勇者に犬のように捨てられたので魔王を拾いました〜魔王に愛されて世界を救うらしいです〜

Natuめ

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姫と王子

「……えっと……?」

 一体なにが起こっているのだろうか?
 姫は無理やり連れてこられて、怯えていると思ったのに。
 バッドリーは姫を引き剥がすと、しっしっとまるで虫でも払うかのように手を振った。

「魔王様のあのお美しい瞳には、微量ですがチャーム効果があるんです」

「チャーム?」

「チャーム、魅了。魔王様、みんなスキ」

「……あ」

 確かに彼の目に見つめられると、心臓が大きく高鳴った。
 ずっと見ていたいとすら思う。
 あれが魅了の力なのかと、レイモンドは姫を見る。

「だからつがい様にはお会いさせたくなかったのです。……不愉快でしょう? 魔王様にすり寄るものなど」

「え? ……いや、それは」

「よいのです。もちろんそうだと思いますから。ですがご安心ください。魔王様はこの部屋に一度だってきたことがありません。プリンセスを捕まえ、捕虜とした際の一瞬しか顔を合わせていないのですが……」

 バッドリーは姫をチラリと見る。
 彼女はまたバッドリーの元へこようとしていたが、目に見えない壁にでも阻まれているようだった。

「魔王様に会わせて! わたくしの愛を伝えたいのっ!」

「伝えても無駄ですよ。魔王様はあなたなんて眼中にないんですから」

 はぁ、と大きなため息をついたバッドリーは、すぐにレイモンドへ笑みを浮かべた。

「魔王様はつがい様一筋ですので、ご安心ください」

「……え? あ、うん……」

 安心しろと言われても、まだ魔王とは出会ったばかりだ。
 いくら彼がクロとはいえ、まだこんなことで嫉妬するほど強い感情は抱いていない。
 なので心配無用なのだがと思っていると、部屋の奥から誰かが走り寄ってきた。

「魔王に会わせてくれ! 頼む……っ!」

「やれやれ。あなたもですか」

 姫の隣で見えない壁を叩くのは、勇者一行の一人である王子だった。
 同じ部屋にいたのだろう。
 彼もまた、必死に懇願してきた。

「魔王にもう一度だけ会いたいんだ! あの、あの美しい存在を一目……っ、一目でいいんだ!」

 魔王を討ち滅ぼそうと戦った人なのに、ルシュフェルのチャームとはそれほどの力なのだろうか。
 驚くレイモンドの肩を、バッドリーが優しく掴んだ。

「魔王様に元より少しでも好意を持っていないと、こうはなりません。まあ、あの見目ですから、ほとんどのものは好意を抱きます」

「勇者、違った」

「ああ。あの下賤な男は確かに。どうせ魔王様を討ち滅ぼせるのは自分だけだという、ちっぽけな優越感に浸っていたんでしょう」

 大きくため息をつくバッドリーに、レイモンドはふとリチャードを思い出す。
 確かに帰ってきた時に、聖女と結婚すると言っていた。
 やはり彼女のことが好きだから、ルシュフェルの魅了に屈指なかったのだろうか?
 もしかしたらバッドリーの言っていることも、一理あるのかもしれないが。

「まあこんな感じで、捕虜は大切にさせていただいておりますのでご安心ください」

「そうなんだね……。安心したよ」

 安心と言っていいのかはわからないが、つらい思いをしていないのならばいい。
 国と国とのことに、よく知りもしないレイモンドが口出すべきではないのだろう。
 ただ一つ、これだけは言っておこうと思った。

「怪我などないようお願い。……そうでなければ、僕がここにいる意味がないから」

「もちろんでございます。つがい様は本当にお優しいのですね」

 約束してくれるのならばいい。
 それよりももっと気になることができてしまった。

「そのつがい様っていうのは……?」

 魔王城にくるまではレイモンドのことを名前で呼んでいたのに。
 バッドリーはその質問に、ニヤニヤが止まらないという顔をした。

「魔王様よりご命令でございます。つがい様のお名前をお呼びしていいのは魔王様のみ。なので我々は、あなた様のことを、つがい様とお呼びさせていただくこととなりました」

「……そのつがいというのは、魔族にとって大切なものなの?」

 レイモンドの問いに、バッドリーは深く頷いた。

「とても。魔族にとってつがいは力の源そのもの。つがいを持ってこそ、魔物は一人前であり本来の力を発揮できると言われております」

 バッドリーは右手で左胸に触れると、レイモンドに向かって深く頭を下げた。

「魔王様が本来のお力を出すためには、つがいの存在が必要不可欠。つまり我々魔族にとって、つがい様の存在はとても大切なのです」

「……そうなんだ」

 なんとなくだが、つがいについてわかった気がする。
 魔族がつがいという存在を大切にする意味も。
 レイモンドにここまで気を遣ってくれる理由も。

「まあ、いろいろ言いましたけれど、魔族はみな魔王様を敬愛しております。そんな魔王様が心から愛される方を、我々が愛さずにおれますでしょうか?」

「…………なんか、恥ずかしいんだけど」

 そう言われるとなんだかとっても恥ずかしく思えた。
 誰かに心から愛されるなんてこと、今までなかったからだ。
 照れくさそうにほおをかくレイモンドの隣で、ラルフが小さく口端を上げた。

「つがい様、かわいい」

「本当に。お二人のお子様が、今から楽しみで仕方ありません」

「――そ、その話はしないで!」
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