鬼ノ噺

とりとり

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こは我がものぞ

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月夜の光に照らされながら、湖の側に鮮やかな赤い花が咲いていた。キラキラと、怪しく光を受けている。

一人の鬼が花の側へゆっくりと近づいて来る。
黒い髪がサラリと靡いた。

フゥーーッ

一つの花に息をかけると、チリチリと燃えていき、煙が夜に溶けていく。

たゆたう煙は甘く焦げた香り。

腕をゆっくり上げると、スルリと着物の裾が揺れる。
甘い香りをまとい、鬼の唇が満足げに弧を描く。

グルルル…

「ああ…やっぱり。甘い匂いはお前か、黒鬼」

ギラギラとした目で、妖が黒鬼を見つめる。
全身が黒い毛で覆われ、手足の指の爪は鋭く、歩くたびにジャリジャリと地面を抉る。

妖は牙を隠さずにニヤリと笑う。涎がだらりと流れていた。

「食わせろ。黒鬼。お前はいつも美味そうだ」

黒鬼の黒曜石の如く美しい瞳が、蔑むように妖を見つめる。

「お前は不味そうだのう。ワタシを喰らいたければ、もっと強くなってこい」

「戯言を。喰らうのはこのオレだ」

グルルル。空腹で殺気立っている。妖は獲物に狙いを定めた。

凄い速さで黒鬼に向かって走り出し、鋭い爪で美しい着物ごと切り裂こうと腕を振り上げる。

黒鬼が戦斧を掴んで薙ぎ払おうとした瞬間、赤い塊が妖に向かって飛んできて、妖の胴体を二つに裂いた。

血飛沫が辺り一面に飛び散り、黒鬼の顔にもビシャリとかかった。

「……おい、赤鬼。なんで刀を使わなかった?」
「あ?面倒だったから」

赤鬼は自分の口元にかかった血をべろりと舐めた。

黒鬼は苛立ちながら湖の中へ入っていく。
「折角の香が台無しだわ。まったく」
ざぶんと潜ると、全身に浴びた血を流すようにくるりと身体を廻し、着物を揺らしながら立ち上がる。

月の光を浴びながら髪をかき上げる仕草は妖艶で、赤鬼はじっとその姿を見つめていた。

「お前も早よ血を流せ。身体に弱い臭いをベタベタさせおって、見てられん」

黒鬼は湖からザブザブと歩いてくると、赤鬼の首根っこを掴んで遠くに投げ入れる。
バシャーンと水柱をあげて、赤鬼は湖に落ちていった。

「ほれ、小鬼よ。着物を干さんか」
黒鬼はするりと着物を全て脱ぐと、小鬼が現れるのを待った。
キャイキャイ鳴きながら、すぐに現れる小鬼達。
黒鬼の着物を楽しげに持ち上げながら、木にかけていく。

「俺のも干せや、小鬼ども」
バシャバシャと湖から上がった赤鬼は、ガバッと着物を脱いで放り投げた。

大きな着物が小鬼達の上に降ってきて、重さでベチャリと潰れ、キャーキャー叫んでのたくっていた。

「お前はすぐに喰われそうになるな」
赤鬼は赤髪を搾り水を切ると、ドカリと岩に腰掛け、皮肉げに笑う。

黒鬼は赤い花に再び息を吹きかける。
チリチリと燃えていき、二人の濡れた身体に甘い煙が纏わりつく。

「はん。喰っているのはワタシの方だわ。あんな弱いもん喰う気もせんが。ーーーお前さんも喰われとろうが」

黒鬼は煙を衣のように腕で掬いながら、チラリと赤鬼を見て鼻で笑った。

「あ?お前を喰らっとるのは俺だろうが」
「気付いてないんか。お前は喰らわれとるわ。根こそぎな」

黒鬼はべろりと赤い舌を見せて嗤う。
ピキリと空気が固まった。

赤鬼は片眉を上げて、ゆらりと動く。
「喰らったのは俺だ。お前は俺のものだ」

黒鬼は楽しそうに笑い、目を細める。
「そう言ってる時点でもう、お前はワタシのものなんだよ」

赤鬼が黒鬼に近付く。黒鬼は楽しげに赤鬼の顎を指で掬う。

「お前は誰のものだ?」

「俺は俺のものだ」

「クククッ…そうかい」

「お前は俺のものだ」

「さあて、それはどうかねえ?」





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