい揺れと共に牛車が止まる。
牛車の中で転がりそうになったが、蘇芳様が支えてくれたおかげでなんとかなった。
「どうした!」
蘇芳様が外に声をかける。一体なにがあったのだろう? この時間だと夜盗とか? いや、最近は猩猩が現れるせいで、夜盗も出ないと聞く。
それならなぜ、牛車は止まった?
「……外からの返事がない。蘇芳様、動いちゃダメです」
「一応ね、僕でも刀は扱えるんだ」
「夜盗だったらきっと声かけてくれますよ」
私は牛車の御簾をそっと開ける。牛車の前では車副の二人が刀を抜いていた。しかし体がガタガタと震えているのがわかる。
彼らの視線の先、月明かりの下に大きな影が複数。
明らかに人ではない。
「猩猩……?」
「夜盗ではなさそうだね」
私たちのつぶやきが聞こえたのか、車副が振り返る。
「み、宮様……お逃げください。我々が……我々がお守りいたします!!」
「生憎と、君らを見捨てて逃げる主ではないんだよ」
「そうです。それに、私だっていますよ。お手伝いします」
「宮様あああぁぁ」
この行動は正しくないのだろう。本来なら蘇芳様を無事にお屋敷まで送り届けるのが正しい行為だ。でも二人を見捨てて逃げることも、私にはできない。
私にできることがある。私にしか、できないこと。
『タスケテ……ダレか タスケテ』
『アッチだ アッチニイルゾ』
『イタい イタい イタい』
複数の影が様子をうかがいながらこちらに近づいてくる。
その影が口々に話をしているが、意味をなしていない。
いや、違う。奴らが話しているのは、最後の言葉なのでは?
その言葉から察するに、人を喰らっている?
「さて、紫。君はどうする?」
「もちろん、みんな守ります」
私は懐から札を取りだした。その札に息を吹きかける。
札は青白い鳥の姿になり、猩猩に襲いかかった。鳥の群れは猩猩に対して火を吐く。
古来より、妖は炎に弱いモノが多い。
猩猩も火が弱いと教えてくれたのは揚羽たちだった。
『ギャッ ギャッ ギャ』
『ダレカー ダレカー』
『オイシイ コワい ダレか』
まだ、まだ弱い。火力が足りない。
揚羽たちの炎なら、いや、でも揚羽たちを呼んでもすぐには来れない。まだ屋敷まで距離がある。
「……そうだ。蘇芳様、刀! 刀貸してください!!」
「え、でも太刀だよ? 紫には扱えないんじゃ……」
「大丈夫です。雷を呼ぶだけです」
「雷……!?」
「はやく!」
私は蘇芳様を急かし、刀を受け取ると外に出た。
そして呪を唱える。
この距離なら、いけるはず!!
「怨敵退散――――召雷!」
ドンッ! と空から明るい光が地面に刺さる。
そのギリギリで私は懐に隠していたもう一枚の札を発動させた。
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