『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第47話

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 翌朝、全員揃って朝食を食べてから、コーヒーを飲んで寛いでいると、ウォーレスさんから明日の朝ジェントの町へ戻ると報告があった。

「王都での自分の役目は終ったんでね。そろそろ自領に戻らないとエリザベートがうるさいし、まだウェールズが生まれてから、何一つ父親らしい事をしていないからね」

ウォーレスさんは、苦笑してそう言う。

「陛下に呼ばれてばかりだもの。仕方がないわよ」

「娘がそう言って父親の仕事を理解してくれて助かるよ。また仕事が落ち着いたら、みんなで来るよ。それまで寂しい思いをさせるが、しっかりもののヴェル君がいれば大丈夫だろう。娘達を任せる。がんばるんだぞ」

「はい。寂しくなりますが楽しくやっていけそうです。専属騎士になった以上は命を懸けて守ります。お任せ下さい」

そう答えると、二人は頬を染めて微笑んだ。ウォーレスさんも俺の受け答えに満足してくれたのかにこやかな表情をしている。そんなに大した事は言っていないと思うんだが。

「そう言えば、今日は何か予定はあるのかな?私は今から陛下達に別れの挨拶に行くのだが、昼食も誘われているんだ。もし良ければ一緒にどうだい?」

「今日は午後から、新居の打ち合わせに行く予定ですので、一緒に行くのには時間が足りないような気がします」

「そうか。ならば仕方が無いな。私一人で行くとしよう」

「せっかく誘っていただいたのに申し訳ないです」

「なに、気にする事はないよ」

「そんなわけで二人とも、今から、午後まで時間が空くけど、何か希望はあるかい?」

「それなら、普段着る服が欲しいから買い物に行かない?王都の屋敷にあった服などは、どれも小さくて着れなかったからさ」

俺もジュリエッタも、まさか自分の家を出て、王都にこのまま住むとは想定していなかった。それに3人共成長期だ。去年の服など小さくて着れないので丁度いいタイミングだ。

「そうだね。着の身着のまま王都に来たし、これから王都に住むんだから、買いに行くとするか。マイアはどうする?」

「もちろん行きます。王宮ではお二人のように軽装する事はありませんでしたから、動きやすい服が欲しかったところなんです。それに、与えられたドレスばかりで、自分で服を選ぶのは初めてですから楽しみです」

マイアは、嬉しそうにそう言った。確かに、マイアはいつもヒラヒラした豪華なドレスばかりしか着ていない。貧困するよりは良いとはいえ、常に何かに管理されて、護衛に見張られ気の抜けない生活なんて俺はごめんだ。

『自由が無い生活なんて、ストレスが溜まって耐え切れないだろうな』

生まれてからずっとそんな生活をしてきたのだろうから、マイア自身としてはそれが当たり前の生活だったのだろうが、マイアが気の毒に思えてきた。余計なお世話だがこれからの生活はマイアに自由に生きて貰いたいと思う。

「それじゃ、昼食は貴族街で摂る事にしようか」

「私は、あのから揚げでしたっけ?もう一度食べたいな」

「そうだな。ではウォーレスさん。今日は貴族街で昼飯摂るので、用意は無くて大丈夫です」

「厨房に伝えておくよ。そう言えば言うの忘れていたけど、陛下からコレラ収束の褒美の一部として報奨金を預かっているんだ。私の執務室にヴェル君専用の金庫を買ったので金庫の中に入れておいた。買い物に行くならそこから自由に使うといい。金庫は新居に持って行くといいよ」

「何から何までありがとうございます」

頭を下げて礼を言うと、ウォーレスさんは「私達はもう家族みたいなものなんだから頭を下げる必要はないよ」と、優しく言ってくれた。その優しさが胸に沁みる。

それから伯爵が用意してくれた金庫の中身を確かめる為に、みんなでウォーレスさんの執務室へと向かった。今日の買い物は報奨金の中から出せばいいかな。

執務室に入ると、ウォーレスさんから金庫の鍵を貰い受けた。

「それでは、私は王城に行かなくてはならない。中身は客室で確認するといい。レリク、取り敢えずヴェル君の部屋に運んでおくように。それから御者を兼ねて子供たちの警護を任せる」

「はい。畏まりました」

ウォーレスさんと別れてから、レリクさんに金庫を客室に運んで貰うと、鍵を開けて報奨金の金額を確認してみる。

「わっ、凄い!結構な金額よこれ!」

大量に入った金貨の上に、見た事もない大きな金貨が2枚乗せられていた。まるで宝箱のような中身にびっくりだ。

「光金貨2枚と金貨1000枚と言ったところかしら?」

「そうですね。これだけあれば王都にそこそこ大きな家の1軒は建つでしょう」

二人は俺とは違い冷静だ。庶民感覚なのかも知れないが、3億円ほどこの金庫にはある。一瞬にして億万長者となったわけだ。

そう考えると手の震えが止まらないが、買い物に行くのに無一文では困る。自分ひとりで大金を持ち歩くのは不安なので、婚約者二人にも金貨を3枚づつ渡しておこう。

「それじゃさ、この金貨を3枚ずつ渡すから、自由に使うといいよ」

婚約者の二人は最初は俺のお金だからと、受け取るのを躊躇っていたが、家族なんだから遠慮するなと言うと渋々受け取った。

大人でも30万円なんて滅多に持ち歩かないのに、俺達はまだ子供だ。金銭感覚が狂いそうで少し不安になるが、それならば家計簿とまではいかないが、小遣い帳でも付けるか。

準備が整うと、マイアに用意して貰った馬車で買い出しに向かう。じいやさんは、新居に先に進捗状況を見に行ってくれるそうで、12時に風見鶏に集合することになった。

馬車の中で二人は、どんな服が欲しいのかをテンション高めに話し合っている。客観的に見ると、ジュリエッタがお姉さん、マイアが妹のような感じで見ていて微笑ましい。歳も身分も違うので、一時はどうなるかと思ったけど、二人の仲がよくて良かった。

町に着くと、馬車を馬屋に預けてから、子供服専門店と書かれた店に入る。二人はオレをそっちのけで目を輝かせて服選びを始めた。

俺も自分の着る服を選ぶ為に店内を確認すると、店内のショーウインドウにはスーツやドレスが飾られていて【素材、寸法、お値段の相談を承ります。お気軽に声をお掛け下さい】と、貼紙が張ってあった。

今回は目的や用途が別なので、あらためて店内を見回すと、性別と身長ごとに棚に衣料が並んでいた。身長を計測する目盛りが壁に刻まれていて、測ってみると145cmだった。

『筋トレの影響はなさそうで良かったよ』

今の自分の身長にほっとしながら【150cm~160m】と書かれた売り場へと向った。

俺は、ゆったりめな格好が好きなので、少し大きめの色違いの半袖シャツを5枚と、無難に黒と白の綿の長袖シャツを買う事にした。シルクなどのシャツも売られていたが、成長期なので消耗品扱いでいい。

それにしても、ミシンが無いのにまつり縫いや押し縫いで裾は縫われている。この世界の裁縫の技術が思ったよりも高く、デザインが日本の昔流行ったものと酷似しているのにも驚く。

 パーカーやオーバーオ-ルがそれらにあたるのだが、服飾のデザインだけは中世と言うより、近代に近い。

お金を払って、二人の買い物が終わるまで買った服を預かって貰う。

二人を探すと、店員さんに試着を希望していたようで、二人とも数点の服を手に持って試着室に入って行った。

今となっては遥か昔だが、日本にいた時にも女性とのデートで幾らかはこのような経験した事はある。どこの世界にいってもこのあたりは変わらない。

人によっては大変だと感じるかも知れないけど、意中の女性が着飾って美しく見えるのは嬉しいものだ。我慢が我慢にならないと言うか、実際に今も待ち時間が暇ではあるが苦にはならない。

まあ何割かは前世で叶わなかった自分の子、あるいは孫が着飾るのを見る親や祖父の気持ちに似た部分も無いわけでは無いが。

そんな事を思いながら、立ったまま何もしないでいると店員さんに呼ばれて、試着室の前にあるソファーに案内された。机にはオレンジジュースが用意されていて、貴族街にある店はこんなサービスもあるんだと感心する。

それからしばらく待つとジュリエッタが試着室から出てきた。春らしく若葉色のワンピースを着ていて良く似合っている。

「どうヴェル。似合うかな?」

「春にはぴったりの色で、いいんじゃないかな?似合ってるよ」

「ふふふ。それじゃこれは第一候補で、他のも着てみるから、また感想を宜しくね」

ジュリエッタは笑顔で試着室に戻ると次はマイアがベージュの半袖のニットと黒のフレアスカートを着て、恥ずかしそうに試着室から出てきた。今までパジャマ以外はドレス姿しか見た事が無いので、思わずガン見してしまう。

「このスカート短いですが、どう思われますか?」

「いやいや。ありだと思うよ。マイアは肌が雪のように白いし似合っていると思うよ」

いや、それを買って欲しい。そんな事を言えないが、そのチョイスはオレ好み。眼福だ。

「それでは、私はこれに決めます。なんだかヴェルが嬉しそうですしね」

お?バレたか。顔に出ていたとは。修行が足りないな。でも逆に言えば顔に出せばオレ好みの格好をして貰えるわけか。

まああれよ。今の自分の状態ってのは心情や知識は大人でもそれをオレ以外知らないわけだから、どこからどう見てもただのこまっしゃくれた子供なのだ。

それからも色々な店を回って、二人は俺の反応を見ながら、1時間もの間ファッションショーを繰り返して、狙い通りに自分好みの服や靴、靴下、下着を買い揃えた。昼までまだ時間があったので今度は新居に必要となりそうな物を買っていく。

結構色々な物を買って散財をしたのだが、必要経費だ。貧乏性だけは転生しても直りそうも無い。

「それにしても、随分と物入りだったな。爆買いとはまさにこの事だな」

「爆買いか~。おもしろい例えね」

「本当ですわね。それにしても買い物は楽しいです。なんと言うか心が満たされる感じですね」

「そうね。私達全員、自由に買い物をした事が無かったから余計にね」

二人は満足気にそう語っていた。ま、自由に買い物を出来るのはお金があってこそなんだけどね。遠慮をするなと言った以上は無粋な事は言わないがどう考えても異常な量だ。

「マイア、アイテムポーチがあって助かったよ」

「ええ。まともに運んでいたら馬車が荷物で一杯になるので、アイテムポーチを持ってきて貰って正解でしたわね」

よくラノベで出てくるような、空間収納的なものは勇者しか使えないようだが、レアアイテムとしてアイテムボックスは存在していた。それにしても馬車一杯だと?なんだそれは?

今までアイテムボックスの存在を知らなかったのは、この皮はSランクの魔物から極稀にしか手に入らない素材で、上級貴族でも引いてしまうような値段で取引されているからなんだってさ。興味がてらマイアに聞いてみる。

「ちなみに、マイアのそのポーチは幾らぐらいなんだ?」

「光金貨3枚はすると聞いています」

3億円だと!たしかに上級貴族でもドン引きするだろう。

「そりゃ、見た事も聞いた事も無い筈だよ」

「そうね。Sランクの冒険者か、大商人しか持っていないわね」

さすが王族だ。オレが金貨数枚持って大金にオタオタしてる間に、9歳児の子供だけのお出かけに3億円のアイテムをホイっと持たすなんて。いや。何かいろいろおかしいよ?脇が甘すぎるだろう?思わず陛下に、いやその前にマイアに30分ばかり説教したくなった。少なくともオレの嫁になるのならその感覚は直しなさい。
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