『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第22話

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 部屋に部屋に戻ってから布団の中で本を読んでいると、柚子の残り香がとても心をリラックスさせてくれる。

身体もぽかぽかしていて、懐かしい日本の事を思い出していると【コン・コン】とドアをノックする音が鳴った。

「ヴェル、入るわよ」

「どうぞ、開いてるよ」

「へへへ、来ちゃった~」

照れ笑いしながらのご入場。ちょっとかわいすぎるな。狙ってやってるんならあざと過ぎだ。

「本当に来たんだね。大丈夫なの?」

「知らないわ。私、ヴェルの事に関しては我慢しないって決めたの」

何を我慢しないんだ?てか、我慢してた事があったのか?何度も言う。彼女は10歳の少女だ。落ち着けオレ。

「おお、そうなんだ。お手柔らかにね」

「なにその冷静な対応は。かえって照れるじゃないの!」

なんか照れているのは本当だろうけど、圧がでかくなっているのも気のせいじゃないんだろうな。まぁ、俺はおっさんだからな。これぐらいの事は許容範囲さ。

「はいはい。それで、どうするの?話でもする?」

「何よ冷たいわね。こうすんのよ!!」

ジュリエッタはそう言うと、布団の中に飛び込んできた。

「うっわっ。いきなり?それは反則じゃない?」

「ふふ~ん。驚いたでしょ。ところで何の本を読んでるの?」

「迷宮についての事が書いてある本だよ。今日書類を整理してたら迷宮の事に興味を持っちゃってね。自分の屋敷には無いから読んでみようと思ってさ」

「ふ~ん。相変わらず勉強家ね。尊敬するわ。私なんか、英雄譚とか恋愛系の本しか読まないからね…」

「それが普通の子供だよ」

「あ~。自分で普通の子供じゃないって認めたな。こうしてやる」

ジュリエッタはそう言うと、いきなり俺の脇に手をやりこしょぐり始めた。

「ふはははは、ごっ、なんか分からないけどごめんってば~、やめてやめて」

子供らしい…実に子供らしいが、こんなに楽しすぎていいのか俺の異世界人生…

「それでね。明日の話なんだけど、どこに行きたい?」

「そうだな。スライムが欲しいかな。家で飼える魔物の研究をしてみたいんだ」

テイムとまではいかないが、異世界ロマンじゃないか。魔物を飼うなんてさ。

「初めて働いて手にした給金を魔物に充てるなんて前代未聞だわ。まぁらしいけどね」

「もう何とでも言って。でもあとはジュリエッタの行きたいところに付いて行くよ。あっ、そうだ。美味しい軽食を沢山食べたいかな?」

「んっ?どうして?」

「お母様と町に出かけた時に、ホットドッグを食べたんだ。いわゆるジャンクフードってやつ。あの味が忘れられなくさぁ」

「ふ~ん。ヴェルは変な物を食べたがるのね」

「変なのかい?美味しいと思うよ?」

「本当はね、私そう言った物は食べた事ないんだ」

「そりゃ、人生損してるねぇ。そしたらさ、明日一緒に食べようか?」

「うん。ヴェルと一緒なら何でも食べるよ」

く~っ!嬉しい事言ってくれるね~。惚れてまうやろー。なんと言うかなー、自覚はあるが仕方が無いだろ。50歳の時のままの俺の人格と記憶が完全に残っているんだから。

そもそも子供の視点なんて半世紀以上昔に置いてきたし。いちいち何を考えるにも何をするにも、全てにいいわけから入り、見えない誰かに自己弁護してしまうわけだよ。おわかり?

それから他愛もない話をして、魔力操作で魔力を全て使いきって寝ることにする。これだけは、日課にしているので外せない。

「そろそろ部屋に戻らなくてもいいのかい?」

「我慢しないってさっき言ったじゃない。それに昨日久しぶりに一人で寝たら寂しかったのよ。ヴェルは寂しくなかったの?」

言葉だけ切り取ったら完全にR18だな。

「そう言えば、久しぶりに一人で布団に入ったら、少し寒かったよ」

「何よ、私はヴェルを暖める道具じゃないんだからね」

「道具はこんなに柔らかくないよ。でもちょっとは寂しかったかな」

そう答えると、ジュリエッタは頬を赤く染める。

「へへへ。そうやっぱり」

チョロい!あまーい!何だか最近こんなやりとりが多いがそれが今は楽しい。それから照明を消して布団にもぐる。

「先に言っておくけど明日目が覚めて私が居なくても驚かないで。バレないようにもだけどウェールズの面倒を見ないといけないから」

「へ~。ちゃんとお姉ちゃんしてるんだ」

「当たり前でしょ。弟の面倒ぐらい見るわよ。お母様と交代で朝食を食べる事になったから、ヴェルは起きたら食堂へ向って。ちなみにビュッフェスタイルだから好きな物を食べるといいわよ」

「そりゃ、朝から凄いな~。楽しみにしてるよ。それじゃおやすみ」

「おやすみなさ~い」

いやあ。ほんとホテルみたいだ。まあ誰に言っても通じないだろうから言わないけど、夕飯は高価なコース料理、柚子入りの大浴場、朝はビュッフェ、旅行パンフレット風に言うなら朝食バイキングかな。それに行き届いた部屋とベッド。な?どこの観光ホテルのプランだよ。

優雅な気分で魔力を消費しだすといつもながら気絶をするように寝てしまった。いや気絶なんだけど。

 
 翌朝、目が覚めるとジュリエッタは居なかった。目覚まし時計も無いのによく起きれるものだ。ちなみに手動巻きの時計は部屋にある。

顔を洗い、今日のデートに備え普段着を来て行こうとしたけど、もしかして伯爵家の屋敷の中では失礼にあたるのではないかと考え直して、いつもの貴族用の一張羅に着替えた。

着慣れないせいか、どうも馴染めないんだよな。しかも10年以上忘れてた肩がこるというおまけ付き。

それから共同の浴室にある洗面台で顔を洗い、歯を磨く。この世界では木製の歯ブラシを使い塩で磨くのが一般的だ。しょっぱいが慣れた。

二階の客室から階段を下りて食事の間に行くと、伯爵夫人とすれ違った。

「おはようございます」

「あら、おはよう。今ジュリエッタと交代してくるから、先に好きな食事を皿に取って待っているといいわ」

「ありがとうございます」

それから、机に置いてあるお皿を貰い、パンを貰って好きなおかずを取る。うっわ俺の苦手なナスがある。これはパスだな。

日本にいた時、一度冷めたてんぷらのナスを食べてから、あまりにも印象が悪くトラウマとなってしまった。生まれ変わってもそれは変わらない。

それから、飲み物を貰おうと思いドリンクコーナーに行くと、コーヒーのいい匂いがする。両親はコーヒーが苦手のようで、家ではコーヒーのコの字すら見た事が無い。

やったぞ。こんなところで飲めるとは!俺は期待しながら生まれ変わってから初のコーヒーをいただく事にした。

「ブラックで」

一言告げると従者の男性は驚いた後に失笑をする。お前の仕事は笑うことじゃない。早く俺にブラックを渡すことだ。

「ぼっちゃん。コーヒーは大人が嗜む物ですよ。それにとても苦いので子供向きではありません」

と、ちらっと牛乳の方に目をやる。やっぱり何も知らないと思ってるんだろうな。

苦笑しつつ「いや、コーヒーが飲みたいんです。ブラックで」と繰り返し言った。

「知りませんよ。残したら罰が当たりますからね」

そう言いながら、カップにコーヒーを入れて貰った。うむ。コーヒーだ。楽しみ。

いつの間にかそれを見ていたジュリエッタが興味津々だ。

「私は、お紅茶を」

『紅茶におを付けんなよ!』

「へ~。ヴェルってコーヒーが飲めるんだ~。大人アピール?」

「違うよ。今ちょっとイラっとしたのにジュリエッタまでそう言うこと言うのはやめて」

ちょっと感情出ちゃうな。修行が足りない証拠だよ。反省反省。冷静に冷静に。

それからジュリエッタと挨拶を交わして、コーヒーを嗜む。

「うっ、うまっ。うますぎる」

見た目はアメリカンだが、飲んでみるとエルサルバドルと言う銘柄のようなコクと旨味が喉を刺激する。

「ほんとに~?ヴェルは年齢を偽ってない?」

「いや。見たまんま9歳児だよ。それよりさ、冷めないうちにいただこうよ」

と食事を食べ始めるとジュリッタが聞こえない程度の声で「ああ、やっぱり」と溜息を吐いた。

「どうしたんだい?」

「あらやだ。聞こえた?ナスが嫌いなのバレバレよ」

「ああわかる?ダメなんだよね。嫌いなんだ。好きな人だけ食べればいいと思ってるから、わざわざ取らないよ」

「これだけ料理が並んでるのに、ナスだけ乗ってないからそうだと思ったわ」

そう言ってジュリエッタは、俺の皿にナスを乗せようとしてきた。嫌がらせにもほどがあるだろ。

「好き嫌いは駄目ってば。ちゃんと食べないと立派な大人になれないんだから」

いや、ここは断固拒否だ。婚約したんだろ?ここで食ったら将来普通にナスが食卓に乗るのが目に見える。いや、絶対にダメだ。引かれようがなんだろうが死守しなけば。

「ジュリエッタ、ナスなんて食べなくても歳を重ねれば大人にはなるし、ナスが嫌いな人がみんなダメな大人ってことは無いはずだよ。ナスで摂れる栄養は充分に他で賄えるんだ。それに、例え君が善意でそれをしたとしても、僕に限らず人が嫌いだって言っているのに、嫌な思いをさせて無理矢理食べさせることは正しいことなのかな?」

ごめんなナス、君に恨みは無いけど僕たちは相容れない存在なんだ。許してくれ。

思えばジュリエッタにしてみれば、初めての俺からの拒絶だ(ナスだけど)少し面くらってぶつぶつ言っていたようだが。

「そうね、ヴェルだもんね。ああ、ごめんなさい。もう言わないから午後も楽しく食事しましょ」

「熱く語ってごめん。理解してもらえて嬉しいよ。それでも絶対食べなさいと言われたらどうしようかと思った。ありがとう」

「うふふ。それで変な顔をして食べてるヴェルも見たかったわね」

「いやいやジュリエッタさま、そこはなにとぞご容赦を」

「もう、ヴェルったら」

こうして結果的にジュリエッタには、俺のナス嫌いを深く刻み込んだのだった。
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