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ごめんね
ソーマの発言に、誰もが口を閉ざした。
まさか本物の運命のつがいを前に、彼がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。
それはルティもだった。
青ざめた顔のまま、ソーマを見つめる。
(……どうして)
運命のつがいとは、会えばわかるのではないのか?
抗えないほど、乞い求めるものなのではないのか?
どうしてソーマは、そんなことを言うのだ。
呆然とするルティを背に庇うように、メルティンが立つ。
「――少し、弟と二人で話をさせてもらえませんか?」
「ダメだ。……私はまだ、君を信用していない」
ソーマの言葉に、メルティンは驚いたように目を瞬かせる。
「……俺があなたの運命のつがいなんですよね?」
「――それは……」
ソーマは否定しない。
困惑したように唇を震わせるが、なにも言うことはなかった。
そんなソーマに、メルティンは小首を傾げる。
「……まあ、それはいいですけど。――俺がルティに害を与えることはありません。ですから話をさせてください」
「信じられない。ルティを連れ出すかもしれないだろう」
「――陛下」
これ以上は平行線だと、ルティはメルティンの隣に立った。
「大丈夫です。……ですからどうか、兄と話をさせてください」
「…………ルティ」
心配そうなソーマに、ルティは微笑みを返した。
「勝手にいなくなったりしません。絶対に」
「…………わかった。一室用意させよう」
ソーマの指示に従い、侍女たちが慌ただしく動き出す。
すぐにそばの部屋が用意されたらしく、ルティとメルティンはそちらへと向かう。
「――ルティ」
だがその前にソーマに呼ばれた。
振り返れば、彼はまるで迷子の子どものような不安そうな表情をしている。
「……約束だ」
「…………はい、約束です」
ルティは名残惜しげにソーマと離れて、メルティンと共にとある一室へと入った。
簡易的な執務室のような場所で、中はテーブルとソファ、無数の書物が置かれている。
そこにメルティンと二人きりになったルティは、彼と真正面から向き合った。
「あらためて……ルティ。本当にごめん」
「……兄さん、どうして言ってくれなかったの? ちゃんと話してくれてたら……こんなことにはならなかったのに」
メルティンはルティから視線を逸らす。
「……ごめん。ルティに言ったら、両親にバレるかと思ったんだ。そうなったら、もう二度と海を見れなくなるから……」
「――っ」
仕方ないことだ。
ルティはいつだって、親の言うとおりに生きてきた。
彼らに苦言を呈すこともせず、ただ言われるがままに。
だから兄がそう思うのはわかる。
けれど……。
「僕を信じてくれないのはしかたない。……でもそのせいで、僕たち家族は死んでいたかもしれないんだよ!?」
「わかってる! だから……本当にごめんって……」
「……兄さんの気持ちはわかるよ。でも……そのせいでどれだけ大変な思いをしたか……」
殺される覚悟を持ってハレムにきた。
嘘がバレて処刑される日を待つだけの日々。
どれほど馬鹿にされようとも、我慢しなくてはと思った。
ザインからひどい扱いを受けても、自分は本当のオメガではないからと……。
自尊心を折られるあの瞬間は、心地のよいものではない。
「もっと……うまくできたんじゃないのかって……!」
「……ルティ」
「兄さんの夢が叶ってうれしいよ! でも……そのせいでこんな……っ」
だがそれよりも、なによりもつらかったのはソーマとの出会いだ。
彼にどれほど愛されようとも、どれほど愛していても、ルティの心の中には兄の存在があった。
結局今、ルティのいる場所は兄のものであるという事実が、なによりも苦しめてくるのだ。
最後には兄に返さなくてはならないという事実が、本当につらかった。
「……ルティ。本当にごめんね。俺のせいで、お前をこんなに苦しめるとは思わなかったんだ」
気づいた時には、ルティの目から涙がこぼれていた。
ポロポロと涙を流し続けるルティを、メルティンが優しく抱きしめる。
「俺のせいだ。本当にごめん。……俺が、お前を置いて行ったから……」
「――っ! 一緒に行こうって……言ったじゃないか! ――……でも、あの言葉がどれほど兄さんを傷つけたかもわかってる。……ずっと考えてた」
メルティンは何度も首を振った。
「ルティのせいじゃない! ……俺がわがままだったんだ。家族のことを考えずに、自分のことを優先した。……悪いのは俺だ。本当にごめん」
「…………うん。僕も、ごめんね」
メルティンからその言葉を聞いて、ルティの中にあった熱がゆっくりと下がっていった。
いろいろあったけれど、メルティンの気持ちもわかる。
ハレムに入ったら自由はない。
だから彼にとって、夢を叶える最後のチャンスだったのだ。
それがわかるからこそ、許そうと努力できた。
「ルティ……! ありがとう。本当に、本当にごめん」
「……僕のほうこそ、ごめんね。――おかえり、兄さん」
メルティンから抱きしめられて、ルティも彼の背中に手を回した。
懐かしい温度。
懐かしい香り。
この世界にたった一人の、ルティの大切な兄。
(……兄さんだ。本当に)
ついにメルティンがハレムにきた。
それはつまり……。
(もう、僕がここにいる意味はない……)
まさか本物の運命のつがいを前に、彼がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。
それはルティもだった。
青ざめた顔のまま、ソーマを見つめる。
(……どうして)
運命のつがいとは、会えばわかるのではないのか?
抗えないほど、乞い求めるものなのではないのか?
どうしてソーマは、そんなことを言うのだ。
呆然とするルティを背に庇うように、メルティンが立つ。
「――少し、弟と二人で話をさせてもらえませんか?」
「ダメだ。……私はまだ、君を信用していない」
ソーマの言葉に、メルティンは驚いたように目を瞬かせる。
「……俺があなたの運命のつがいなんですよね?」
「――それは……」
ソーマは否定しない。
困惑したように唇を震わせるが、なにも言うことはなかった。
そんなソーマに、メルティンは小首を傾げる。
「……まあ、それはいいですけど。――俺がルティに害を与えることはありません。ですから話をさせてください」
「信じられない。ルティを連れ出すかもしれないだろう」
「――陛下」
これ以上は平行線だと、ルティはメルティンの隣に立った。
「大丈夫です。……ですからどうか、兄と話をさせてください」
「…………ルティ」
心配そうなソーマに、ルティは微笑みを返した。
「勝手にいなくなったりしません。絶対に」
「…………わかった。一室用意させよう」
ソーマの指示に従い、侍女たちが慌ただしく動き出す。
すぐにそばの部屋が用意されたらしく、ルティとメルティンはそちらへと向かう。
「――ルティ」
だがその前にソーマに呼ばれた。
振り返れば、彼はまるで迷子の子どものような不安そうな表情をしている。
「……約束だ」
「…………はい、約束です」
ルティは名残惜しげにソーマと離れて、メルティンと共にとある一室へと入った。
簡易的な執務室のような場所で、中はテーブルとソファ、無数の書物が置かれている。
そこにメルティンと二人きりになったルティは、彼と真正面から向き合った。
「あらためて……ルティ。本当にごめん」
「……兄さん、どうして言ってくれなかったの? ちゃんと話してくれてたら……こんなことにはならなかったのに」
メルティンはルティから視線を逸らす。
「……ごめん。ルティに言ったら、両親にバレるかと思ったんだ。そうなったら、もう二度と海を見れなくなるから……」
「――っ」
仕方ないことだ。
ルティはいつだって、親の言うとおりに生きてきた。
彼らに苦言を呈すこともせず、ただ言われるがままに。
だから兄がそう思うのはわかる。
けれど……。
「僕を信じてくれないのはしかたない。……でもそのせいで、僕たち家族は死んでいたかもしれないんだよ!?」
「わかってる! だから……本当にごめんって……」
「……兄さんの気持ちはわかるよ。でも……そのせいでどれだけ大変な思いをしたか……」
殺される覚悟を持ってハレムにきた。
嘘がバレて処刑される日を待つだけの日々。
どれほど馬鹿にされようとも、我慢しなくてはと思った。
ザインからひどい扱いを受けても、自分は本当のオメガではないからと……。
自尊心を折られるあの瞬間は、心地のよいものではない。
「もっと……うまくできたんじゃないのかって……!」
「……ルティ」
「兄さんの夢が叶ってうれしいよ! でも……そのせいでこんな……っ」
だがそれよりも、なによりもつらかったのはソーマとの出会いだ。
彼にどれほど愛されようとも、どれほど愛していても、ルティの心の中には兄の存在があった。
結局今、ルティのいる場所は兄のものであるという事実が、なによりも苦しめてくるのだ。
最後には兄に返さなくてはならないという事実が、本当につらかった。
「……ルティ。本当にごめんね。俺のせいで、お前をこんなに苦しめるとは思わなかったんだ」
気づいた時には、ルティの目から涙がこぼれていた。
ポロポロと涙を流し続けるルティを、メルティンが優しく抱きしめる。
「俺のせいだ。本当にごめん。……俺が、お前を置いて行ったから……」
「――っ! 一緒に行こうって……言ったじゃないか! ――……でも、あの言葉がどれほど兄さんを傷つけたかもわかってる。……ずっと考えてた」
メルティンは何度も首を振った。
「ルティのせいじゃない! ……俺がわがままだったんだ。家族のことを考えずに、自分のことを優先した。……悪いのは俺だ。本当にごめん」
「…………うん。僕も、ごめんね」
メルティンからその言葉を聞いて、ルティの中にあった熱がゆっくりと下がっていった。
いろいろあったけれど、メルティンの気持ちもわかる。
ハレムに入ったら自由はない。
だから彼にとって、夢を叶える最後のチャンスだったのだ。
それがわかるからこそ、許そうと努力できた。
「ルティ……! ありがとう。本当に、本当にごめん」
「……僕のほうこそ、ごめんね。――おかえり、兄さん」
メルティンから抱きしめられて、ルティも彼の背中に手を回した。
懐かしい温度。
懐かしい香り。
この世界にたった一人の、ルティの大切な兄。
(……兄さんだ。本当に)
ついにメルティンがハレムにきた。
それはつまり……。
(もう、僕がここにいる意味はない……)
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