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第1章 異世界転生

第66話

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最後はおれの番だ。

「ユグドクラシルの刀よ顕現せよ」詠唱をすると、腰にユグドクラシルの刀が装備された。最後に収納した状態に復元されるようだ。

魔法の発動と考えるなら刀よりロッドの方がいいのかなとも考えたけど、敢えて刀のまま魔法を撃ってみる事にした。戦闘中に変形させるなど面倒だし何より非効率だ。

結果として無事魔法は発動し、全ての属性でマイアを上回った。魔法の発動はロッドじゃなくてもいけるってことだ。

ただ、なにしろ手探りなので、最初は発動トリガーが分からず刀ごと誤爆しそうになったのにはちょっと焦った。

やってみてわかったのは、なにしろ勇者チートが半端ないってこと。魔力操作もジュリエッタ同様に細かな調整が出来たし、魔法主体の二人を軽く凌駕する魔法の威力。

やっちまったかな?と、二人は悔しがっちゃうかと思いきや「流石ヴェル。勇者の力は伊達じゃないわね」「改めて惚れ直しました」と嬉しそうにしている。先ほど負けず嫌いと評価したのに、オンナノコはわからんものだ。

シャロンさんとレリクさんは「やってらんねーぜ」と遠い目をしていた。何だか別の方向で申し訳ない。

さて、それはそうと俺なりに検証して分かった事がある。レベルに対して顕現できる魔法の大きさはある程度の上限があるのは先ほど検証した結果と同じで、魔法の発動に対しその威力の総量はいくつに分割しても変わらない。例えるならファイヤーボールの大きさが直径60㎝なら30㎝の火の玉に2分割出来て、威力もそれぞれ一発の半分程度。

時間差攻撃に対しては、5本の矢を顕現させ頭の中で右から①~⑤番まで番号を振り①、②行けと命令すると2本の矢が飛んで行く事が分かった。

長いのか短いのか分からないが、③~⑤までを打たずに放置すると10秒程で魔法がキャンセルされ魔力が回収され戻ってくるようだ。

最初に失敗したとおり、刀に魔力を込めすぎると暴発する。でも一部放したあとの魔法は放置するとキャンセルされる。なぜなのか?しかも魔力の増減が何となく感覚で分かる。数値化されていないのになぜなのか?魔法の世界は奥深く不思議な事ばかりだ。

いろいろと疑問も残しつつ魔法の試し打ちが終わる。

「じゃ、次は剣技を試そうか。ヴェル殿は既に剣技レベル4だ、参考にまで剣技レベル4を見せよう」

シャロンさんは剣の指南書?のページを開くと俺に手渡した。ページを見てみると

属性剣技 レベル4

火炎      (炎を纏わせ属性攻撃) (ウェイトタイム10秒) 切り口から炎が舞い上がる。
氷結      (氷を纏わせ属性攻撃) (ウェイトタイム10秒) 氷を纏い命中すると凍り付く。
雷撃      (雷を纏わせ属性攻撃) (ウェイトタイム10秒) 命中すると雷撃が起こり魔物を麻痺させる。
エアスラッシュ (風を纏わせ属性攻撃) (ウェイトタイム10秒) 振りぬくと風が斬刃の形になり飛んで行く。

と書いてある。


「指南書に書かれてある順番に披露しようか。私の陛下から預かり賜ったレッドムーンは緋緋色金で出来ていて火、水、雷の3種類のレベル6の魔石がセットされている。、風属性は私が持つスキルだ。それではよく見ておくのだ」

オレが「はい!」と答えると、シャロンさんは一瞥して鞘から剣を出す。

いつもは木剣で鍛錬ばかりしているので、シャロンさんが真剣を使うのを見るのは初めてだが、ワインレッドに近い色のその剣は美しかった。

シャロンさんは剣を中段に構え「火炎斬り」と詠唱する。すると剣が赤く光り「ライトエフェクトだと!!」と驚いている間に、シャロンさんはその場で剣を振る。

剣は空気を吸い取るように炎となり、一度振りぬくと炎は消える。

「すんげ~!!烈火○斬刀みたいだ!!」

興奮が止まらない。そりゃそうだろ?シンケ〇レッドの必殺技とライトエフェクトの複合技なんだぜ!アニメで見たフルダイブ型のVRMMOみたいだ!これこそ男のロマンだよ?自分もあれをやるのかと思うと頬が緩む。おれの中のリトルヴェルも勝利の大歓喜だ。

「ライトエフェクト?烈火○斬刀ってなに?なんかカッコいいネーミングだけど、剣に纏っている光の色は魔石を付与した属性によって変わるわよ」

ひとりで興奮していると、まるで子供を見るような目でジュリエッタが遠い目で俺を見る。

そんな事はお構いなしとばかりに「そうなのか?シャロンさん。次お願いします」と期待をこめてお願いをする。

「あっ、ああ。そんなに喜んでもらえるとはな。本当は説明をしたいのだが、後にしようか」

シャロンさんは、察してくれたようで、それから他の属性も試す。

氷結斬り、雷斬り、エアスラッシュの順番で全ての属性の剣技を見せて貰うと、シャロンさんは、今使った剣技の説明をした。

今見せて貰った4つの剣技は、属性剣技と名付けられていて、魔物に魔法攻撃をされた時に各属性に対応した属性剣技を使えば、剣技のレベルに応じて魔法の威力を軽減したり、相殺したりする事が可能である。

そんな説明を上の空で軽く聞き流しながら、おれは属性剣技のビジュアルに想いを馳せていた。まさにファンタジー世界だ。

ただ、制限もあった。

この属性剣技だけではなく、レベル5で覚える連続剣以外の剣技にはウェイトタイムがあって、そのまま連続では同じ剣技は使えない。ただしレベルが上がればウェイトタイムが短縮されレベル10になれば連続使用可能になるようだ。

レベル10になるためにはS級冒険者同等の強さにならなければならないし、逆に言えばレベル10になればS級冒険者になれる。

と思ったら抜け道と言うか、連続切りの剣技と属性剣技の組み合わせは出来るようだ。

「それでは、いくぞ!」

シャロンさんは、連続で5連続剣を振り、最後のトドメで炎を纏わせフィニッシュした。なんだか超かっこいい。

「私が習得している剣技はこんなところだ。それではヴェル殿もやってみよう」

シャロンさんの指導の下、属性剣技を練習する。ここでも勇者チートはガッツリ発動。威力は魔法と同じく1.5倍~2倍の威力があった。剣のような厚い切り口では無く、線の様に切り裂くイメージだ。しかも体感は木刀よりも軽い。

「もう流石に驚かないとは思ったが、その変わった形の剣は出鱈目な性能だな。私のレッドムーンも国宝級のレア度を誇るのだがいやはや正直目を疑うよ。そういえば、ユニークスキルの中に居合斬りってのがあったな。前見せて貰いはしたが、スキルとして使うとどうなるか試してみてくれないか」

興味があったので「了解です」と答え、半身で構えて、間合いを詰めるイメージをしながら岩に向って「居合い斬り」と心の中で詠唱しながら刀を振りぬくと、体が勝手に間合いを詰め、小気味のいい刃鳴りの音と共に岩が音を立てて切り裂かれた。

「こんな感じですがアドバイスはありますか?」

と、言いながら後ろに振り返ると、全員が口ぽか状態だった。

「どうしました?口なんか開けてぼーとして。口に虫が入りますよ?」

「ああ。すまない。あまりにも常識外れな剣技だったからな」

「ヴェル、質問なんだけど、一瞬ヴェルの姿が消えたように感じたけどあれは何?」

「えっ!消えた?間合いを詰めるイメージでスキルを使ったつもりだけど」

「私の目を持ってしても居合いの剣速が早すぎて剣筋が見えなかった。これは私の推測だが、居合と言うスキルは恐らくその剣を抜く、間合いを詰める、斬るまでがスキルなんだと思う。しかし、スキルとなった居合いの威力は異常だな。申し訳ないが剣技を使った手合わせは勘弁してくれないか?私も命が惜しいからな」

シャロンさんが呆れた顔をしてそう言うと、レリクさんも苦い顔をして無言で頷く。婚約者の二人は真逆で満面の笑みを浮かべている。

それから、各属性を纏わせながら居合との合体技を試すと見事に成功した。ちなみに、後でステータスカードを見たら、縮地+居合 属性攻撃+縮地+居合 が増えていた。どうやら剣技創造でスキルを作ってしまったらしい。

「もう、バケモノという言葉しか出ないよ。ヴェル殿は対人戦で剣技を使うのは止した方がいい。相手を殺しかねん」

そんなわけで、10歳にして望まぬ形で勇者、英雄、バケモノの称号を得てしまった。

それから縮地のスキルについて検証を行った結果、効果は4m以内でイメージすれば調整が可能だった。後ろに回り込むのも範囲内だったら可能だ。チートだなチート。レベル表示がないので、これ以上の距離は伸びないのかな?

次の検証の為にマイアに「あーーーーー」と発生して貰い縮地を発動して検証した結果、あーと伸ばす前に目標地点に到達。ならばとシャロンさんに素振りをして貰い、周囲を意識しながら発動してみるとまるで自分以外の時間が停止した様な感覚だった。

これは闇属性である重力魔法の応用なのかとも思ったが自分に対する重力を0にしても抵抗や摩擦を考えると違うんだろう。時空魔法なのか?それとも空間魔法なのか?サブカルチャーの知識が前提だとこれぐらいしか思い浮かばないな。

ま、そうは言うものの、使えるものは使えば良いのだから答えを無理矢理導き出す必要はこれっぽっちも無い。

ひとつ弊害があるとすれば、おれのチート級剣技やスキルは模擬戦含む訓練では禁止、剣技を使った鍛錬は寸止めで、人払いをして行う事が自動的に決定した。ぼっちは嫌だから当面人前での剣技やスキルは封印しようと思う。

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