囁き少女のシークレットボイス

うみだぬき

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73話 深夜の小学校へ侵入

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 夜の十一時頃、スマホに非通知から電話がかかってきた。

『もしもし…響お兄ちゃんですか?』
『双葉ちゃん?響お兄ちゃんだけど、どうしたんだ?』
『実は…』

 双葉からの電話の後、響はすぐに準備をして双葉の家の家に急いで向かった。

「あ!響お兄ちゃん!」
「こんな夜を遅くにお願いって急用?」

 双葉に詳しい話を聞くと、夏休みの宿題を学校に一つ忘れたらしく、そのことを一華に隠していたが『明日終わってるかチェックするから』と言われ慌てて取りに行こうとしたが、一人では怖いとの事。

「明日の朝に取りに行くのじゃダメなのか?」
「明日朝取りに行ったら、チェックまでに間に合わないと思うの…」

 双葉は唇を震わせ、今にも泣き出してしまいそうだった。
 家での一華がどれほど怖いのか、響には想像も出来ないが恐らく鬼と大差ないのだろう。

「取りに行くのはいいけど、夜に入るってことは不法侵入になるんだが…」
「双葉の一生のお願い!響お兄ちゃん!」

 流石に夜に入るのは世間的にも良くなく、ましてや響は全く学校に関係の無い他人である。
 ここははっきりと断ることが双葉の今後のためだろう。

「お兄ちゃんに任せろっ」

 響は世間体よりも双葉を取ってしまった。


 しばらく歩き、学校に着くと双葉は響を手招きする。
 双葉によると、鍵が壊れているところがあるらしく、そこから入ることが可能とのこと。

「響お兄ちゃん肩車してちょうだいっ」

 塀を乗り越えるため双葉に協力し、周りを気にしながらどうにか入ることに成功する。
 双葉の言う通り、鍵が壊れている部分があり静かに扉を開けた。

「響お兄ちゃんっ、侵入成功だねっ」
「小さい声で話そうな」

 双葉のクラスがあるのは三階、階段を登るだけならすぐにたどり着けるが、カツカツと校舎を歩く声が聞こえてきた。

「双葉ちゃん、一旦隠れて」
「ん?う、うん」

 双葉ちゃんを抱え、体育倉庫の跳び箱の中に隠れる。
 数分経つと、ライトを持った用務員さんのような人物が点検をしに歩いて来た。

「…響お兄ちゃん…よく分かったね…」
「…耳がいいからな…」

 用務員さんは軽く見渡し体育館から出ると、階段を登る足音を立てる。

「もう行ったみたいだから、お兄ちゃんの後ろに静かに着いてきてね」
「…わかった…」

 響の耳の良さをふんだんに発揮し、用務員さんの足音を聞き分けゆっくり階段を登っていく。
 途中途中、違う足音も聞こえてくるが恐らく残業をしている教師でもいるのだろう。

「響お兄ちゃん…待ってぇ…」
「…どうした?」
「…おトイレ…行きたい…」

 響は足音が遠くなったことを確認すると、双葉とトイレに向かった。

「お兄ちゃんはここで待ってるから静かにな」
「…一人怖い…」
「…流石にお兄ちゃんにも出来ないことはあるんだぞ?」

 双葉は足をくねらせ今にも決壊しそうな表情を浮かべ、心の菖蒲に『ロリコンじゃないからな』と訂正し人生で初めて、そして人生最後になるであろう女子トイレへと踏み出した。

「響お兄ちゃん…居る?」
「居るよ」
「まだ居る?」

 双葉から数秒ごとに確認をされるが、響は耳と目を抑えているためその声にビクビクしながら返事を返す。
 菖蒲の時と違い、歌を歌うことも出来ないため耳を抉る勢いで指を突き入れる。

「響お兄ちゃん」
「居るよ」
「響君」
「居るよ…ん?」

 響の肩に双葉の体格では届かないはずの手が置かれ、恐る恐る振り返る。

「響お兄ちゃん何してるのかな?」
「っっ!」

 一華に口を抑え付けられ、どうにか叫び声を免れる。
 一華はいつもと同じ笑顔なのだが、今回は違った意味も含まれていそうだ。

「ふぅー…響お兄ちゃんお待たせぇっっ!」
「双葉、静かに」

 響同様、双葉の口も押さえ付ける。
 観念した双葉は、一華に全てを白状した。

「双葉って子はっ」
「痛いよぉ」

 一華に頭をぐりぐりとされた双葉は涙目を浮かべる。
 ついでにというように、響にも同じ罰をお見舞いする。

「はぁ、もう分かったから…さっさと宿題取りに行くよ」
「「はい…」」

 響をアンテナ代わりにし、三階の双葉の教室にたどり着いた。

「あっあったよ!」
「良かったな」
「あ、安心したらまたおトイレ行きたくなってきちゃった…」

 一華に『今回は一人で行ってきなさい』と圧をかけられ、肩を震わせながらトイレへ向かって行った。

「響君、足音は聞こえる?」
「いや、もうしないな。帰ったんじゃないか」
「なら安心だね」

 夜の校舎内から見下ろす校庭は、背徳感とほんのり恐怖感を帯びており、アブノーマルな雰囲気に包まれる。

「また双葉が迷惑掛けちゃってごめんね、てっ何回これ言うんだろうねっ」
「何回でもいいぞ」

 一華は校庭を眺めながらボソッと呟く。

「私、そういう優しい響君…
「っんは!?そ、それはどういった意味合いでの?」
「ねぇね、響お兄ちゃんおまたせっ」

 タイミングがいいのか悪いのか、双葉がトイレから帰ってくる。

「それじゃあ帰ろっか」
「うんっ」
「ちょ、ちょっと」

 一華は家に着くまで響の問いには答えず、双葉を家に帰してからも教えてくれなかった。
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