ベータの僕がオメガだけのハレムに嫁いだ理由

Natuめ

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もう、僕は映らない

「……陛下」

「――ルティ。きたのか」

 ソーマがいる部屋には、たくさんの人が集まっていた。
 国に仕える家臣たちなのだろう。
 彼らはやってきたルティを、一斉に睨め付けた。

「…………」

 その威圧感たるや。
 ルティは思わず半歩下がってしまったほどだ。
 だがもちろん、ここから立ち去るなんて選択はない。
 ルティはソーマの元へと、勇気を出して足を進めた。
 部屋は長方形で、中央に赤い絨毯が敷かれている。
 一番奥に豪華な黄金で出来た椅子が置かれており、そこにソーマは座っている。
 赤い絨毯を真ん中に左右にたくさんの人たちが別れており、その間をルティは進んだ。
 痛いほどの視線を受けながら。
 ソーマはルティがやってくると手招きし、自らの膝の上に座らせた。

「ルティ。聞いたと思うが……君の兄が見つかった」

「…………はい、陛下」

 震えるルティに気づいたのだろう。
 ソーマが優しく頭を撫でてくれる。

「大丈夫だ。……君が心配するようなことはなに一つない」

「…………」

 それには返事をすることができなかった。
 きっとこれから起こることを、ルティは受け入れなくてはならない。
 たとえどれほど心が引き裂かれようともだ。
 黙り込むルティに、ソーマが声をかけようと口を開いたが、それよりも早くどこかから声が聞こえた。

「陛下! ぜひとも本当の運命のつがいに会っていただきたい。……会えばわかります。あなた様がその腕に抱くべきものが、誰なのかを!」

 そう言って前へと出てきたのは、見覚えのない初老の男だった。
 彼はソーマの近くまで足を進めると、ルティを強く睨みつける。

「陛下はおわかりですね? あなた様の隣にいるべきが誰なのかを」

「やめろ。その話は――」

「陛下はオメガとつがいとなり、お子をなさねばなりません。そのようなベータは、陛下のおそばにいる価値もないのです!」

「やめろと言っているのがわからないのか!」

 ソーマの怒鳴り声を聞いて、ルティのほうが驚いてしまった。
 彼が怒鳴り声を上げたのはこれで二回目だ。

「その件については、ルティの検査結果が出るまで待てと――」

「待つ必要などありません! 陛下……せっかく我が息子があなたの運命のつがいを見つけたのです。どうか運命に従ってください。それこそがアルファの正しき姿ではないですか!」

 今の発言で、この男性が誰なのかがわかった。
 彼はザインの父親だ。
 だからこんなにも、ルティを毛嫌いしているのだ。

「運命のつがいなどそう見つかるものではありません! どうか信じて……。その欲に身を任せてください。それこそがこの国のためなのですから」

「そうです、陛下!」

 次に現れたのはザインだった。
 彼は自らの父の隣に立つと、ソーマへと懇願する。

「せめてオメガをおそばにお置きください。そうでなければ……ボクたちハレムのオメガがここにいる意味がありません」

 ザインのいい言いたいこともわかる。
 ハレムに集まっているオメガたちからしてみれば、今のルティは彼らの存在を否定していることになるだろう。
 だからもっとちゃんと、覚悟を決めてからにしたかったのに。
 ルティがベータであると確固たるものがないと、ソーマは諦めきれないだろう。

(……あ、でも、そうか。……兄がきたのなら、どちらにしても、か)

 ルティの気持ちもソーマの気持ちも、もう待つ必要はない。
 運命に抗うことなんて、誰もできないのだから。

「陛下! 運命のつがいとお会いください。きっと、陛下は彼を求めます。それこそが運命なのですから!」

「――だから、私は……!」

 ソーマはやはり納得はしない。
 わかりきっていたことだが、うれしくてつい笑ってしまった。
 それに反応したのはもちろんザインだ。

「なに、笑ってんの? オマエのせいでこの国が今にも崩壊しそうだっていうのにさ! ――ほんと、だから無能なベータは……!」

「ザイン。私のルティを侮辱することは許さない」

「――っ、陛下! ですが……!」

 また言い合いがはじまりそうになったので、ルティから動くことにした。
 ソーマの膝から降りると、彼の足元にひざまづく。

「陛下。……どうか、兄と会ってください」

「……ルティ。だが……」

「約束が少し早まっただけです。……なにも不都合はありません」

 苦痛に歪んだソーマの顔を見るのも、きっとこれが最後だ。
 これから先は、兄の前でしあわせな顔をする彼が見られるはず。
 それでいい。
 もうじゅうぶん、ルティは愛された。

「どちらにしても、今この場で兄に会わなくてはみなさん納得されないと思います。……僕も、兄に会いたいです」

「…………そう、だな。わかった。――呼んでくれ」

 ソーマの言葉に、ザインの父は表情を明るくした。

「かしこまりした! さあ! 未来の国母をお呼びするのだ!」

 兄の登場を人々が待つ中、ルティの手をソーマが握った。

「ルティ。私の運命は君だけだ。……信じてくれ」

「…………ありがとうございます、陛下」

 頷くことはできないけれど、それでもソーマの気持ちを少しでも軽くしたかった。
 握り返した手に、さらに力が込められる。
 その時、扉が開き部屋に一人の男性が入ってきた。
 外見はルティにそっくりで、でも明らかに違う。
 この場にいるアルファの人々が、彼の一挙手一投足に目を奪われる。
 それくらい、やはり兄はすごいオメガなのだろう。
 そんな彼はソーマとルティの元までやってくると、美しく微笑んだ。

「はじめまして。俺がルティの兄のメルティンです。――あなたが、俺の運命のつがいですか?」

 ルティはゆっくりと、兄からソーマへと視線を向けた。
 彼がどんな表情をしているか、見ておきたかったのだ。
 そしてその行動をひどく後悔した。
 だってソーマは、メルティンを見て大きく目を見開いている。

(――ああ、終わったんだ……)
 
 あの大好きな黄金の瞳に、これからは兄しか映らないのだと覚悟した。
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