囁き少女のシークレットボイス

うみだぬき

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84話 『林』に『間』と書いての林間学校

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 いつもは退屈な午後の授業だが、今はクラスの全員がワイワイと心を踊らせていた。

「そろそろ林間学校が始まるぞー」

 四郎のその言葉にイベント大好きっ子の生徒たちが歓声を上げる。
 林間学校といえば山を登って火を囲み、カレーを食べて終えるといった比較的簡素な思い出しか浮かばない。

「響さん!林間学校ですよ!林間の学校です!」
「『林』に『間』って書いての『林間』か?」
「その『林間』です!」

『林間』という言葉にゲシュタルト崩壊を起こすところで、四郎が続きを話し出す。

「林間学校って言っても、山登って火を囲って、カレー食うだけだけどな」
「やっぱり予想通りか」

 心の中の響とほとんど同じことを言う四郎に、やや親近感を覚える。
 しかし昔と違って今回はただ楽しむだけ、何かに気を使ったり怯えたりなどはしなくてもいい、それだけで心のボルテージは徐々に上がっていく。

「やることは決まってるからあとは好きにしてくれ。部屋割りとか何時に外に抜け出すとかなー」

 教師として間接的ではあるが、深夜徘徊の助長をするのはいかがなものかと思うが、生徒としては楽しみが増えるため感謝をしたいものだ。

「部屋は四人ずつで別れてくれな、どっかは三人になるはずだ」

 四郎が手をパンと叩き、自由タイムがスタートすると一目散に佑馬が飛んで来る。

「俺と寝ようぜ!」
「気色の悪い提案をしてくるな」
「っ語弊だって!俺はただ響との蜜月を」
「より気色悪くなったぞ」

 二人は確定したが、残り二人の目星が思い浮かばない。

「今思ったけど俺、佑馬しか男友達居なかったのか」
「俺がオンリーワンってことか!?っきゃーー!」
「たった今男友達は居なくなりました」

 佑馬に身体を揺すられていると、周りは次々に部屋が決まっていく。
 そんな時、一人席に座ったままの者が居た。

「笹倉、まだ決まってないなら一緒の部屋にならないか?」
「いいのか?僕が入ったら迷惑じゃない?」
「佑馬は気にしないと思うぞ、もちろん俺もな」

 佑馬は響の後ろで赤べこのように頷いていた。

「…なら、お言葉に甘えて」
「よし、他も決まったみたいだし、俺らは三人組で泊まるか」

 無事に部屋決めが終わり、続いて林間学校の内での大まかなリーダー決めが行われた。

「炊事のリーダーは一華やってくれる?」
「任せてっ!料理は得意なんだから!」
「山登りのリーダーは夏目でいいんじゃない?体力あるし、馬鹿だし」
「透子さんそれは褒めてるのか?」

 次々にリーダーが決まり、ルートや泊まる旅館の話になり、浮き立つ気持ちを抑えられない。
 隣に座っている菖蒲も同じ気持ちらしく、見るからに浮き足立っていた。

「菖蒲、山登れるのか?」
「いざという時は響さんの足を引っ張ります!」
「最悪な宣言だな」


 それから林間学校までの日数を毎日指折り数え、ついに林間学校当日となった。

「お前ら重いカバン持って山登り頑張れよー」
「四郎先生なんで手ぶらなん?」
「前もって旅館に荷物送っておいたからだ」

 軽い足取りでスキップをしながら登る四郎の後ろで、足を酷使しながら進んで行く。

「まだまだこっからだぞー!頑張れ頑張れ!」
「…佑馬さんはなんであんなに元気なんですか?」
「疲れを知らないんじゃないか?馬鹿だし」

 何も考えていなさそうな佑馬だったが、遅れているクラスメイトを見つけると、すぐに駆け寄り荷物を半分持つという紳士的な行動を見せる。

「馬鹿は言いすぎたか」
「言いすぎましたね」

 心の中で佑馬に『悪かったー』と適当に謝り、足を前へ前へと動かした。

「…響さーん……待ってくださーい…」
「早かったか…って菖蒲どこいんだよ」

 隣に居ると思っていた菖蒲は、クラスの集団の後ろをのそのそと歩いていた。
 歩みを止め、菖蒲が来るのを待つことにした。

「…響さん、約束通り足を引っ張らせていただきますね」
「分かったから荷物貸せ」

 菖蒲の荷物を背負い、クラスの集団にゆっくりと着いて行く。

「だいぶ歩いたし、もうそろそろかもな」
「…響さーん」
「菖蒲?」

 再び響の横には菖蒲の姿が無く、ジト目で後ろを見るとやはり菖蒲が遠くに見えた。

「…もう…ダメみたいです…」
「まだ死ぬな」

 集団との距離はどんどん離れ、菖蒲の体力回復を待っていては間に合わなくなる。
 最終手段として、響は荷物を前に背負うと菖蒲の前で屈む。

「ご乗車ください」
「いいんですか?この山道で…私そこそこ重いですよ?」
「ここで野宿するのは嫌だろ?」

 菖蒲は申し訳なさそうに響の背中に乗り込む。

「響さん、私にはこれしか出来ませんけど…」
「なんだ、仰いでくれるのか?」

 そう言うと菖蒲は、響の耳元で激励をする。

「頑張れっ頑張れっ!響さん頑張れっ!」

 息が切れているためか、やや艶っぽく感じる菖蒲の応援に足が勝手に進んで行く。
 旅館に着く頃には、菖蒲は響の背中ですやすやと寝息を立てていた。
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